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自称正義の水使い:いじめられっこの日々

文章変わりました

 あるところに、一人の少年がいました。


 少年は幼少時代から内気で、外で遊ぶよりも家の中で一人で遊ぶことが好きでした。


 小学生になってからもそれは変わらず、クラスメイトとの関わりはあまり多くありません。小学校高学年に上がる頃には、少年は完全に浮いてしまっていました。


 そして、そんな少年に追い討ちをかけるような出来事が。同じクラスのガキ大将に目を付けられた少年は、ガキ大将グループからいじめられるようになったのです。


 殴る、蹴るは日常茶飯事。ひどいときには担がれてプールに落とされるということもあり、幼少時代に溺れた経験のある少年の心を大きく抉りました。


 調子に乗ったガキ大将達は少年の容姿にも難癖を付け始めます。少年の細い体つきや長い髪を見て「まるで女のようだ」と騒ぐガキ大将達。「オカマ」というあだ名を付けられ少年は怒りをあらわにしますが、生まれつき体の大きいガキ大将には手も足も出ず、負け犬の烙印を押された少年は更にいじめられるようになりました。


 いじめは中学に上がっても続きました。いらん知恵を付けたガキ大将達のいじめは更に加速し、いよいよ精神を病み始めた少年。何とか現状を打破したいけれども、自分が抗ったところで何も変わりはしない。少年は抵抗する気力すら失っていました。


 唯一少年にできたことと言えば神様に向かって「早くいじめがなくなりますように」と祈ることです。毎日寝る前に、少年は神様に祈りました。どうか、どうかいじめがなくなりますようにと。



 その祈りが通じたのか、少年に転機が訪れます。



 その日の少年はガキ大将達に靴を隠され、日が落ちるまでずっと靴を探していました。やっとの思いで見つけた靴を履き帰路についていた少年。そんな彼の目の前に、突如幻想的な光景が飛び込んできました。


 少年が目にしたのは流れ星の雨、流星群でした。少年は初めて見る流星群に感動を覚えますが、それと同時にある噂話を思い出しました。


 流れ星が流れ落ちる間に三回願い事を唱えると願いが叶う。嘘か真か定かでは無い噂話ですが、何が何でも今の状況から脱出したいと思っていた少年。両手を組み、目をぎゅっと瞑った少年は藁にもすがる思いで願い事を唱えます。


 いじめがなくなりますように。

 ガキ大将達がいなくなりますように。

 自由になれますように。


 少年は思いつく限りの願いを無我夢中で口にしました。これだけ沢山流れ星があるなら、どれか一つくらいは叶うはず。少年は再び夜空を見上げました。


 しかし、少年の瞳に夜空は映りません。少年の視界を覆うのは闇夜の黒とは正反対の眩い白。眩い白色が突然目に入り、目が眩んだ少年は思わず目を瞑りました。


 この日から、少年の鬱屈な日々は一転しました。

 自分の欲望の赴くままに、少年は誤った正義を振りかざすのです。










 バイト先へ謝罪に向かった後、クビを宣告された俺は途方にくれていた。


 貯蓄もそこまであるわけじゃないし、早いトコ次の仕事を探さなければ。ああ、また明日から求人案内を漁る日々が始まるのか、とかつて経験した生き地獄を思い出しながら帰路についていると、突然上着のポケットに入れていたケータイが音を発した。どうやらメールを受信したようだ。


 受信ボックスを確認すると、未開封メールの宛名に「通山錬章」の文字が。内容を確認すると、一週間前の件について分かった事があるから会って話がしたいと書かれていた。


 コイツ、この忙しいときに限って……。こっちは明日からの生活を賭けて色々と準備をせねばならんというのに。


 まったく、コイツの言うことにいちいち付き合ってなどいられるか。俺は家に帰るぞ、と言いたいところだが、本文に書かれている「一週間前の件についてわかったことがある」という一文が非常に気になる。


 俺自身も、いつルキスの影響が出始めるか分からない状態だ。突然の事態に対処できるように、ある程度の情報は欲しい。




「まあ、気分転換にもなるか……」




 俺は方向を転換し、錬章の住むマンションへ向かって歩みを進めた。

 いつもは最寄の駅から歩いて向かうのだが、今はとにかくゆっくりしたい。早いトコ仕事を探そうと前向きになったつもりでいたが、やはりまだクビになったショックを引きずっているようだ。


 数分後、いや数十分後だろうか。時無心のままひたすら歩き続けた俺は、自分でも気づかないうちに錬章の住むマンションの前までやってきていた。時間の経過すら把握できなくなっているとは、どうやら相当重症のようだ。


