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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
番外編
94/100

カールのおうちへいこう

王都に来たばかり~現在までのお話。





「延び延びになっていた食事会、次の休みならみんなの予定が合いそうなんだが、どうだ?」


夕食の後、ソファの上に寝そべってくっついていると、「今日のおやつは何がいい?」くらいの気軽さでカールが聞いてきた。

びっくりしてがばっと起き上がる。


「ええ? 食事会って、食事会って、カールのご家族と会う食事会!?」


「あぁ。二番目の兄貴が急に帰ってくることになってな。ミレイユもその日なら来られると言うし」


「行商に出てるっていうお兄さんね。

 ミレイユさんは猫の姿でなら会ってるけど・・・ってそういう問題じゃないわ!

 次の休みって言ったら明後日じゃない!」


「何か予定があるか?」


「予定はないけど、服! 手土産! それより心の準備が・・・」


「みんなで飯食うだけだから、別に気にしなくていい」


「よくない! きゃあぁ、どうしよう」


混乱して手足をばたつかせる私を、カールは不思議そうに見ている。


「服は、この前仕立てたのがあるだろう。手土産はなくてもいいと思うが、どうしても気になるなら途中で買って行けばいいんじゃないか」


「そんな適当に選んだみたいなの、失礼じゃない。お義父さんは何が好き? お義母さんの好きな食べ物は?」


「あー・・・なんでもいいんじゃないか」


「もう!」


ばふっとクッションで叩こうとしたら、避けられてしまった。

腕をとられて、くるっと一回転。

あっという間にカールの下敷きにされる。


「なぜ怒る?」


「当たり前でしょう? カールのご家族に会うんだもん、気を遣うわ」


「遣わなくていいって。ルゥはそのままでいい」


「そんなわけないもの・・・んんっ」


唇を塞がれて、いたずらな舌がすぐに入り込んできた。


「あ・・・ふ・・・。ごまかさないで」


「怒った顔がかわいくて、つい」


「そんなこと言って・・・あっ、あぁん」


結局そのままソファの上でされてしまって・・・手土産は決まらなかった。

どうしよう、もうっ。






「ルチノーさん! いらっしゃい」


食事会当日、出迎えてくれたお義母さんは、相変わらずふんわりとした雰囲気の、とても優しい笑顔だった。

おずおずと差し出した手土産(エメさんに相談。王室ご用達のお茶にした)も、嬉しそうに受け取ってくれた。よかった。


以前も通された、お店と一続きになっている応接室のソファに落ち着く。

近所の小料理屋に頼んだ昼食がもうすぐ届くから待っていて、と言われた。

その間に、以前会えなかったご家族を紹介してもらった。


「おー! 君がカールの! 初めまして、二番目の兄、クィールです」


「・・・妹のミレイユです」


「は、はじめまして、ルチノーです」


クィールさんは、カールより少し背が低くて、カールほど女性受けはしなそうな感じだけどひょうきんな感じが親しみを持てる人だった。

ミセイユさんは、なぜか初めからきつい目でカールを睨んでいる。


「あれ、ミレイユ、おまえも会ったことなかったのか?」


「そうよ。カール兄さんったら、辺境から帰ってきたと思ったら、結婚するだなんて言って、一言も相談なし!」


「別におまえに相談する必要はないだろ」


「兄さん!」


「おいおい、落ち着けって。カールもそんな言い方するなよ」


いまにも兄妹喧嘩がはじまりそうな雰囲気にたじたじになる。

ミレイユさん、怖いよぅ。猫で会うのとは勝手が違うな。

小さくなって、とにかく時間が過ぎるのを待つ。

ようやく現れた救いの神は、お義母さんだった。

お昼が届いたわよーと言われて、カールと一緒に運ぶのを手伝った。

本当は私だけでやるべきなのかもしれないけど、カールから離れたら人の姿を保てない。


「何、あれ」


「ははっ、かわいいなぁ。

 カールもべたぼれみたいだね。一時も離れない」


「何言ってるのよ。

 ずっとカールにくっついてて気に入らないわ」


「おまえなぁ」






ミレイユさんの刺すような視線が気になりつつも、食事会はなんとか無事終わった。

食後のお茶をいただいていると、さきほどまでどこかに行っていたミレイユさんに、手招きされた。


「ねぇ、ちょっとこっちに来て」


「あ、はい」


カールも一緒に立とうとしたら、


「兄さんはだめ! 女同士の話があるの!」


と言って止められてしまった。

カールが目で「大丈夫か」と問いかけてくる。

家の中なら大丈夫だと思うと答えて、ミレイユさんについていった。

そういうことじゃないんだけどなぁ、とカールが後ろでつぶやいていた。




ミレイユさんは、どんどん廊下を進んで行く。


「あの、どこまで・・・」


「もうちょっとよ。ここじゃ兄さんたちに聞こえちゃう」


店舗と一緒になっているためか、思ったより家が広い。

どうしよう。これ以上カールから離れると・・・。


「あの、ミレイユさん」


まだ奥へ案内しようとするミレイユさんを、勇気を出して呼び止めた。

これ以上一歩でも動いたら、猫になっちゃう。


「お話なら、ここで聞きます。

 もう十分カールたちから離れたと思いますし」


「何言ってるのよ。ほら、もっと、こっち!」


ぐいっとミレイユさんに手を引かれた。

ここで猫になるわけにはいかないと、私もふんばる。


「や、やめてください。

 ここだっていいじゃないですか。

 やめて! やめて!!」


必死に抵抗するけど、ミレイユさんはすごく力が強くて・・・。


「あっ」




*****




「きゃああああ」


家の奥から悲鳴が聞こえた。

ミレイユに何かされたかと、慌てて声がした方に向かう。


「ルゥ!」


「かわいいぃぃぃぃ!」


そこには、白猫になったルゥと、ルゥに頬ずりするミレイユがいた。

ルゥは耳としっぽを垂らしてしょんぼりしている。


「何コレ、何コレ、どういうこと!?

