FULL MOON・Ⅱ
「――ふふっ、何か質問はないかい?」
二人がまた歩き出したので、ついていく。
「うーん…」
「ありすぎて困るだろうねぇ」
記憶喪失の少年が二人。金髪の方が迷いこんできて、赤髪の方がご主人の息子で年上。そしてその赤髪の息子――ロブの、誕生日前夜と当日。魔術を嫌う、魔力を持つ一族の方針。
「……あっ」
「何だい?」
「魔力と魔術の違いって…何なんだろう?」
「ああ、いい質問だねぇ。魔力は生まれ持った能力のことで、魔術は魔力でできることを拡張するための学問みたいなものだよ。まあ、いくらクレメンス家でも、初歩中の初歩は教えるけどね、最低限はできなきゃ“科学”もできないから」
「“科学”……?」
「おっと、それは次の話だ――よかったら簡単なやつでも、教えてあげようか?」
「…………」
「…あんまり興味がないみたいだねぇ。じゃあとりあえず――」
長い一本道の突き当たりが見えたところで、これまた二人は足を止めた。リーゼルが指を鳴らす。
「振り返ってごらん」
「えっ?」
言われるがままに、振り返った。すると――
先程まで通路だったところが、壁になっていた。
「え、えっ……」
「ふふっ、面白いだろう? これも“仕掛け”さ」
リーゼルが手をかざして力を込めると、壁は消滅した。今まで歩いてきた通路が見える。
「すごいだろう? キミにもできるよ」
「――――」
もう一度リーゼルが指を鳴らすと、また壁が現れた。
「壁を“定義”――ターゲットにして、念じるだけさ」
「えっ、でも…」
「お姉さん、やってみて」
セーベルに くいっと手を引かれた。彼らの前では……認めざるを得ないのだろう。手を伸ばし、壁に向かって念じた。
やはり――壁が消えた。
「ふふっ、上手だね」
「……うん」
正直、喜んでいいのか分からない。あまり他人に見せるものではないではないと思っている。
「じゃあ、もうちょっと歩こうか。ここからは絶対にはぐれないでね」
「落とし穴とか…あるから」
そう言って、さらに進んでいく。より複雑な迷路になっていたけれども、二人が正しい方向に導いてくれたので ほとんど関係なかった。奥に行けば行くほど、どことなく不快な感じがした。
「あの……どこに向かってるの?」
「ふふっ、着いてからのお楽しみさ」
少し、引き返したくなった。でも彼らは、何でもないように行ってしまう。はぐれないように言われた以上、ついていくしかないのだろう。
「さぁ、着いたよ」
顔を上げた。そこにあったものは――
「…………―――」
「これが、この家の秘密さ。多くの魂がここで犠牲になった」
「……魂?」
「そうさ、子供の魂だよ」
リーゼルが数歩前に進んで、こちらを向いた。
「強い負の感情や未練を抱いた魂は亡霊として、天に召されずこの世に残るんだ。そんな救うべき魂を、この家は人ならざる道具として利用した」
「……そんな」
「食事も雇い賃も要らないし、どれだけ身体や心を傷つけても死んだりしない。主から分けてもらう魔力だけが、全てなのさ」
セーベルもリーゼルの隣に移動した。
「ぼくもリーゼルも――そのうちの一人」
「えっ……?」
「ま、ボクらが普通じゃないことは もう分かってるでしょ。でも、その話は後回しにして……昔話の続きでもしようか」
やっと本題――二人の少年の話に戻る。
「ここからはちょっぴり甘酸っぱいお話さ。でもこの家のことだから、もちろん暗い影も追いかけてくる。さて、彼らはどうやってその影をかわしていくのだろうね――」




