王子様、そしてよろしく
彼は初めからそうだった。
私のことを怪しみながらも話をして、短剣を向けてきたときも結局止めてくれた。さっきの勝負だってそうだ。避けれたのは殺さないように加減をしてくれてたと思う。きっと彼女たちを怒った時も最終的には許したんだろう。
優しい優しい王子様。
「……ディライアに友達がいたとはな。初耳だ。」
イアンさんの声が聞こえる。
え?王子、ぼっちだったの?
「そうでしょうね。『たった今』できたので。」
なんと。ぼっちだったようだ。
まさかの『王子様はぼっち様でした』発言により緊張がなくなった。
「たった今、ねぇ。それで逃れられるとでも思ったのかい?」
「えぇ当然です。」
鋭い眼光が向けられるが、臆することなくきっぱりと王子は答えた。その姿を予想していなかったのか、イアンさんが驚いていた。
「碧姫は自分の身を、権利を、罰を、すべて俺にゆだねました。生かすも殺すも俺の言葉次第です。そして決めました。」
一呼吸おいて、彼は言い切る。
「生かします。だから、いくら国王でも友人に手を出すことは許しません。」
周りは静まり返った。が、さっきまでの空気は、ない。
「フ……フフフ、アッハッハッハッハ!!」
急に笑い出した国王に全員の視線が集まる。
「いやぁー、面白い!まさか、ディライアがそこまで言うとはな。うん、許す。碧姫くんはお前に任せるよ。」
「え……いいんですか?」
思わず聞き返してしまった。見ると先程の恐ろしい目はどこにもなく、最初に会った時のような柔らかい笑顔がそこにあった。……逆に怖いとは死んでも言えないが。
「さっき言っただろ?私は君の事を気に入った。許せる理由ができたのだなら問題ない。」
それに、と続けると視線が私から隣に移される。
「ディライアもなんだかんだと言って、碧姫くんがお気に入りのようだしな。」
「変な女ですけどね。……それに負けたのに殺しはしたくない。」
少し赤くなりながらもむっつりと彼が答える。……そうだったのか。
立ち上がり姿勢を彼に向け直して――――輝くハニーブロンドの頭にキスを落とす。
そして一言。
「もっと素直になりなよ子猫ちゃん……。『気に入ってる』なんて言葉じゃなくて、僕に『好きだ』と鳴いてごらん?」
殴られた。紅茶が出そうになった。
「本っ当に最悪な女だ!!お前は!!」
「けほっ、いやだなぁ王子。友人なんですからさっきみたいに『碧姫』って呼んでくださいよー。」
「取り消すぞ!」
それは勘弁してください。
「ハハハ!とりあえずこれで解決だな。なぁ、エリーザ?」
「いいえ。許しませんわ。」
笑いが止まった。ずっと黙っていた王妃様。
その顔には怒りの色でいっぱいだった。
「そんなの許しません。だって……だってっ!」
バンッとテーブルを叩いて立ち上がる。
「私も碧姫ちゃんとお友達になりたいわ!」
ぷんぷんと怒りの音を出す様に、異を唱える王妃様。
この可愛い人は誰だ。王妃様です。え。なにこれ超可愛い。怒り=嫉妬とか超可愛いのですが!!
「碧姫ちゃんおいで!何なら私の専属騎士にならない?」
「喜んで!あなたのためならこの身の一つや二つ!いくらでも差し出しましょう!」
「ほんと?嬉しいわ!」
「王妃様ずるい!」「私たちも碧姫様とお近づきになりたいわ!」
正面にはエリーザさん、腰にはローズとマリーが抱きついてくる。
さっきまでは大魔王が降臨してたはずなのに、いつの間にか天使しかいない。
「エリーザ!浮気はダメだぞ!あと、碧姫くんは妻を誑かさないでくれ!!」
「あら、碧姫ちゃんは女の子よ。問題ないわ。それに貴方、碧姫ちゃんをいじめたでしょ?このくらい目をつむりなさい!」
そう言われると、何も言い返せずにイアンさんが押し黙る。
そうだそうだ!いじめ反対!
「はあ……もう付き合ってられない。」
呆れた様子で席を立つ彼と目が合った。
「アド。あいつのことは任せた。俺は部屋に戻る。」
「かしこまりました。」
そう言い残して離れていく背に慌てて声をかける。
「あ、王子!ディライア王子!」
振り返った彼の顔に眉間のしわはない。
そこには何処か少し楽しそうな様子を滲ませる、端整な顔だけがあった。
「ありがとうございました!本当に……ありがとうございます!!」
「……………だ。」
「え?」
「『ディー』と呼べ碧姫。友人の特権だ。」
そう言うと彼はその綺麗な顔を崩して、とても綺麗に笑った。
「っ!……はい!了解です、ディー!!」
これから、よろしくお願いしますね!
次話もよろしくお願いします。
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2016.9.14 修正しました。
2016.10.11 修正しました。