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疾風のカノン  作者: ひで
2/5

第1話 カノン

修正版第一話です。

 ちりちりと焼きつける太陽。

 大人たちは鍬で畑を耕し、農作業に精を出している。

 そんな中、昔ながらの藁ぶき屋根の家々を縫うようにして子供たちが駆け回っていた。


「きゃははっ。みんな、行くぞ! 探検だ!」


 小柄な子供が、木の枝を剣に見立てて振り回し、集団の先頭を走っていた。

 中性的な顔だちをしており、見た目では性別の判断が難しいが、れっきとした男の子である。

 本人もそれを少なからず気にしており、昔はよくそれで村の子供と喧嘩になっていた。

 今ではそれをからかう人間はこの村ではいない。

 名前はカノン。

 今年で八歳になる。


「まってよ〜。はぁはぁ……」


 そのカノンに一生懸命ついて行こうとして息を切らしているのがチョッパ。

 カノンと同い年の八歳である。

 見た目はひょろっとしており、見るからに運動が得意とは言えなそうだ。

 特徴的なキツネ目にうっすらと涙を浮かべてカノンに止まるように訴える。


「そうだぞ。おら、もう駄目……」


 チョッパよりさらに後方を走り、今にも倒れそうなのがゴンス。

 その大きな体が特徴で、その体格は大人とほぼ大差ない。

 年齢はカノンやチョッパの二つ上である。

 体格とは逆に穏やかな顔つきをしており、その性格が如実に現れている。


 その二人の叫びがようやく耳に入ったのか、カノンの動きがようやく止まる。

 カノンは二人の元に駆け寄った。


「何だよ、だらしないなぁ。そんなじゃあ凄い冒険者になれないぞ!」


「無理だよ……、速いよ……。はぁはぁ……」


「おら、学者になるからいいだ。休む」


 チョッパとゴンスはその場にへたり込む。

 その様子を見て、落胆した表情のカノン。


「ちぇっ。せっかく今日はそのまま魔の森にでも行こうと思ったのにさ」


 カノンの言葉に、二人はぎょっとした表情になる。


「駄目だよ、カノン! この前も入ろうとして散々村長に怒られたじゃないか」


「そうだぞ! おら、たんこぶと二時間の正座はもう勘弁だぞ」


「え〜っ。一回怒られたくらいで懲りるなよ。勇気をもって困難に挑んでこその冒険者じゃないか」


「一回どころか、数え切れないくらい怒られているじゃないか……」


「危ないからって、大人たちが、この前、新しい柵を作ってたぞ。絶対おら達のせいだぞ……」


 二人からのジト目にさすがに怯むカノン。


「わかったよ。諦めるよ(今日は)。それでいいだろう」


 その答えに当然だとばかりに頷く二人。


 三人は日が暮れるまで、村の中を駆け回った。




「ただいま、ばあちゃん」


「はい、おかえり。飯出来てるから、手を洗っといで」


 カノンが家に帰ると、祖母のマーヤが優しくそれを出迎える。

 家の中には他の人はいない。

 マーヤとカノンの二人暮らしである。


「ばあちゃん、今日は、――――」


「そうかい、そうかい」


 カノンが話す今日の出来事に耳を傾けるマーヤ。

 この家でのいつもの光景だ。

 しかし、今日は珍しくマーヤからカノンへと話題が振られた。


「カノンや。ヴェルゾさんのところの子供がそろそろ生まれそうだから、明日から私は泊りがけになる。その間のご飯はヴェルゾさんの家で出してくれるそうだから、お前もそこで食べるんだよ」