 わかんないけど、かわいいからいいぃぃ!」


「うなー」


「あー・・・」


俺は、手の平で目を覆って、天を仰いだ。






「つまり、ルチノーさんは魔術で猫になる体質にされてしまったってことかい?」


「あぁ、まぁ、そうだ。

 で、それを治すために、城に魔術を習いに行くことになった」


「まぁまぁそうだったの! 急に帰ってきて何事かと思ったら、まあぁぁぁ!」


予想通り、というか、親父もおふくろもルゥの姿を見ても驚かなかった。

だてに長く王都で店をかまえてはいない。

心の中では驚いていても、それを表に出すようなこともないだろう。

それどころか、無類の猫好きのおふくろは、ルゥの美しい毛並みに一目ぼれしたようだった。

そしてそれは妹のミレイユも同じだった。


「兄さんも水臭いわぁ。ルチノーさんが、あのとき私が会った猫ちゃんだって教えてくれたら、いじわるしようなんてしなかったのに」


「やっぱりいじめようとしてたのか・・・」


女同士の話、なんてろくなものはない。

あのまま連れていかれていたら、どんなことをされていたか。

しかし、今はルゥはミレイユにはがいじめにされ、撫で繰り回されている。


「はぅん、この毛並み、最高!」


「ミレイユ、お母さんにも抱かせて」


「えぇ~? ちょっとだけよ」


「次は父さんな」


「え、じゃぁ俺も」


「ちょっと待て、男はだめだ」


「え! 何言ってるんだよ、けちくさいな」


「ふざけんなよ、クィール。

 おまえの彼女が裸で男に撫でまわされてもいいのか」


「あ、何、今のルチノーさんってそゆこと?

 うはっ」


「何を想像した、何を! 鼻血を拭け!」




ルゥの服は袋に入れてもらって、猫のまま連れ帰った。

おふくろやミレイユはともかく、親父やクィールにルゥの着替えを見せるわけにはいかない。

たとえ隣室で着替えるにしても、妙な想像をしていた次兄クィールに、衣擦れの音一つ聞かせたくはなかった。


手垢を落とすべく入れた風呂で、人の姿に戻ったルゥが、膝を抱え顔半分湯につかってぶくぶくと泡を吹く。


「気にするな。災い転じて福となす、か?

 俺の実家公認になってよかったじゃないか」


「そうだけど・・・そうだけど・・・」


ぶくぶくぶく。

頭の上まで沈んでいく。

ルゥなりに俺の家族に気に入られようと張り切っていたから、無理もない。

ルゥのままだといじめられそうになって、猫になった途端かわいがられるなんて、おもしろくないよな。


「まぁ、ミレイユもああいう感じだけど、根は悪いやつじゃないんだ。

 うまくつきあってくれると助かる」


「うん、がんばる・・・」






その後、クィールから猫用の服が大量に届いた。

いや、着ていればいいというものではないだろう。

今後のために、一応もらってはおくが。

ミレイユは、時々遊びに来るようになった。

ルゥが作った菓子をつまみながら、旦那の悪口などを言っていくらしい。


「あのね、子どもができて、そのとき猫になっちゃったら、おなかの子はどうなるの?」


「えっ・・・」


ある晩、やけに強硬にルゥが誘いを断るものだから、問い詰めたらそうミレイユに言われたと言っていた。

そんなこと、できてから考えればいいじゃないか。


「でも、わからないから、エメさんに聞いてからにしよ? ね?」


結局その晩はおあずけだった。

ったく、ミレイユのやつ、余計なことを言いやがって。

問題なしの返事をもらうまで、三日も俺は我慢するはめになった。






しかし、そんなこんなはありつつも、ヴィルヘルミーナに引っ越すころには、家族の一員としてルゥは溶け込んでいた。

引っ越し当日、挨拶がてら馬車を店に横付けしたら、家族総出で見送りをしてくれた。

その中で、泣きながらルゥに抱きついていたのはミレイユだった。


「体に気を付けて。

 いつか私も遊びに行くからね。

 手紙、書くね」


「ありがとう、ミレイユさん」


「ミレイユさんだなんて他人行儀な! お姉様と呼んでっていつも言ってるじゃない!」


「おまえ、俺のルゥに何をさせようとしている・・・」


「いいじゃない。ルチノーさんは私にとっても大事な義妹・・・え、あれ? 違うか。

 カール兄さんの奥さんなんだから、私が義妹?

 ルチノーさんが私のお姉様? あら、それもいいわね」


「はいはい。ミレイユのことはいいわ。

 カール、元気でね」


「おう」


「ルチノーさん、愚息をよろしくな」


「はい・・・!

みなさん、ありがとうございます。

 では、行ってまいります」


ルゥに手を添え、馬車に乗せる。

がたごとと走り出した馬車の中で、ルゥはいつまでも後ろを振り返って手を振っていた。




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