7,行こうか帰ろうか、どっち、どっち?
流石に、石をこれ以上蹴る気力はない。
また事故のような物が起きても困る。
しかし、せっかく教わったのだから行ってみるだけ行ってみようか。
気分転換にもなるかもしれない。
それに、シバの教えてくれた場所だ。
ヒロインの攻略に繋がる情報の欠片でも拾えるかもしれない。
ゲーム中にそんな場所は出て来なかったが、ここは現実である。
一体何がどう繋がっているかわからない。
それに――――言葉こそキツかったが、シバは粗野でも好戦的でもなく、言っていることはもっともだった。
ゲーム内の設定がそっくりそのままな訳ではないのだ。
そもそも、自分の存在がイレギュラーである。
ゲーム内のヒロインの友人゛フュオーレ゛と自分とは性格だって少し違う。
そういった差異が各攻略対象や、ヒロインにも出ているかもしれない。
事実、リュラはあれだけ攻略対象に詳しいようなのに、ちっとも恋するオーラを感じないのだ。
どちらかというと、そう。
好きなスポーツのご贔屓チームの選手に対するファン、のような感じ。
戦力分析とか、次の試合はどこでやるとか。
誰がいい選手だ、とか、あの選手のここを直せばとか……。
それをスポーツ選手ではなく、テックの操縦者として置き換えるとちょうどいいような気がする。
いささか情報がマニアック過ぎる部分まで踏み込んでいるようで、そこは恋する乙女の成せるワザかなと思っていたのだが、やっぱりなにか違和感を覚えるのだ。
ううん?
別に、いくらヒロインだって攻略対象を攻略しなければならないというわけではない。
乙女ゲーにだって、ノーマルエンド、俗にいう友達EDというものはある。
現状のまま行けば、寧ろこの路線が一番近いんじゃなかろうか。
好感度は友人である自分がもっとも高いように思う。
リュラは攻略対象の情報を知ってこそいるが、実のところ彼らと直接接触をしている機会は少ない。
当然、彼らのほうでも接触の機会が少ない以上、リュラに対しての印象も薄いだろうし、そうである以上好感度はさほど高くないだろう。
乙女ゲームは接触回数がほぼイコールで好感度の高さに繋がる。
今私がいるのはゲーム世界であっても現実なので、それがそのまま採用されるとは限らないけれど、指針にはなるだろう。
フュオーレの把握する所、リュラが攻略対象に接触したのは、デュマが2回、セリアンが1回、モッズが2回、オラクルが1回、その他の攻略対象に対しては0回。
先ほどフュオーレが出会ったシバも0回だ。
おそらく、あと数日中にフュオーレとシバは出会うのだろう。
何故か、攻略対象とリュラが合う直前にフュオーレは彼らと遭遇する。それから数日して、リュラが彼らと遭遇している経験からするとこの読みは間違っていないだろう。
おそらく、情報役に予兆を仄めかす為のゲームシステムの措置なのだろう。
「行って何かないか探る? それともやめる?」
私は少し悩んだが今日は河原に行くのをやめた。