「わかったよ。明日からしばらくはヴェルゾさんの家に帰ればいいんだね」


 マーヤはカノンの言葉に静かに頷く。



 そして夜、カノンが寝静まったのを横で確認するマーヤ。


「さて、この村待望の若い命の誕生。何としても成功させなくてはね」


 そう呟くと、マーヤも深い眠りに落ちて行った。






 翌日、村の一角で子供たちの声がする。


「だめだよ、カノン。昨日言ったじゃないか!」


「そうだぞ! 危ないんだぞ!」


 チョッパとゴンスが何かを必死にカノンに訴えていた。


「心配性だな、二人とも。大丈夫だって」


「いや、今回は僕はいかないぞ! 行くならカノン一人で行ってくれ!」


「そうだぞ! おらも行かないぞ!」


 魔の森に入ることを二人は断固として反対する。

 しかし、カノンの意志は固かった。


「僕はいくぞ! 何だか行かなければならない気がするんだ」


「じゃあ勝手にしてくれ! 行こう、ゴンス」


「ごめんな、カノン。おらも帰るよ」


 二人はそういうと家へと帰って行った。


「何だよ、二人とも。ついて来てくれてもいいのに……」


 そう独り呟き、カノンは村の出口(と言っても正規の出口では無いが……)に向かっていった。





 魔の森――正式名称はラシークの森。

 ラシークの村に隣接している森で、他の森と比較すると、それほど強い魔物は存在していない。

 しかし、それはあくまで冒険者レベルでの話だ。

 普通の大人にとっては魔物は脅威であり、ましてや子供にとっては言うまでもない。

 ラシークの村では、一年に何回か、魔物が増えすぎないよう冒険者に討伐依頼を出している。

 偶に村に下りてくる魔物に対しては村人総出で対応しているが、負傷者が何名か出ているのが現状である。

 

 そんな魔の森に、秘密の抜け道を使い、カノンは森の中へと入っていく。

 手にはナイフを持っており、それが現在カノンが持っている唯一の武器である。


「うん、感覚的に向こうだな」


 そう呟き、自分よりはるかに高い針葉樹の間を潜り抜け、森の奥に入っていく。

 森の中を心地よく吹く風にカノンは目を細める。

 

 (気持ちいいな……)


 その気持ちよさに、足取りも自然と軽くなる。

 カノンはさらに魔の森の奥へと入っていった。


 普段は入ってすぐに大人に見つかり、そのまま連れ戻されていたカノンにとって、ここまで魔の森の奥まで入ったのは初めての経験である。

 

「ん!? 何だ」


 カサゴソという音に耳を傾けるカノン。

 その音の方向から現れたのは、半透明の緑色をしたぷるぷるした物体。


「スライムか!」


 実際見た事は無かったが、聞いていた特徴から推測できた。

 カノンは、ナイフを前に突き出し臨戦態勢を取る。

 魔物の中で一番弱い。

 その情報がカノンの油断を誘う。

 スライムはぴゅっと体の一部を触手のように伸ばし、カノン目掛けて突き入れる。


「うわっ!」


 咄嗟に横に転がって避けるも、その攻撃はカノンが左腕をかすめ、服と皮一枚を切り裂いた。

 カノンの左腕からは血が流れ落ちる。

 スライムはさらに触手を伸ばすが、今度は大きく避けたカノンには二度目の攻撃は当たらなかった。

 

「これが……、魔物」


 魔物の怖さを認識したカノンは、慎重に頭の中を整理する。


(本で見たスライムの弱点……。火の魔法――駄目だ、僕は魔法が使えない。剣は――そうだ! コアだ!)


 カノンはじっとスライムを観察する。

 その目には、スライムの中心に見えるゴルフボール大の物体が映る。


(あれが核か! でも、届くか……)


 やってみるしかない。

 カノンは覚悟を決めた。


「でりゃぁぁぁ!!」


 勢いをつけて突進する。

 スライムも負けじと触手を伸ばす。

 触手を一本、二本と避けて、目の前にたどり着く。


「うりゃぁ!」


 ナイフを突出し、胴体に突き刺す。

 しかし、核には若干届かない。


「これで――どうだ!!」


 前傾姿勢で全体重を掛けるようにして、さらにナイフを押し込む。

 カノンは、その感触の気持ち悪さをぐっと我慢する。


 ナイフはスライムの核を突き刺し、スライムは消滅する。

 後に残ったのは――何かの入った瓶だ。


「やった! 勝ったぞ!!」


 その喜びを体全体で表すカノン。

 これがカノンの記念すべき魔物戦初勝利であった。


 


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