3.ようこそ乙女ゲーの世界へ?
前世にはタブレット端末ってあったと思う。
ちょうど私が光に包まれた頃に普及してきて、子供の教育にも一部では使われるようになってきていたけれど、その昔は勉学に使われるのは紙とペン一択だった。
ペンと紙しかない時代からいきなり、ぽん、と来た人が、タブレットを見てどうやって学習に使うのか頭を悩ませると思う。
実際、タブレット普及したての時も中高年の人は四苦八苦したらしいから、携帯電話どころか、パソコンさえない時代から来た人がタブレットを見たら電源を入れることすらおぼつかないに違いない。
私もリッシュノワに生まれてから数年後、前世の世界との差異に気づくにしたがって、顔が引きつりかけた。
前世よりも遥かに科学が進んでいるんだもの。
明かりは言葉一つでつく。誤作動防止機能つき。
料理は材料を入れれば最後まで調理してくれるばかりか、その材料すら外に出て買い物に出る必要はない。メニューを決めて、設定すれば後は放置するだけで完成する。
買い物の決済は電子マネーの様なもので、硬貨もお札も殆ど世間に出回っていない。
勿論、その調理器具はマニュアル操作で手作りすることもできるし、実店舗も存在する。でも、やろうと思えば生まれてから死ぬまで家から一歩も出ずに暮らすことは可能だ。
人と合うことも殆どドアツードア……どころか、どこでもドアのようなものがいたるところに存在するような世界である。セキュリティの関係上、”どこでもドアのようなもの”は「どこでも」出入りすることができるドアではないが、乗り物で長距離を移動せずとも、ほんの僅かな時間で目的地へと至ることができる。
乗り物はもはや、景色を楽しむ為のアトラクションか、あるいは星間を移動するか、時間を行き来するか、そんなことにしか使われないものとなりつつある。
こうなると運動不足が心配されるが、そちらは「運動が国民の義務」となっている為、健康な人間(この場合は安静を必要とする病気にかかっていない人間を意味する)は一日数時間(運動の程度によって違う)必ず運動することと法律で決まっている。
運動が苦手な人は別に歩くのでもいい。ルームランナー(のような物)でも、外で歩くのでもどちらでも。
これは勤労よりも優先される。
この世界、ある程度以下の運動能力しか持ち合わせない人間(俗にいう運動オンチ)は「運動能力改善装置」で運動能力を標準近くまで「矯正」させることができる為、運動苦手なんで運動したくないですは通用しない。
運動苦手なんです、はそのまま心理的に運動苦手なことを意味することはあっても、運動オンチの意味での運動苦手な成人は存在しない。
皆子供の内に装置を使って矯正を受けるからだ。これは政府の補助で行われている為、親に恵まれなかった子供であっても同様の処置を受ける。
まぁ、世界が違うわけだ。いろんな意味で。
当然学習内容も多岐に渡る。
よく皆ついていけると思うよ?
……とは思ったが、何だかんだと言って、前世で標準程度の学習能力しか持ちあわせていなかった自分もついていけることを考えると、子供の吸収能力凄い! ということと、こちらの人間の頭の作りは、前世の人間とおそらく少し違うのだろうという推測が立つ。
さて、学校に通いだして様々なことを学ぶことになり、そこで改めて自分のいる現実世界について私は知った。
何かに似ているなぁ。そう思った。
私はよく似たものを知っているのではないか――――なかなか思い出せず数日を過ごし、ある日はっとした。
ここは異世界リッシュノワ。
前世でプレイしたことのある乙女ゲーム「クレイモア」そっくりの世界なのだと。




