ヴィルヘルミーナに着きました
王都を出て、馬車でののんびり旅すること半月。
着いたヴィルヘルミーナは、依然訪れた時とは全く違う町へと発展していた。
湖の周りに立ち並ぶ家々、町の中心にそびえたつヴィルヘルミーナ魔術学院。
元からいる人々と各地から移住してきた人々で町中はごったがえし、市場がそこかしこに立っていた。
「ようこそ、おいでくださいました。姫様、ヴュスト様」
「あなたは・・・」
「ロイド」
住民の出入りを管理しているという役場に行こうとしたら、道端で馬車を止めた男がいた。
「長旅でお疲れでしょう。まずは町長の館にお越しください」
ルゥと二人で顔を見合わせる。
どういういきさつかは知らないが、今のヴィルヘルミーナの町長は、この男がやっていた。
しかし俺としては、こいつに殺されそうになった事実がある。
「どうする? カール」
「まぁ、いつかは挨拶しなきゃいけなかったんだ。行ってみるか」
「ん」
通された町長の館では、テーブルを挟んだ向こう側で、延々とヴィルヘルミーナとルゥを称える演説が続いていた。
蓋を開けてみれば何という事はない、ロイドは一本気な熱い男で、素直すぎるところをアヒムに利用されたという感じがした。
「ヴィルヘルミーナの再興こそ、我らが悲願でした!
そして今日ここにルチノー様という、由緒正しきヴィルヘルミーナの女王のお血筋に連なる方をお迎えすることが出来て、このロイド、感激至極にございます!!
どうぞ末永くこのヴィルヘルミーナにお住まいになってくださいませ!
また、今でこそ私が町長を務めさせていただいておりますが、ゆくゆくは二人のお子様に、この職を継いで頂く所存でございます!
私は粉骨砕身して基盤づくりに務めます!」
「あ・・はは・・・。よ、よろしくお願いします」
はじめは熱心に聞いていたルゥも、いい加減疲れて笑顔が引きつっている。
「もう、わかったから、新居に案内してくれませんか」
「おお、そうでした。
お疲れのところをお引止めして、誠に申し訳ありません!
お二人のお住まいは、ヴィルヘルミーナの一等地、湖を一望できる小高い丘の上にご用意いたしました!」
お送りしたいところですが所用がありまして、と心底残念そうに言うロイドを丁重にねぎらって、馬車を走らせた。
町が俺たちに用意してくれた住まいは、ロイドが言うとおり一番いい場所にあり、かつ趣味のいい建物だった。
その夜。
生活に必要な最低限の荷物は片づけて、ルゥと二人、暖炉の前でお茶を飲む。
春とはいえ、夜はまだ冷える。
「子どもか」
昼間、ロイドに言われたことを思い出してつぶやいた。
これまであまり真剣に考えたことはなかったが、この先ずっとルゥと暮らしていくのだから当然家族は増えていくだろう。
ルゥが俺の子どもを産む。
嬉しいようなくすぐったいような気持ちになって、ぎゅっとルゥを抱きしめた。
「なぁに? カール」
「いや、まだいないよな、と思って」
ぺったりとした下腹部を撫でる。
「ふふっ、どうしたの、急に」
「昼間、ロイドに言われたからさ」
「あぁ、子どもの話? 町長にだなんて勝手に決めないでほしいよね」
そういえばそんなことも言っていたか。
子どものことすら失念していた俺と違い、ルゥはまだ見ぬ子どもの将来を決めつけられたことを怒っている。
彼女のほうが、よっぽど現実的に物事を考えていたようだ。
「ね、それよりも、夕方届いた包み、見た?」
「ん?」
「見てないよね! 待ってて!」
するりと俺の腕の中から抜け出たルゥは、隣の部屋へと駆けて行った。
新居、暖炉、二人きりの時間といえば、甘い展開を期待していたのに・・・残念だ。
「じゃーん!」
「!」
銅鑼の音を真似た効果音と共に、扉の影から現れたルゥは、真新しい制服に身を包んでいた。
白い襟。
胸元には大きなリボン。
六つのボタンが留められた胴回りは、細い腰を強調するかのように体の線に沿っている。
そして何より目を引くのは・・・。
「な、なんでそんなに裾が短いんだ」
ヴィルヘルミーナ魔術学院の制服だというそれは、普通くるぶしまであるスカートの裾が、膝の上までしかなかった。
「ん~、なんでだろう。
エメさんがこういう形にしたんだって。さすが、斬新だよねぇ」
「斬新って・・・斬新にもほどがあるだろう。
その格好で学院に通うのか?」
そんな、ルゥの艶めかしい足を道行く人々に惜しげもなくさらして?
そんなのだめだ。
絶対に許さない。
「この上に法衣を着るから大丈夫よ。
私は初等部だから橙色の法衣なんだって。
中等部は赤、高等部になると黒。
エメさんたち講師陣は、魔術士としての地位にもよるけど、だいたい紫だって言ってた」
「そ、そうか。その上に法衣・・・。
着てみてくれるか」
「うん!」
すでに用意してあったのか、さっと法衣を羽織ったルゥは、俺の前でくるりと一回りして見せた。
大きく長い法衣のおかげで、肌は全く見えない。
「見えないことはわかったが、ではその制服は着る意味はあるのか?」
「言われてみればそうね。なんでだろう」
うーん、と小首をかしげるルゥ。
しかし、俺にはわかった。
そうか、これはただのエメの趣味だな。
ルゥに可愛らしい服を着せて愛でようという、あいつの策略か。
「あの、カール? 怖い顔してどうしたの。
似合わないかな、これ」
ルゥが法衣の前を開いて中を見せる。
「いや、似合う」
胸を強調した上半身も、見えそうで見えない太ももも、可愛らしい膝頭もとてもいい。
ついでにいえば、開いた法衣の隙間から見えるというところも素晴らしい。
くそっ、まんまとエメの策略にはまっているじゃないか、俺!
「そう、よかった。
私、学校って通うの初めてで、すっごく楽しみなの!」
孤児院育ちのルゥは、孤児院の中で読み書きはそれなりに習ったようだったが、一般的な学校というものには縁がなかったか。
「そうか。たくさん友達を作って、楽しむといい」
「うん!」
期待に胸を膨らませるルゥの手をとって、引き寄せる。
「でもこの足がなぁ」
「何よ・・・あんっ、どこに手、入れるの」
「こうしたら、すぐ触れるぞ」
「やだ、お尻っ、はんっ、カール!」
「あぁ、ほらもう中まで」
「あっ、あぁんっ、指、入れちゃだ、め・・・・!」
後に聞いたところによると、細かな条件が術の発動に作用する場合もあるため、衣服も指定されているとのことだった。
とはいえ、スカートの長さは絶対にエメの趣味だと思う。
「あっ、もうっ、カール、だめだってば!
学院から帰ってきたばっかりなのにっ」
「うーん、この制服を見るとしたくなるんだ。
何か術でもかかっているんじゃないか?」
「そんな術ないってば! あっ、はっ、ああぁぁぁぁぁっ」
番外編になった途端にこのノリw
猫耳エプロンといい、困ったものです。