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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
三章:【過去】舞踊と仕事の二足わらじ
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13話:仕事、ときどき舞踊

 その後も三途は、ヒュージの仕事をちゃくちゃくと遂行していった。


 戦闘や狩猟が主であったが、ときどき採取や失せ物探しも引き受けた。

 

 戦闘と狩猟のほとんどは、街と外の境界あたりに近づいてきている魔物の駆除だった。

 月華やマデュラに引率してもらっての依頼も、そのうちひとりで引き受けることができるようになっていた。


 ふた振りの刀を優雅にふるって魔物や不届き者を討伐する姿はすさまじくも美しいと評判になり、義兄弟の神流と並んで戦う舞い手として街ではそれなりに名がしれるようになった。


 魔物との命を賭した狩猟で三途は野生の勘や自然の空気の感じ方を身につけた。ついでに魔物の生態系にも多少はかじった程度の知識を得た。

 人間相手の戦闘では駆け引きに心理戦、罠と地形の使い方を頭にたたき込む。こちらが戦わなければころされる。そんな戦場を駆け抜けてきたためなのか、三途には人間相手の命を奪うためらいが薄くなっていった。

 

「ただいま」

 今日も三途は、依頼を終わらせてきたばかりだった。

 依頼を終わらせたら、依頼遂行の報告をする必要があるためヒュージの酒場へ寄る。

「おかえり、三途」

「終わったぞ」

「はいよ。じゃあこっちの依頼書にサインしてね」

 酒場のカウンターを支配するヒュージから書類をうけとる。ヒュージの言われた通りに記名して、これで依頼は終了となる。


「お疲れさま。報酬はコレね」

 ヒュージから報酬金を受け取った。

「これで魔物の脅威におびえることもなくなるね、依頼主さん」

「ああ」

 今回の依頼は例にもれずの魔物狩猟であった。近頃は民家の集中するエリアに獰猛かつ危険な魔物がうろつくようになっていた。


 魔物には下級と中級、上級の3つにランク分けされる。そしてその上をいく規格外という例外が存在する。

 下級や中級であれば、戦闘に慣れていないなりたての人間でも引き受けることができる。

 

 上級の魔物は熟練の戦闘員でなければ引き受けることもできない。

 引き受けることができたとしても、戦闘途中で魔物に敗北し、命を落とすことだってある。

 規格外の魔物は出現率こそ少ないが、発見が確認されると地域どころか国規模の緊急事態となる。


 三途が受けた依頼によると、魔物は上級2体と中級5体の複数を討伐するというものだった。

 通常の依頼であれば魔物の討伐数は多くて2体である。2体といっても上級が2体以上というのはそうそうない。上級の魔物は1体でさえ討伐に時間がかかるというのに、それが複数ともなり、中級魔物とつるんでいるともなると達成確率は格段に低くなる。


 それを月華やマデュラの同行なしに、ひとりですべて討伐することができたのだ。

 これが決定打となり、三途はヒュージの酒場でも屈指の戦闘者として名をあげるようになった。

 

「報酬はこちらね。お疲れさま。またよろしくね」

「助かる」

「そういえばさ、キミがここにきたのって、舞台装置の修理費を稼ぐためだったっけ」

「あ……? ああ、そうだな。あとは生活費の足しにするのもあるけど」

「もうずいぶん稼いだんじゃない?」

「んー、実はもう目標の額は越えてたりするんだ」

「へえ、それはよかった。舞踊をお披露目するときは教えてくれよ。チケット買うから」

「そりゃどうも」

「……うん、それとさ。キミがここでお金を稼ぐ理由が、半分なくなったよね」

「修理費のことか? まあそうだけど。でも生活費を稼ぐのは続けていくから、別にあんたんとこの仕事を辞めることはしないぞ」

「そっかー。よかったー!」

 ヒュージがふっと微笑んで三途にグラスを差し出した。空のグラスにとっとっと、っとジュースを注ぐ。

「……注文してないぞ?」

「サービス。

 私としても、三途君にはずっと続けててほしいと思っていたんだよ。神流君と一緒にね」

「いただきます。……そんなに買ってくれてたのか」

「実際強いからね。うちの酒場も潤ってるし、月華ちゃんもマデュラ爺さんも仕事量が減ってその分森のことに集中できてありがたがってたよ」

「本人はなにも言ってなかったぞ」

「照れくさいんだよ。

 じゃ、またおいで」

「ああ、うん。ごちそうさん」

 三途は酒場をあとにする。


 街から森までの道。何度も通っているためか、三途は目を閉じていても迷わず帰ることができるほどになっていた。

 砂埃舞う道すがら、三途はひとりの女に呼び止められた。三途には見覚えがあった。確か、ヒュージの酒場で何度か見かけたことがある。


「あの、三途……様、ですよね」

「そうだが、何か用か?」

 女はぱっと表情を輝かす。

「よかった……! ヒュージ支配人の言ってた通りの方だわ!」

(あいつ何吹き込んだんだ……?)

