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自身の立場、そして彼

「何を言ってんだ、お前?」

意味がわからないといった表情で彼は私を見つめる。

あれ?気づいてなかったんですか?


「私が勝ったら、二人のお咎めなしですよ。私の身のことは何も言っていません。」

ご理解いただけましたか?と微笑めば彼の表情はますます困惑する。


「だって、そしたら、勝敗何て、意味ないじゃないか。」

「ありますよ!勝ったら二人のお咎めなし、負けたら処分はなしですが処罰くらいは受けることになってしまいます。」

「それだけか!?」

「それだけで大きな違いでしょう?まあ、負けは考えてませんがね。……ですが王子。」

座った姿勢を正して彼に詰め寄る。



「私は自分の立場も礼儀も正さなかった不届き者です。そんな私が勝ったからといって許される訳にはいきません。王子の判断で私を罰してください。――――この身のすべてをあなた・・・にゆだねます。」



場内は静まりかえる。勝った者が頂点のはずの決闘で、勝者が敗者に身を差し出したのだから。何か言いたいのか口の開閉を繰り返す彼から言葉を待つ。

そして、


パチパチパチッ

「とぉってもかっこいい騎士様ね!素敵だったわ!!ねぇ、貴方!」

「そうだねエリーザ。とても軽やかな身のこなしだったな。」


その場にそぐわない陽気な声が聞こえた。振り返ると、二人の男女が歩いてきた。寄り添う姿から夫婦であることが予測される。ハニーブロンドの長い髪を揺らす女性とみどりみがかった青の瞳を持つ年配の男性。おや?この二人はもしや?


「父様!母様!なぜこちらに!?」

やはりそうか。うんうん、そうだと思ったよ。

いや~王子の顔はいいとこだけ取ってますな~。どちらも美人(美形)です!ハハハ!

……さて、と。


「アドルフから練習場を借りたいと申し出があったからね。何をするのか気になったから見に来たのだよ。そしたら決闘だったとは!ずいぶんおもしろいね。」

「本当に素晴らしかったわ!ね、ディライア!そちらの素敵な方を紹介して?」


「他者からの紹介なんていりません。僕の名前は八王子碧姫と申します。マダム……あなたに出会えた今日という日に僕は一生感謝します。まずはお近づきのキスを「ざけんなぁぁぁぁっ!!」

横から蹴り飛ばされた。

数メートル滑る転ぶと蹴り飛ばした犯人、王子が凄い形相で睨んでいた。

これが俗にいうドロップキックというものか……非常に痛い。


「王子痛いです。何するんですか。」

「自分の母親が口説かれて傍観する奴がいるわけないだろ!!」

「あ、大丈夫ですよ。キスといっても手の甲だけですから。」

「そこじゃない!」

ならどこだ。


「あらあら、とても手の早い騎士様ですわね。でも私、そういうの悪くないと思うわ。」

「光栄です。」

「母様!?」

「エリーザ!?浮気は許さないぞ!?」

「落ち着いてください皆様。それに旦那様、奥様。碧姫様は女性でございます。」

「え?」

「まぁ!そうなの?」

アドルフさんの申告に目を見張る2人。全く気づいていなかったようだ。

うーん、さすが王子のご両親。二世代そろって間違えるなんて、遺伝とは恐ろしいなぁ。


「よく間違えられるんですよ。なぜでしょうね?」

「………………。」

「言いたいことがあるなら聞きますよ王子。」

「……いや。」

いやって……なんかあるでしょ。


「いや安心はできない!女性の中には特殊な性癖を持った者もいるからな!エリーザは渡さないぞ!!」

「父様!?」

「あ、大丈夫です。可愛いとか綺麗とは思いますがそんな性癖はありませんので。仲良くお茶したいなーとしか思ってませんから。」

「なら平気か。おい、お茶の用意だ。」

緩いですな旦那さん。

「旦那様、ご用意できました。」

そして早いですねアドルフさん。


**********


シュールだ。実にシュールだ。


だだっ広い練習場のど真ん中。長めの簡素なテーブルにレースをあしらった真っ白なテーブルクロス。向かいには優雅にお茶を飲む王様と王妃様。そして、私の隣には未だ仏頂面で腕を組む王子様が座っていた。

そもや国の三大トップとお茶をするとは……十数分前までは決闘していたというのに。


「……美形の夫婦に美形の息子……やっぱりここは、」

「天国とか言ったら殴るぞ。」

ずず……。この紅茶おいしいです。

「さてと。改めて、自己紹介をしようか。私はこの国の王『イアン=ディアス』。そして、妻の『エリーザ』だ。」

「よろしくね碧姫ちゃん。」

お茶を掲げながらにこりと微笑むエリーザさん。

それはもう、末永くよろしくお願いします!


