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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
番外編
98/100

ブライスくんの初恋

僕の名前は、グリーベル=ブライス。

この春、ヴィルヘルミーナ魔術学院に交換留学生として入学した初等部一年生だ。


「ルチノーせんぱ~い!」


学院の門をくぐったところで、ひときわ目立つ白い髪を見つけ手を振った。

黒の法衣をまとった、高等部三年生のルチノー先輩だ。

入学式では、在院生代表で、学院の中央にある魔術陣に立って聖典を読み上げた。

先輩の詠唱と同時に魔術陣が輝き出して、学院中に星が降ったようになった。

そのとき先輩の髪は、金に輝いて見えた。

どうやら先輩は、大きな術を使う時だけ髪や目の色が変わるらしい。

それも本来持っている大きすぎる力を封じているせいだっていうから、すごいじゃないか。


「ブライスくん。おはよう」


手を振る僕に気付いた先輩が、にこやかに微笑んで挨拶を返してくれる。

うーん、いつ見てもかわいらしいなぁ。


「おはようございます!

 ね、先輩、知ってます? 広場にできたお菓子屋さん!」


先輩に歩調を合わせて、用意しておいた話題を振る。

ルチノー先輩が甘いものに目がないことは調査リサーチ済だ。


「お菓子屋さん? 何軒かあったと思うけど、どこかしら」


「アンナ菓子店ですよ。ブルクハルトの王都で流行ってるって店のヴィルヘルミーナ支店」


僕が説明しようと思ったら、同級生のジョイナスが横からしゃしゃりでてきた。


「あら、ジョイくんも。おはよう」


「なんだよ、ジョイ。僕が先輩と話してるのに、割り込んでくるなよ」


「おはようございます、ルチノーさん。

 ベル、独り占めはよくないな。

 店主は背の高い無愛想な男ですが、味は王都に負けず劣らず美味しいって噂です」


「へぇ、そんなお店ができたのね。王都の本店って、どこの店かな」


「ベルって呼ぶな! ぼ、僕が行ったときは、とってもにこやかなかわいらしい女の人が出てきましたよ。

 本店は、なんていったかなぁ・・・。

 あの、実は今日そこの焼き菓子を持ってきたんで、お昼ご一緒に」


「わ、馬鹿、ベル。この怖いもの知らず!」


「何が?

 だからベルって呼ぶなよ。

 ・・・あれ? 先輩?」


今のいままで僕たちとおしゃべりしていたはずの先輩は、急に立ち止まって学院長室のほうをじっと見つめていた。

魔術学院は、中央が魔術陣のある本堂で、きらびやかな彩色の施された円形《ドーム型》の天井が特徴だ。

その四方にとんがり屋根の塔が建っていて、一棟ずつ初等部・中等部・高等部に分かれている。

残る一つ、今先輩が見つめているのが、先生たちの塔だ。

一階には学院長室があって、広く取られた窓から中が見える。

院長室に、誰かお客さんかな?

手前に居るのはうちの学院長。

小柄な見た目に騙されてはいけない。

美人だけど超怖くて迫力満点。

何百年も生きてる大魔術士らしい。

その学院長が話してる相手、誰だろう。

やけに背の高い立派な・・・。


「カール!」


突然ルチノー先輩が駆けだした。

手に持っていた魔術書の束を、ばさばさと落として走って行く。

僕とジョイは、先輩が落としたものを拾いながら追いかけた。


「先輩、待ってください! 急にどうしたんですか!」


ルチノー先輩は、一直線に学院長室の窓に駆けて行く。

同じく登院中の生徒たちが、何事かと振り返る。


「危ない! ぶつかる・・・!」


そう叫んだとき、院長室の窓が開き、両手を広げた人物が先輩を抱き留めた。


「帰ってたの!」


「あぁ。朝一あさいちで着いてな。

 この時間なら学院かと思って家に寄らずに来たんだ」


錆色の髪の憎らしいほど二枚目なその男性は、ルチノー先輩を軽々と抱き上げて室内に入れた。

そしてせめてカーテンでも閉めてくれればいいものを、そのままお互いを抱きしめあい、衆目など気にせずに熱烈な口づけを交わした。


「ルルル、ルチノー先輩いぃ!?」


衝撃のあまり言葉もない僕は、先輩の荷物を抱きしめたままがっくりと膝をつく。

すると後から追いかけてきたジョイが、同情の目を向けて僕の肩を叩いた。


「そっか、おまえ他国から留学してきたから知らなかったんだな。

 あれ、ルチノーさんの旦那だよ。ヴィルヘルミーナ(うち)の警護団長さ。

 そういえば先週から王都で合同演習をするとかいって、出かけてたんだっけ」


「旦那さん・・・。ルチノー先輩って結婚してるのか!?」


「してる。

 ついでに言えば、あぁ見えて21歳だそうだ」


「うそ。僕、16か17くらいだと」


「だよなぁ。俺も知らなきゃそう思う。

 うちの学院、力に応じて学年が決まるから、お互いの年なんてわからないよな。

 先輩は、入学当初は俺たちと同じ初等部(色つき)だったけど、あっという間に飛び級(スキップ)して、高等部に行ったんだと。

 なんか訳ありで高等部止まりらしいが、本来なら講師やっててもおかしくない力の持ち主らしいぜ」


「そうなんだ・・・」


話している間も、二人の抱擁は続いている。

口づけだって、もう何回目かわからない。

至近距離で見ているはずの学院長は、たいして気にしたそぶりもなく書類を読んだりお茶を飲んだりしてる。


「・・・長いな」


「長いよな・・・」


先輩の荷物、どうしよう。

このままここで眺めているのも馬鹿馬鹿しい。

初等部の始業にも遅れてしまう。

悩んだ僕は、「高等部の教室に届けておけばいいんじゃないか」というジョイの意見に、一も二もなく賛成した。




高等部の教室に着いて、先輩の席に荷物と一緒に食べようと思って買ったお菓子を置く。

かわいらしい包装紙の表には、

“アンナ菓子店(アドルフ菓子店ヴィルヘルミーナ支店)”

と印字があった。

そっか、ブルクハルトにある本店は、アドルフ菓子店っていうのか。

いまさらどうでもいい話だけど。


あーぁ。

先輩、お幸せに。


そうして、僕の初恋は終わった。






未来パラレルっぽいお話になっちゃいました^^;

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