第一章 二話 始まりの日 (後編)
「あ、ありがとうございます!」
ハルノは胸の前で手を合わせ、目を輝かせていた。
俺が見たこと無いほど目が輝いているな…
俺にも、あんな顔して欲しいな…
「いえいえ、勇者として、当然の事をしたまでです。」
「てめーは黙ってろ」
あっ、しまった!つい心の本音が!
ハルノが、(てめーはあっちで、ゴミと話しかけとけ)と、訴えているような、目をしていた。こ、怖いですよ。ハルノさん…
くるりと、向きを変え表情を一瞬で、変え勇者と話を続ける。
村の人達も、勇者を囲み、感謝の言葉を、口々に言う。
「あれ、勇者様、そのお方は?」
勇者ばかり気にしていて、気づかなかったが、隣に黒いフードを被った小さい子供がいる。
「この子は、私の連れです。その…人と話すのが苦手なので、なるべくそっとしておいてください。」
その子は小さく会釈をした。
「そういえば勇者様はどうしてこの村に?」
ハルノが、上目遣いをしながら、そう尋ねる。 あ、あざとい…。
「実は仲間と、はぐれてしまって。背の高い黒髪の奴なんですが…来ていませんか?」
「来てねーから帰れ」
「お前は地獄に還れ」
ハルノに鋭い返しを食らう。
だんだん罵倒が辛くなってきた…
「まーまー。二人とも落ち着いてください。私の為に争わないでください。」
何処ぞのヒロインか。
「ですよねー!私もつい、言い過ぎてしまいました。」
ハルノが一瞬で、ころっと表情を変える。
お、オマエ…
そんな会話をしていると、唐突に
グルルルルルルルルルルルルルルルルル!!
という音が聞こえ、
「な!ま、また悪魔か!」
村人がざわめき始めると、
「す、すいません。私のお腹です…」
んだよ、脅かしやがって。冗談じゃねぇよ。
俺はアイツ(勇者)を睨みつせていると、
「実は道に、迷ってしまっていて。3日間何も食べてないんですよ。」
「そ、それなら私が手料理を振るいます!」
え、今ハルノが言ったか?
「え、本当ですか!」
これは不味いことになった。
「ええ!実は私、料理には結構自信があるんですよ!」
当の本人はこう言っているが、ハルノの手料理は正直いって、ヤバイ。毒かと、思った。
勿論本人には言えるわけがない。言ったら殺されてしまう。他の村人も同じだった。味を思い出して震え出すもの、合掌する人までいた。
「それでは、ごちそうにな」
「いやいやいや!俺が料理するよ!いや、俺にさせてくれ!」
「はあ、なにアンタ?」
「いや、その…な!俺も勇者様の事少し悪く言ってしまったのと、ハルノを助けていただいたお礼を、なぁ!」
勇者に全力で目で訴えると、察したのか
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます。」
「おう、甘えろ甘えろ!」
そうして、俺は1人の人間の命を救った!
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家に帰ると俺特製のカレーを奢ってやった。
フードを被っていた奴はカレーをマジマジと眺めていたがアーサーが食べ出すと、スプーンを持ち、一口食べると、がっついて食べだした。
「オマエ、フードとらねーの?邪魔だろ?」
というと、頭を小さくフルフルと、振ってまたがっつきだした。
流石、3日間食ってないだけであったぶん直ぐに全部食い尽くしてくれた。
「大変美味しかったです。お粗末様でした。」
「お、おう、」
こんなに、礼儀正しくされるとさっせまで散々言っていた俺に、罪悪感を覚える。
「ご馳走していただき、たいへんあつがましいとは、思いますが、一晩だけ、泊めていただきませんでしょうか?一晩だけでも!」
「はぁ?なんで、俺が…」
ついさっきのことを思い出す。
「アンタ、勇者様になんかやらかしたら、ただじゃ済まないからね…!」
「仕方ない、一晩だけな!」
「本当にありがとうございます!」
「1つ質問をしたいのですが、」
「ん、なんだ?」
「この村には用心棒はおられないのですか?」
用心棒というのは街や村などで、悪魔から村人を守るためにつけられる護衛の人の事だ。大きな街ではいるらしいが、こういう小さな村だと、なかなかいない。
「こんな小さな村に居ると思うか?」
「おられないのですね。でしたら、」
アーサーは自分の手持ちから何やら探りだし、一本の剣をとりだして、机の上に置いた。
「これを、貴方に譲ります。」
「な、なんで、俺だよ?」
「貴方は悪魔が、現れた時に、逃げたのではなく、ハルノさんを助けるために走り出した。」
「だからまた、悪魔が来たとしても貴方なら倒すことができる。そう思ったまでです。」
「受け取って頂けますか?」
「…ああ、分かった。有り難く頂く。」
「…はい。」
その時のアーサーはとても優しく、微笑むような顔をしていた。
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飯も片付け終わって、1枚しかない布団を敷くと、「あ、私達は寝袋があるので」と言った。寝袋あんなら外で寝れよ…。
部屋の電気を消して、布団に入ると、
「貴方にとって勇者はどういう存在ですか。」
と、いきなり尋ねてきた。
「どうって。何、正直言っていいのか?」
「構いません。」
「金に目が眩んだゲス野郎。」
「貴方は、配慮という物を知らないのですか……?」
なんだよ、オマエが言えって、言ったんじゃん。
「実は僕が、勇者じゃなかった頃も、だいだい同じ気持ちでした。」
「金に目が眩んだゲス野郎って?」
「いえ、そこまでではなかったんですけど。」
「父が、冒険家で。一度も会った事がないんですよ。」
最低な父親だな。
「息子を捨てる程、冒険は大切なのかってとっても腹が立ちました。」
「じゃあ、なんで勇者になったんだよ」
そう聞くとアーサーは少し切なそうに、
「故郷の村に大量の悪魔が攻めて来て、村の人、母親までが、殺されてしまいました。」
俺は目をかっと開き、アーサーを見つめた。昼間の明るい顔は全くなく、といっても悲しそうにというわけでもなく、思い出を思い出している、そういう顔だった。
「俺はそれが許せなかった。だから、残った友や、親族を置いて1人で悪魔抹殺の為に勇者になりました。」
「全然正義の勇者ぽくはないですよね。そのときは、復讐心しかありませんでした。」
「でも、旅に出て仲間と出会い、成長して行き勇者の良さを沢山知りました。勇者でなかったら、体験できなかったこともたくさんありました。」
「勇者というのも案外悪くないですよ。」
アーサーはこっちを向き昼間の笑顔を見せた。
それが、アーサーの最後の笑顔だった。




