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Chain -鏡の道化師-【前編】  作者: 関 凛星
Ⅳ. 箱庭の中で眠る
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FULL MOON・Ⅲ

「…おしまい?」


「違うよ。むしろ、ここからが本番さ。今までのは序章に過ぎない」


 地下牢獄の真ん中で、背を向けたリーゼルが笑う。


「あの――」


「なんだい?」


「ウィリアム・クレメンスって、聞いたことがある…」


「ああ、ビリーのことだね」


「うん…。研究資料が一つも残っていない、幻の研究者。同じ苗字(みょうじ)だと思ったら……繋がってたのね」


「そうだよ。彼らのお話の続きも、またしないといけないね」


 と、わたしの横にいたセーベルが口を開いた。


「――ところで、フィオナ」


「?」


「待ち人って、誰?」


「……それは」


 この二人に言っても大丈夫だろうかと一瞬ためらったが、見知らぬ人の方なら別にいいだろうと考えた。


「わたしの…恋人、です」


 少し恥ずかしくなって、思わず顔が熱くなる。


「へぇー、こんな時間に?」


 リーゼルがこちらに振り向いて、ニヤニヤする。やっぱり言わない方がよかったかもしれない。


「えっと、あの……その……」


「それもこんな“いわく付き”の場所で――何か良からぬ事情でもあるのかな?」


「―――――」


「…まぁ、置いとくとするか」


 ……ホッとした。これは知られてはいけない。


「ところでキミ」


「…うん」


「キミ、名前も珍しいけど、見た目も珍しいね」


「…………―――」


 やっぱり、彼らにもそう思われてしまうのか。わたしの姿は――


「いわゆる、アルビノってやつだよね?」


「…うん」


 白い髪に、赤い目。時に好奇(こうき)眼差(まなざ)しに(さら)され、時に(うと)まれた、わたしの姿。


「まあ、ボクたちはそういうの大歓迎だけど」


「実際に見るのは、初めて…」


 二人に少しだけまじまじと見られたけれども、割とあっさりしていた。


 気がつくと、もう牢獄から出ようと向こうまで行っていた。慌てて追いかける。




 地下牢獄を出て、どこかへ続く廊下をゆっくり歩く。


「あの――」


「何だい?」


「入口から(おり)の部屋までのロウソクって…」


「ああ、ちょっと前に、ボクたちで備え付けたんだ」


「えっ?」


「ふふっ、ここにもいろいろ縁があってね…」


「あっ…それから」


「うん?」


 壁に掛かったロウソクが全て同じ長さで、ロウを垂らしているものが一つとしてなかったことが、とても不気味だった――そんなことを訊いてみた。


「ああ、それはね…この地下全体がものすごい魔力で包まれていて、人を含む生命体以外は、どれだけ時間が経っても劣化したり変化したりしないようになっているのさ」


「……難しいのね」


「まあ、モノが朽ちない空間だよ」


 などと話している間に、大きな扉の前に来た。


「この向こうに崖みたいな階段があるけど……その前に、お話の続きだ」


 扉にもたれかかり、リーゼルがうっすら笑う。


「今から話すことは――キミもいずれ向かうであろう場所のことさ」


「わたしも…?」


「うん。キミも先程話した彼らと同じく、“持っている“からね。機会があったら彼らにも会わせてあげるよ」


 どこのことだろう。もしかして――


「…天国?」


「ふふっ、キミは勘がいいねぇ。正解だ」


 リーゼルが嬉しそうに人指し指を立てる。


「この世界には、天国が二つあると言われている。人は死後、魔力を持っているか持っていないかでどちらかの天国に振り分けられるのさ。だいたい、自殺さえしない限りは」


「じゃあ、実験をしていた人たちは…?」


「さぁ…? でも権力者はある程度赦免(しゃめん)されちゃうから、多分セーフだろうねぇ…まあ、詳しいことはまた話に出てくるだろうけど」


 そう言って扉の方を向く。


「……じゃあ、始めようか。魔力を持つ者は、“楽園(Elysium)”と呼ばれる場所へ魂が行き着く。そこで“天使(Celestia)”として()を授けられ、半永久的に、平和に暮らすのさ」


「あれっ…羽は?」


「翼はねぇ、皇族だけが持つことを許されるんだ。あっちでは権威の象徴とも言われているからね」


「そうなんだ…」


「ふふっ…では、改めて。これから語るのは、そんな“楽園”に迷い込んだ彼らの物語。そして――」


「ぼくたちの、過去のお話…」

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