 マンションのエントランスから錬章の部屋をコールし、自動ドアをくぐった先にあるエレベーターで六階まで移動した俺は錬章の待つ一室へと足を踏み入れた。


 次の瞬間、俺は信じられないものを目にする。格好は一週間前と同じ、上下共に黒のジャージ姿だが、一点だけ明らかに一週間前とは異なるところがあった。




「お前、男になってるじゃねえか!」




 俺を待っていたのは、一週間前に女になったはずの通山錬章だった。




「女になったんじゃなかったのかよ!いつ戻った!?」


「慌てんな。それは今から話す」




 ヘラヘラと憎たらしい笑みを浮かべながら、錬章は俺に座るように促す。

 俺がいつもの定位置、低反発クッションの上に腰を下ろしたところで、錬章は再び口を開いた。




「んじゃ話すぞ。まず初めにお前の疑問に答える。俺が男に戻ったのは次の日の朝。目が覚めたら元通りの体になっていた」




 ムスコも無事バカンスから戻ってきたぜ、と錬章は笑いながら下ネタを挟む。


 そんな事はどうでもいいから、さっさと続きを話せ。俺が目で催促すると、錬章はやれやれといった様子で話を再開した。




「で、だ。元通りになった体を見ていて思い出したんだ。異世界人のねーちゃんが言ってた言葉。お前も聞いただろ?ルキスがどうとか」


「ああ、ルキスは苦手やトラウマを克服するための道具だとか言ってたな」


「そうだ。でも、異世界人のねーちゃんは俺みたいな体が変化したりする症状は見たことが無いと言った」


「言ってたな」


「加えて、異世界人のねーちゃんは体質が違うから~みたいなことも言ってただろ?」


「確かにそれっぽいこと言ってた」


「そこで俺は、自分の体を使って本当に体質の違いが関係しているのかどうか調査することにしたんだ」




 その結果、と言ったところ一度言葉を切り目を瞑った錬章。次の瞬間、奴の体は光に包まれた。


 一体どんなトリックを使ったのかは知らないが、その輝く行為が今までの会話と何の関係があるのか。


 俺の疑問に対する答えは光の中から現れた。




「じゃーん!コントロールできるようになりました!」




 光の中から現れたのは、一週間前に見た美少女だった。


 コイツがやらかすことはいつも予想の斜め上を行くと分かっていたつもりだったが、どうやら俺の認識はまだ甘かったようだ。何然も当然のように変身してんだテメェ。一体何をどう調査したらそういう結果にたどりつくんだよ。


 唖然とする俺を他所に、錬章は一人で勝手に話を進める。




「ヒントは異世界人のねーちゃんが言っていた『苦手』という言葉だった。ルキスを使えば『苦手』を克服できる。ゲームに例えるなら、マイナスのステータス値を強制的にゼロにする便利アイテムが『ルキス』だと俺は考えた。だがしかし、そのアイテムは異世界人用、ゲーム内の種族で例えるなら天使族に使用することで正しい効力を発揮するアイテムだった。アンデッド族に回復薬ぶっかけると逆にダメージを与えられたりするだろ?それと同じ原理で、ルキスを天使族以外の種族に使ったら正常な効力を得られないのではと仮説を立てた。そしてその仮説を立証すべく、俺はある実験を行った!」


「ごめん、ちょっと何言ってるかわかんない」




 俺は理解の範疇を超えた錬章の独白についていけずにいた。しかし、そんな俺の事などお構いなしのようで、一人ヒートアップした錬章の口はまだまだ止まらない。




「ルキスは苦手に作用する!俺が苦手なのは女性だ!そして、俺にルキスの効果が現れていた時、俺の姿は女性だった!もしかしたら、俺の苦手意識の部分と何か関係があるのではと考えた俺は、あえて忌々しい過去を思い返してみることにしたのだッ!!思い出すだけで吐き気を催すような忌まわしい記憶ではあったが、思い出した甲斐はあったッ!!あの糞忌々しい女の姿を思い出した瞬間、俺の体は女のモノへと変わったのだッ!!そして―――――――――」




 なるほど、途中は何を言っているのかさっぱりだったが、最後のほうは何となく理解できた。


 つまり、自分の苦手と関係のあるモノが体に変化を及ぼす鍵となるって訳か。錬章は女が苦手だったから、ルキスの効果で女になったと。


 ていうか、話の途中で『ゲーム』とか聞こえたけど、まさかコイツ空想世界の理論をそのまま現実で実行したわけじゃあるまいな?もしそうだとしたら、コイツ相当イカれた思考回路してやがる。




「――――とまあそういうわけで、第一段階の条件はクリアした。今日からは作戦を第二段階に移行する!」




 こいつまだやってたのか。何か声高々に色々と話をしていたような気がするが、まあ、大丈夫だろう。


 コイツは一度自分の世界に入ったら、一人で勝手に突っ走る奴だ。俺が話を聞いていたかどうかなんて気にしていないだろう。




「作戦第二段階!我々はこれより、異世界人と接触して同盟を結ぶ!」


「……は?」




 コイツ、いよいよもって頭がおかしくなったようだ。


 異世界人というのは、一週間前突然俺達の前に現れたシャ……シャリ……『シャリなんとかさん』だろう。ていうか、彼女以外の異世界人に出会ったことが無いのだから『シャリなんとかさん』の事で間違いない。


 その『シャリなんとかさん』と同盟を結ぶ、と言うのは一体どういう意味なのか。




「いや、単純に友達になるだけだよ」


「……そうですか」




 紛らわしい言い方するんじゃない。


 お前のことだから、異世界に行くための算段を整えるために『シャリなんとかさん』をあの手この手で言いくるめるつもりなのではと余計な勘ぐりをしてしまった。




「おっし、俄然やる気湧いてきたぜ!待ってろよぉー異世界人!」




 がんばれ『シャリなんとかさん』。俺は影からあなたの事を応援しています。




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