4.脇役は語る
凡庸な顔立ち、少し毛先が傷んで、中途半端に伸びていた黒髪(昔染めたこともあったが、どうにも薬品が合わなかったようで頭皮が荒れたため一度で懲りた)、少し明るい茶色の瞳だった15年前の前世の自分。
嫌いな顔立ちではなかったが、やはり容姿に不満がなかったわけではない。
そういう意味では現世の容姿には不満はない。
すっと通った鼻筋と桜色のふっくらした唇、大きな瞳に長く濃いまつ毛。わざわざカミソリと毛抜きを使って整えなくても良い形のよい眉毛。
シミもソバカスもない透けるような白い肌。
色こそ同じだけれど、質感は月とスッポンのような差で、大変触り心地がよく、伸ばしても痛まない黒髪さらさらストレート。
目は晴天を映したような綺麗な青。
自画自賛になるが、今の私なら、前世の世界では国民的美少女を狙えると思う。
実際に、「クレイモア」の中でも美少女として描かれていたから間違いない。
「脇役」としては十分すぎる容姿だ。
そう、私は乙女ゲーム「クレイモア」において主人公であるヒロインの友人役として登場する『フュオーレ・ギュスカス』として生まれ変わったのだ。
役所としては、攻略対象の情報・好感度などを主人公に伝える係。
大抵の乙女ゲームで、こういったポジションに付いている脇役は存在すると思う。
ヒロインが攻略を進める為には重要な役どころだ。
だが、しかし――――私は確かに、この世界になんとか馴染んだ。指にはめたリングと爪で中空に浮かぶエア・タブレットにアクセスして情報を引き出すことも苦にならなくなった。前世の知識が逆に邪魔をして、他の子供よりもこの端末になれるのには時間がかかったけど、なんとかなった。
このリングと爪、通称BOCCHIというのだが、現在は世界標準としてあらゆる人間が持っているエアタブレット端末だ。
出た時は”揺りかごから墓場まで、貴方と結婚する指輪”がキャッチコピーの、当時は画期的な商品だったらしい。
これには2つの意味があり、出た当時はリング一つではなく、2つ3つと嵌めなければ満足する機能を得られなかった為、結婚指輪を嵌める余地がなかったことが一つ。もう一つは、この指輪型端末を指に嵌めていると、この端末で生活の雑事を手配することも、仕事をすることも、二次元の恋人も作ることができる(!)為、嫁も旦那もいらぬということらしい。
商品名がBOCCHIというのも皮肉が効いていて、私は嫌いじゃない。
賛否両論ある商品名だったが、私のように思った人が、その当時も少なくなかったらしく、また使ってみると当時の端末(前世のタブレットと似たような物)よりも軽量、持ち運びも保管もエネルギーチャージも楽で、高性能と便利だった為、あっと言う間に普及したらしい。今でこそ他社から類似商品がいっぱいでているが、通称は初めてのエアタブレットの名称そのまま、BOCCHIが採用されている。
確かに、このBOCCHI、慣れればとても便利。
操作方法は、簡単だ。
中空に浮かび上がった画面に、BOCCHIのリングをはめた指を滑らせることで操作可能となる。この中空に浮かび上がる画面はBOCCHIのリングから生み出されるものだ。爪はオプションで無くてもいい。ただ細かい操作にはこの爪の部分があったほうが楽というだけだ。
音声操作は別売りのイヤーカフ型端末を耳に装着すれば可能。周辺50cm程の半径に存在する装着者の音声のみを拾い上げる高性能マイクがイヤーカフ型端末に内蔵されており、装着者が目をつぶっていても、端末指示することができる。これも人気があるようだ。
そんなBOCCHI、確かに使うことに私は慣れたが、これを使いこなし情報のエキスパートになるには至っていないのだった。
こんな風で、ヒロインの情報役ができるわけがない。
寧ろ、ヒロインのほうが使いこなしていてもおかしくはない。
……というか、実際そうだった。