5.乙女のミステリー
私は現在15歳。
そう、セカンドスクール、前世でいう高校に通う年となり、入学と同時に「クレイモア」のゲームそのままの世界がリアルで始まったのだ。
ゲームでいう初日、入学式の日にヒロインのリュラ・ラーラビーと隣の席だったことが縁で仲良くなった。
そこで、やはり自分は乙女ゲーム「クレイモア」の世界で生きていることと、ゲームヒロインが記憶そのままに存在すること。
そして、自分よりヒロインの方がよほど情報入手に長けていることを知ったのだった。
私が存在する意味ないんじゃないの?
現に、ヒロインのリュラの至る所に攻略対象である美少年や美青年、素敵なオジサマが現れるワケだが、私が彼らの情報を得て、リュラに伝える前に既にリュラは彼ら自身のことは愚か、その背景、彼らの周りの人間のことを知っているのだ。
え、何それ怖い!
ゲームの中では、情報役が教えてくれる情報についてはさほど疑問に思わなかった。
だが、実際自分が苦労して情報を調べてみると、その間に、それ以上のことをさらっと、しかも詳しく知っているって凄いを通り越して怖くはないだろうか。
どうやってるの、本当に。
私は前世でプレイしたゲーム知識のお陰である程度の基本情報くらいは思いだせたからこそ、なんとか彼らのことを調べることができる。
名前、顔、年齢、職業、大体の居住地。
それくらいの知識があるからこそ、調べるとっかかりがあるわけだ。
でも、何も手がかりがなければとても無理だった。
それなのにリュラと来たら、初対面で名前も聞かなかったはずの攻略対象の情報を短期間で詳細に得ているのだ。
情報入手経路とその手腕を知りたい。でも、怖い。
犯罪を犯してないかちょっとわたくし友人として心配です。
しかも、彼らの表の顔どころか裏の顔まで知っているなんて……そう、攻略対象には裏の顔もあるのだ、実は。
このゲーム、乙女ゲーのくせに何故かロボットアクション要素があるんだけど、このロボット(ゲーム中ではテックって呼ばれてた)の搭乗者が攻略対象。
このテック、政府管轄だが、一般人には誰が搭乗者であるのか、どういった仕事をしているのか詳細は明かされていない。
それはそうだろう。これは一種の兵器である。軍事機密という奴だ。
主に、害獣(星外からやってくる)撃退が主な任務という程度の情報しか、公にされていない。
リュラはゲーム中では明かされなかったはずのテックの機体の詳細仕様や特性、攻略対象達の操作の癖と弱点、それから周回プレイでも一部しか明かされなかったテックの秘密を知っていた。
少なくとも、そのことを匂わせていた。
下手に聞くと、危険がアブナイ予感がしたので、詳しくは聞かなかった。なんだか本末転倒な気がする。
情報役が、ヒロインから情報を聞いたり、ヒロインから齎される情報に危険を感じて耳にするのを拒むだなんてどうなのだろう。
自らの存在意義がわからない。
私は何のためにこの世界にやってきたのか。
しかも、クレイモアのゲームの中心に。
別に、リッシュノワに生まれたとて、片隅で暮らすという選択肢はあったはずだ。
クレイモアの世界であることを意識してから、何度かそれも考えたし、クレイモアの舞台に上がらない方法も検討した。
しかし、結局私は様々な縁と、自分の行動結果が重なって、ここに来る道を選んだ。ここで私が果たす役割があるのではなかろうかと思って。
結局、思い上がり、ひとりよがりだったけれど。
一人空回りしているような気がして、無力感に苛まれた。