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男は悩んでいた。
悩んで、悩んで、悩みぬいた末
一つの答えに達する。
「ここではダメだ。有名になり過ぎた。もう一度、1から……いや、0からスタートしたい」
そう結論付け、男はゴールドラッシュで沸くアメリカを飛び出した。
目指した場所は、フランス。
食の本場――ここなら、自分の欲求を満たしてくれるだろう。
そんな期待があった。
男は念入りに、2年間を掛けて下準備を整え……
ついにフランスで店を開く。
男の計画通り、店は瞬く間に有名になった。
一般人だけでなく、あらゆる著名人が男の店を訪れた。
その中の一人がフランス語で男に声を掛ける。
「やあ、君がここの店主かい? 素晴らしいステーキ店だね」
その問いかけに男は、慣れないフランス語でにこやかに答えた。
「ありがとうございます」
「噂以上だったよ。ところで、この店の名前だけど、変わってるね。amp?」
男は笑う。
「よく言われますよ」
「意味はあるのかい?」
「ええ、略語なんです」
「へえ、何の略なんだい?」
男は英語で答えた。
「a missing person(行方不明者)」