 心中ではそう疑問をいただきつつも、つとめてにこやかに対話する。


「私……、えっと、面識はないのですが、以前ヒュージ支配人に依頼を仲介していただいた依頼者です……!」

「依頼……。あっ、そうだったか。どうりでヒュージの酒場で見かけたとおもった」

「わあっ、私のこと、覚えててくだすったんですか!」

「や、顔だけな。名前は……すまん」

「それは仕方がないことです! 依頼者と受注者は基本的に顔を合わせることはありませんから。わたし、時雨といいます。先日、上級魔物の討伐を依頼したんです」

「時雨、しぐれ……。あ、上級2体と中級複数の」

「はい! 自分でも、無茶な依頼をしてしまったと思います。でも依頼を提出したとき、わたしの故郷は本当に危険な状態でした。いつ魔物が故郷の境界線をまたぐか、夜も眠れない日が続いていまして……。

 でも、三途様が魔物を倒してくれたと聞いて、本当にうれしかったんです。おかげで、やっと安心して暮らせます。


 その、報酬でしかお礼ができないんですけど……

 あ、ありがとうございましたっ!!」


 時雨は必死に舌を回らせる。精一杯の感謝を込めて、がばっとお辞儀をした。


 三途にとってはなんと言うことはない依頼だった。

 難易度こそ高いし、魔物の数も通常とはかけ離れた多さだった。だから緊張もすれば苦戦もした。

 だがそれは、依頼を引き受けた以上遂行するのが義務なのだ。

 三途はその義務を果たしたにすぎない。ただ、依頼の内容が非常に厄介だったというだけのこと。


「あの、頭を上げてくれ……。俺は別に、ただ当たり前のことをしただけだ」

「いえ、そのおかげでわたしも街のみんなも今まで通りの生活ができたんです。この感謝の気持ちに、代わりはありませんっ」

「そうか……。いや、俺の働きが役に立ったなら、それはうれしい」

「はい……!

 もし困ったことがあったら、何でも私に申しつけてくださいね」

「ああ、そのときはお言葉に甘える」

「はいっ!」

 じゃあな、と三途は改めて帰路につく。

 

(別に、人助けのためとか、誰かのためとか、そんなきれいなもんじゃない。

 報酬がほしいだけだし、仕事だからやっただけ)

 心中そう言い訳していた。本心だった。

 生活費のために、ヒュージの依頼をこなしていただけにすぎなかった。


 だけど、と三途は思う。


(感謝されるのも、なんかうれしいな)

 ふっと表情を和らげ、月華の屋敷へと戻った。


「おー、お帰り、三途!」

「ただいま、月華」

 三途の帰還を見るや、月華は飛び跳ねて喜んだ。

「魔物の討伐が終わったみたいだな。今日は鍋だぞー」

「やった。月華の鍋はうまいからな」

「そうだろそうだろー! 三途の分はたくさん盛ってやるからな」

「はは、野菜多めで頼むわ」

「まかせろー」

 ほらほら、と月華は三途の背中を押す。


 その日の食卓は賑やかだった。

 月華が鍋をよそいながら、三途に仕事のことをあれやこれやと質問攻めにしてきたことが原因の一つであろう。

 月華だけではない。気難し屋のマデュラでさえ三途を一目おいた。酒は飲めないからこれで、と果実水を注いでくれた。

 ガムトゥはひたすら食事に集中していた。もがもがと咀嚼しながら「おかわり!」と器を差し出しては月華を苦笑させていた。

 仕事の話が一段落すると、神流が舞台の話に切り替えてくれた。


「次の舞台だけどさ、舞台の修理も終わったし、そろそろまじめに考えてもいいんじゃない?」

 そのころには食卓も片づき、食後のお茶でのんびりしていた。

 食器を洗う! とガムトゥが台所に消えていく。台所の方からがちゃんがちゃんと皿の割れる音が続けざまに聞こえてきて、さすがにまずいと判断したマデュラがさっと台所へ向かっていった。


「確かに。……っつーか修理できたのな」

「三途が外で稼いでる間、僕は暇を見つけて舞台作ってたんだよー」

「……道理でお前があんまり酒場に来ないわけだ」

「まーね。こっちは片づいたからそろそろ仕事もらいに行くけど」

「悪い……。ほったらかしで」

「いーよいーよ。これからビシバシこき使うから」

「お手柔らかにな」

「まーかしといて」

 そんでさ、と神流が続ける。


「振り付けとか舞踊の流れとか、ざっくり僕が決めちゃったよ」

「そこまでやってもらってたのか!?」

「ちなみに武士と花の精でやってくから」

「ああそう……。念のため聞くがどっちがどっち?」

「僕が武士、三途は精霊」

「何で!? 花の精ってたしか女だろ!?」

「できるできる。君は女役やらせても絵になるから」

「やめてくんね!? 化粧とかめんどくせえんだよ!」

「大丈夫大丈夫。手伝うから。髪に花飾りめいっぱいくっつけてきれいな着物着れるよ」

「こんな男の女装姿なんて誰が喜ぶんだ!?」

「私はみたいぞ、三途の着物姿」

「月華さん!? 着物っつっても女装ですよ女の着物ですよ!」

「え、それ含めてみてみたいわ」

「決定だね。三途、振り付け表渡しとくから、時間のある時に稽古お願いね」

「拒否権がなかった!」

「じゃあよろしくね♪ ちなみに舞台は再来月くらいを予定してるからね」

「おい!」

「ちなみにチラシも作ってあるよ。演目と役者はちゃんとここに書いてあるから」

「うわあ逃げ道を確実につぶしてきた」

「すごいな! 三途の舞踊! 神流との舞踊! ちゃんと見れるんだな! 楽しみにしてるぞ!」

「ほら月華ちゃんのこの期待に満ちたまなざしを拒否できるかい?」

「う……」

 ごまかしついでに紅茶を飲んだ。ちらっと月華をうかがうと、輝かしい目で三途に期待を向けていた。

 お人好しなのか月華に甘くなってしまっただけなのか、三途はどうしてもそれをむげにすることができなかった。

 

「……まあ、やるからには、ちゃんと舞うけど」

「やったー!! 私特等席買うからな!!」

 湯飲みをおき、しかたねーなと三途は神流から振り付け表を奪うようにうけとった。

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