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6.予想外!?

 今日の授業はずっと集中できなかった。

 考えていた為だ。自分の存在意義を。

 これぞ、青春……! と茶化したいし、何年も生きているのに青臭いなぁとは我ながら思う。トータル35年、年月だけ見れば立派な成人女性であり寧ろ中年に差し掛かっているというのに。

 でも、今の私の姿は子供のせいか、子供であることを許されていて、子供として扱われているせいか、さっぱりと割り切ることができない。

 大人っていうのは、大人として扱われて、それでようやく大人になれるんだと思う。

 年齢を重ねるだけじゃダメなんだ、きっと。

 本人の意思もあるけれど、周囲の「大人」扱いもあって、ようやく「大人」になれるのではなかろうか。



 であるからして――――今の内、子供だからこそ許される青臭さを堪能しても、いいよね?


 せいぜい悩むことにした。


  * * *

 

 今日は一緒に帰ろうと誘ってくるリュラの誘いを断って、一人トボトボと家に向かって歩いている。

 どこでもドアのようなもの、『ウェイズ』を使って自宅の近所にショートカットして帰ることもできたけれど、運動も兼ねて自分の足で歩くことにした。リュラと帰るときもできるだけ徒歩で帰ることにしている。

 前世では運動が余り得意でなかったこともあり、いかにもな運動に対して苦手意識は拭えない。

 勿論、装置で矯正を受けていなくても標準以上の運動能力を持ち合わせているこの身なのだが、苦手意識というものはなかなか変えづらい。

 しかし、国民の義務である運動をこなさなくてはならない。

 これを解決するには、この「徒歩で帰宅」がちょうどいい塩梅なのだった。

 足元に落ちている小石をなんとなく蹴ってみる。

 ころころころ。

 転がる小石を追って歩き、また蹴っては歩く。

 それほど強い力では蹴らない。

 明後日の方向にいってしまっては困るからだ。

 ウェイズが普及しているこの世界では、祭事や賑わったショッピングモール、大規模なウェイズホール(人が多く行きそうな施設の近隣に設置されている、固定式ウェイズの出入り口をおいたホール)くらいでしか人混みを経験することはない。

 今、この道を歩いている人間の姿もまばらだ。

 私と同じように国民の義務を果たすために歩いたり、走ったりする必要がある人間以外は、ウェイズを利用して移動するほうが時間を短縮できるし道を誤ることも少ないので、人通りはどうしたって少ない。

 人の視線こそ無いが、異常を感知する防犯用アイが見えないように隠されて至る所に設置されている為、無人だからと犯罪を犯す者は少ない。

 人通りが少なくても、前世の人の行き来が盛んな道と同程度以上には治安は確保されているのだ。

 だから私は石をけりながら、歩くことができるわけだが。



 少し、力加減を誤った。

 あ、っと思う頃には遅かった。

 さほど力を入れずに、転がすのを重点において蹴り続けていた石だったが、今の蹴りは当たりどころが良かったのか、綺麗な放物線を描いて飛んでいった。

 オマケに…………その先には人の姿が。

「すいません!!!」

 慌てて駆け寄っていく。

「お怪我はありませんか!!」

 見た感じ、石は掠ったか掠ってないかというぎりぎりの所を通っていったようだったが、あくまでそれは私の私見である。

 実際の所当たってから、さらに向こうへと飛んでいったのかもしれない。

「すいませ……申し訳ありません!」

 もう一度、お怪我はありませんかと尋ねた。

 見た所、年格好は私と同じかやや上か……あ、いや。違う。

 見た目こそ私と同年齢程度だが、”設定”では脅威の童顔で10代後半にしか見えない20代中~後半の男性だったはずだ。お察しの通り、美少年。いや、年齢的には美青年だけれど、美少年といった方が相応しい容姿だ。

 ヒロイン、リュラの攻略対象の一人であるシバ・アトミ。

 しかも、眼鏡バージョン。

 うわ、まずいと血の気が引いた。

 この男性、実は二重人格のように眼鏡のある無しで性格が変わるという設定なのである。

 しかも眼鏡があると好戦的で粗野になるタイプときた。

 どうせなら眼鏡をかけると理知的になるとか、そういう方向でお願いしたかった。特に今の状況下だと。……いや、注文をつける筋合いはないな。自分の不注意だもの。

「あの……」

「あの石はあんたか」

 振り返るなり、強い視線が私を射抜いた。

「はい、……私が蹴った石です」

「バカか!」

 お怪我は、と言う前にバカか、と叩きこむような返答が来た。

 おっしゃる所ごもっとも。

「はい、申し訳ござません」

 深々と頭を下げた。

「もし、俺の前に小さい子がいたらどうすんだ、あんた」

「はい……」

「石がぶつかってヘタすれば大怪我でもしたかもしれない、ってのはわかるな?」

「はい……」

「気をつけろ。この道はあんた一人のものじゃない」

「はい……申し訳ありません」

「……まぁいい。俺には当たってないしな。でも、石を蹴りたいなら誰もいないような場所にしろ」

 ちっ、と舌打ち一つ。

「サコウ川の河原」

「……はい?」

 思わず顔を上げた。

 シバは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「知ってるか?」

「はい、えっと……?」

 サコウ川の河原は知っている。

 確か、この道の少し先を曲がればあったはずだ。

「石がどうしても蹴りたいならそこでも行け。そこなら大丈夫だろ」

 それだけ言うと、シバはくるりと背を向けた。

「あの!」

 私の呼び止める声に頓着せず、シバはそのまま歩いて行った。

 追いかけても反応してくれそうにない。

「すいません、それと、ありがとうございました!」

 もう一度頭を下げて、見送る。

 シバの背中がだいぶ遠くなった所で頭を上げた。

 そして、ヒロインであるリュラがシバと合う前に、友人である自分が印象を悪くしてしまったことに気づいて、顔色を更に悪くした。


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