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彼女  ※ディライア視点

閑話です。ディライア王子が碧姫に思ったことをまとめたものです。

読まなくてもたぶん、大丈夫です。

出会いは最悪だった。


ふと自室に向かう廊下を歩いていると、扉の開いた部屋があった。涼しい風が流れふと室内を見やると、バルコニーに人が倒れていた。ローブの中に隠し持つ短剣を握り近づくと、相手の目がゆっくりと開かれた。

黒髪に黒い目。すっきりと整った顔を見て、自然と綺麗だと思った。……口から出てきた言葉は最悪なものだったが。

殴ると顔はやめてくださいと言う。


本当に最低な『男』だと思った。


質問に答えない、俺に対して天使とか小悪魔とかいうこのバカを、すっかり男だと信じ服を脱ぐように命じた。あっさり脱ぐので眺めてたら違和感を感じた。細い首筋、筋肉のない肩。服で隠れていたがかなり細い腰。――――直感がやつを止めろと囁いた。そして、止めたはいいが結局どっちかわからないので意を決して服を捲った。……後悔した。


変なやつは『女』だった。


アドを呼んで変な女の着替えを頼んだ。話を聞くのはそのあとでもいいと判断したからだ。途中、アドを口説いたので殴った。バカを広げるな。

顔はやめろと言っていたので腹を殴っておいた。


案内を終えたアドから、女と話した内容の報告を聞く。

女の名前は『八王子碧姫』。『ニホン』という国来たと。ニホンが何処か分からず、女が『異世界から来た』と言っていたのを聞き、納得がいった。全体的に変わった人物だったからだ。

見た目や服装、言葉はわかるが聞きなれない発音。それに、やつはバルコニーに倒れていたのだ。

侵入者がそんな目立つ格好で倒れていたら本当にただの馬鹿である。

とりあえず、女が着替えを終わったら詳しく聞き出そうと思った。

実害がなければ、事情しだいでどうにかしてやろうと。


しばらくたったが一向に呼ばれる気配はない。苛立ちから我慢できずアドの元に向かう。するとどうだ。


女は他の侍女と遊んでいた。


腹が立つ。一時(いっとき)の怒りから侍女どもを怒鳴ったら、女からバカな発言とはまた違った意味で、信じられない言葉を吐かれた。

アドの報告からこいつはおれを『王子』と知っているにも関わらずだ。

何かがぶち切れた。殺すと言ったら女は微笑みながら決闘を申し込んできた。


その笑顔は女の顔によく合った綺麗な笑みだった。


決闘が始まる。女を相手にバカな行動だと思う。剣をまじまじと眺めている様子から、こいつが剣を持ったことがないことが窺える。精一杯凄んで怖がらせる。ビビればすぐに終わるだろう。殺さないようにと、加減をして挑む。


予想外だった。

確かに手加減はしているが、見事なまでに避けるその姿に次第に力が入る。速度も上げる。なのに当たらない。流れるように避けるその姿は踊るようだった。

『戦う気がないなら今すぐ降参しろ』

そう言おうとした所で、疲れからだろう。少しリズムを乱した。その隙を女は逃さない。目の色が変わると決着がつくのはかあっという間だった。

身体が浮いたと思えば背中から叩きつけられ、気が付いたら青い空と、にこりと笑う女の顔を見上げていた。


女に感謝を述べる侍女を眺めた。女の顔は腹立たしいほど嬉しそうで、何か言おうとしたら言葉でも完膚なきほど叩きのめされた。悔しさから歯をかみしめる。

するとどうだ。


信じられないことに、女は自分の身を差し出してきた。


この女は侍女二人のために戦っただけと言う。結果がどうであれ二人を守るために、自分の身を俺にゆだねると……。

どうしたらいいか分からない。ただ何か言おうとしたときだった。

その場にそぐわない雰囲気で両親が現れた。母を見るとすかさず女が口説きにいったので蹴り飛ばす。女の調子が戻ったことに少しだけホッとした。


母とお茶がしたいと女が言えば、本当にお茶の用意がされた。しばらくは皆が楽しくしていたので、このままさっきの話は流して女から事情を聞き出そうと算段をつけた。


すると、父から信じられない言葉が聞こえた。


気に入った様子の父からの思いがけない言葉は、納得もできたし理解もした。

このまま父の意見に乗っておこうかとも思った。が、見てしまっのだ。


先程までの余裕な笑みも、『男』のような勇ましい姿もなくなった、恐怖で肩を震わせる『女』の姿を――――。


思わず言葉が口から出ていた。

自分でもバカだと思う。友人だって?人に関わるのが好きでない自分から出てきた言葉とは到底思えない。

しかし、なぜだかこの女を殺したくなかった。バカなことを言うし、女性にだらしない女だと思うが。

まっすぐな心に、感情に素直なところ。意志の強そうな黒い目は澄み切っていて、笑った顔にぴたりと合いとても綺麗だったのだ。

父に『気に入っている』ようだと言われたとき、腑に落ちた。


変な奴、と同時に面白いやつだ……と。


この件はこれで解決――――かと思えば、母が騒ぎ出した。大したこともなさそうだし面倒になったので、アドにこの場を任せて部屋に戻ろうとした。すると、女に声をかけられた。


『ありがとうございます』


そう言った女の顔は、おそらく自分が気に入るきっかけとなった、綺麗で――――可愛らしい・・・・・笑顔だった。





「『ディー』と呼べ碧姫。友人の特権だ。」





次話もよろしくお願いします。


※※

2016.9.14 修正しました。

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