王子様(女)登場、そして退場
主人公です。
その学校の朝は黄色い歓声から始まる。
「「「きゃー!碧姫さまーー!!」」」
「おはよう皆。今日も可愛いね。」
「碧姫様は今朝も麗しいですわぁ!」
「ほんとに!王子様のようですわ!」
「王子様のよう、か。アハハ!違うよ、僕はね」
『王子様のよう』と言った女の子から髪を一総掬い上げ、見つめる。
「『のよう』ではなく、王子になりたいのですよ。あなたのね。」
にこっ
八王子碧姫
御年17となり、性別は『女』。恋に夢見る乙女たちが通う女子学校に在学。
碧姫はここの『王子』である。
スポーツ万能、成績優秀。黒髪黒目は日本人の一般的な特徴だが、切れ長の目にすっきりとした輪郭。
鼻筋もスーッとしており、老若男女が思わず見惚れる顔つき。
甘い言葉を囁けば、魅了させた女性は数知れず。
ハイスペック。完璧人間。まさに王子!
それが彼女だ。
まあ、努力の賜物だよ。主に女の子のためのね!
フフと、笑う。
私は女の子が、特に笑顔が好きなのだ。
花が咲くような、お日様のような笑顔が!
それを見るためならどんな障害も乗り越えられる。
だからといって彼女たちを恋愛として見ているのかといえば答えは『NO』である。
自分の性別も理解しているし、単純に可愛い子たちを見ていたいだけだ。口説くのはもはや趣味である。
それに、
「可憐な彼女たちにもいつかは本物の王子が現れるんだろうな。」
ポツリと呟けば少し寂しい。しかし同時に喜びが広がる。
その子が笑顔でいられるなら、幸せになれるのなら私はいらないのだ。
女の子の幸せを守るための王子でいるのだ。
「でも、そいつが現れるまでお姫様は私のものだ!まだまだ渡さないもんね!」
ファイトー、オー!と、腕を天に突き上げる。
今は帰り道。可愛い姫君たちには見せられないやんちゃなポーズ。
そばの公園からは子供たちが元気に遊んでいるのであろう。楽しそうな声が聞こえる。
そのときだった。
ポンと碧姫の脇をボールが跳ねる。
それを追うように駆ける小さな女の子。
鈴を転がすような声が楽しそうに笑う。
跳ねる間隔が徐々に狭まり、やがてボールは転がる。
そのボールを手に取り「追いついた」と、嬉しそうに振り返る少女。
「十年後が楽しみだね、お姫様。」
たぶん見れないけど。
軽く胸を押すと少女はいとも簡単に後ろに転がる。
ビックリした顔がまた可愛くて、今まさに死ぬであろう自分が悔しくなる。
時間が止まっているかのように、しかし、ゆっくりと確実に近づくトラック。これを避ける術は、無い。
頭を駆け抜けるのは自身の記憶……ではなく、先ほどの少女の可愛らしく、美しく成長を遂げた未来予想である。
あーでもやっぱり見たい!十年くらい止まれよトラックーーーー!!
そして、世界は暗転する。
※※
2016.9.11 修正しました。
2016.10.11 修正しました。