「私は八王子碧姫と申します。碧姫が名前です。……先程は失礼致しました。」

改めて王様のイアンさんに自己紹介と謝罪の言葉を送ると、クツクツと「良い良い」と笑いながら手を振られた。


「エリーザも喜んでいたしね。…じゃあ、自己紹介も済んだことだし、そろそろ本題に入ろうか。碧姫くん、君にはいくつか質問をさせてもらうよ?」


……やっぱり来ますよね。

国王王妃の両陛下がこんな不審人物・・・・とお茶をするだけで終わるわけがない。

思っていた通りのの展開に背筋を正し、カチャリとカップを置いて国王を見据える。


「ええ……もちろんです。どうぞ?」

「では、まず初めに、」

ゴクリと息を呑む。



「―――このケーキにかけるジャムだが、なにがいい?」



がちゃんと音を立ててテーブルの上で、彼がこけた。


「質問が違うでしょう父様!」

「ええと、一番甘いジャムでお願いします。」

「お前も普通に返すな!!」

「ディライア……少しは落ち着きなさい。……一番大きなやつはお前にあげるから。」

「いりません!しかもなんで不服そうなんですか!」

「だって私は国王なんだぞ?」

一番大きいやつを食べたいに決まってるじゃないか、というイアンさんの言葉にがっくりとうなだれる王子。

そんな王子の様子にイアンさんが笑い声をあげた。


「はっはっは、冗談だよ。じゃあ、一つ目。碧姫くんはどこから来たんだい?そんな色の髪と目を持った者を今まで見たことないんだが。」

本当に冗談だったのかは分からないが王様の目が真剣なものに変わった。

確かにここの人たちは外人のように髪は茶色がベースで瞳の色素が薄い。日本人特有の黒髪黒目に黄色おうしょくの肌は不思議だろう。


「信じられないとは思いますが、私はこことは異なった世界にある日本という国から来ました。」

「異なる世界?」「ニホン?」

両陛下が同時に反応する。王子が驚かないのはアドルフさんから聞いていたのだろう。名前も聞いていたみたいだし。


「はい。私はその国で死んだはずなのですが、不思議な浮遊感の中を漂ったあと、ここに落ちました。」

「碧姫様は初め、ここを天国だと思ったそうですよ。そして、殿下のことを天使と呼んでおられました。」

「アド!!」

「ぶはっ!ディライアを天使に?ははははは!碧姫くん、君はすごい子だね!」

「いや~、あまりにも綺麗だったのでつい。」

「それで口説くバカがどこにいる!!」

ここにいるじゃないか。


「くくく!じゃあ二つ目!決闘の理由は?」


「私がそちらの可愛らしい妖精さんたちと楽しくしてたら、隣の(クソ)王子が彼女たちを処分しろとほざいたので、黙らせるために約束を取り付けて叩きのめしました。」

視線を二人に向けると、ぺコンと頭をさげられた。


「おやおや、酷いやつだなお前は。」

「元はと言えばそいつらがっ……。」

「約束は?」

「……チッ」

よしよし。約束を守る方は大好きですよ。


「なるほどなぁ。あ、質問はもういいよ。うぅーん……どうしたものかね。」

「どうしたのアナタ?」

少し悩んだ様子で、しかしあくまで悩んでいるかの様に見せかけてイアンさんはカップの中に2つ砂糖を落とす。スプーンをクルクルと回しながら口を開いた。


「うん。碧姫くんの処分について考えているんだ。」


「「「「っ!!?」」」」

その言葉によって、場の空気が一瞬で凍りついた。


「旦那様!?いまなんと!?」

「だから処分だよ。碧姫くんのことは私も気に入った。面白い子だね。けれど、こんなでも私は一応国王だ。不可思議な存在を許すわけにはいかない。」

「ですが…!」

「それに碧姫くんは少しやりすぎた。王族に決闘を申し込んだだけでも本来は即刻死刑だよ。」

許可が降りたからの話ではない、と。

「国王様!」「ですが碧姫様は私たちのために……!」

「黙りなさい。誰に向かって発言をしているんだ?君たちが口を挿むところではないよ。」

イアンさんがピシャリと言い放てば、2人の肩がビクリと跳ね上がる。震える二人を庇うようにアドルフさんが背にまわす。


一方でその通りだと、私はひとり納得していた。


私は彼を王子と知っていた。知っていてやったのだ。無礼な言葉も吐いた。その時は知らなかったけれど。

いま私が生きているのは彼が優しかったからであり、そしてそのチャンスを私は彼女たちに使った。


「さて、碧姫くん……どうする?少しだけ・・・・なら逃げる時間をあげるよ。不法侵入ということでこの城から出られたら見逃してもいい。でも、ダメだったときは……わかるよね?」


ゾクリと寒気が走る。青緑色の瞳が私を見据えて、怖いと全身が訴える。


『逃げれるわけがない』


結論ははっきりと出ている。

視界の隅で、青い顔をしたアドルフさんと彼女たちが見えた。心配をかけてしまったその様子に申し訳なさで胸が痛くなる。

心臓がうるさい。身体が動かない。さっきの真剣を使った勝負は怖くなかったくせに……いや、違う。


怖かったはず・・なのだ。


持ったことのない人を簡単に殺せそうな鋭い剣。それを向けられて怖くないはずがない。なのに、それを感じなかった。

その理由はたった1つ。


「逃がす時間など必要はありません。」


彼の声が聞こえる。その声色が、脳に、身体に染み渡れば氷が溶けるように硬直が解けてゆく。ゆっくりと隣を見やると、眉間にしわを寄せたままの綺麗な顔の彼が見えた。国王と同じ色、けれど全く違う暖かい瞳。

怖くなかった理由は彼が変わらなかったからだ。怒っているときも、死ねというときも……、



碧姫・・は俺の『友人』です。俺の友人に手を出さないでください。」



どんなときでも彼の目は優しい色のままだったから。




次話もよろしくお願いします。


※※

2016.9.14 修正しました。

2016.10.11 修正しました。

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