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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第5部
92/100

エピローグ

*****




数週間後。



「なんで俺の家で飲み会なんだ」


「大会前に約束しただろ。奥さんに会わせるって」


「負けたときだろ? 俺は負けてないぞ」


「勝ってもいないな」


「ヴァイノには勝った」


「この期に及んで往生際の悪い! もう玄関前だろうが!」


そう、俺は今、マルリ、ユハ、ヴァイノ、オロフと共に家の前に立っている。

俺は散々嫌がったが、こいつらに押し切られてとうとうここまで来てしまった。

観念して玄関を開けると、中からいい匂いが漂ってきた。

台所から、ぴょこんとルゥが顔を出す。

髪は白。瞳は真紅。

日常生活を支障なく送るため、力をエメに封じ直してもらったためだ。

どんなルゥでもルゥはルゥだが、俺にはやはりこの色合いがしっくりくる。


「あ・・・みなさん、ようこそおいでくださいました。

 ルチノーです」


髪をゆるい三つ編みにして、白いエプロンをしたルゥは、いつも通り可愛らしい。

こいつらに見せるのは本当にもったいない。


「萌え!」


マルリが叫んだ。


「も、もえ?」


「おおおおおまえ、なんてうらやましいやつ!!!」


興奮したマルリが、俺の襟首をつかんでがくがくと揺さぶってくる。


「うるさい! やめろ! 首がもげる」


「おまえの首なんぞどこへでも飛べ! く~!」


「なんなんだ、おまえは!」


などと俺がマルリの相手をしている隙に、ユハがルゥに近付いていた。

どこに隠し持っていたのか、大きな花束を手渡す。


「ルチノーさん、体調はいかがですか?」


「まぁ、きれい!

 いつもすみません、ユハさん。

 お見舞いのお菓子も、たくさんありがとうございました。

 もうすっかりいいんです。でもカールがなかなか起きさせてくれなくて」


俺の頭の怪我はすぐ治ったが、ヴィルヘルミーナから戻ってきたルゥは、熱を出しやすくなっていた。

寝たり起きたりの日々が続いて、ようやく最近元気になったのだ。


「おい、なんだかユハのやつ、様子が違うな」


「あんなにマメな奴じゃなかったよな」


「というより女嫌いのはずじゃなかったのか?」


「カール~? いいのか?」


マルリたちは、驚いた様子でささやき合う。


「いいはずないだろう。毎日毎日毎日毎日何かと理由をつけては来やがって。

 おい、ユハ! いつまで立ち話をしている気だ。

 ほら、こっちが食堂ダイニングだ! さっさと来い!」


ユハの襟首をつかまえてずるずると引きずる。

俺と背丈の変わらないこいつを引っ張るのは、なかなかに重労働だ。


「あ、私ったらお引止めしてすみません。どうぞ」


他の面々も、ルゥに促されて室内に入る。

食堂ダイニングには、ルゥの心づくしの料理が並んでいた。


「うっわぁ、うまそう!」


「こんなにたくさん、大変だったでしょう」


ヴァイノが感嘆の声をあげる。

おまえ、ちょっと立ち位置が近いんじゃないか?

確か婚約者がいただろう。


「ふふっ、みなさんにお会いできるのが楽しみで、昨日からはりきっちゃいました」


微笑みかけられたヴァイノ、そしてマルリは、でれっと鼻の下を伸ばしている。

こいつら、要注意。

オロフは料理の方に目がいってるから・・・大丈夫か。


ルゥの給仕で食事が始まる。

食べている間も、俺は気が気じゃない。


こら、ユハ! ルゥにばかり話しかけるな!

ルゥ! マルリなんかにそう何度も麦酒を注がんでいい! 勝手に呑むから!

ヴァイノ、その目つきは怪しくないか? 婚約者に告げ口するぞ!

あん? オロフはおかわりか。まぁいいかって、手が触ってる! やめろ!


食事を終えるころには、はらはらし通しだった俺は疲れきり、他の奴らは上機嫌だった。

腹がいっぱいになったので、居間に場所を移して本格的に呑む態勢になる。

酒も蒸留酒に変えた。

甘党のユハの前には、ルゥが漬けた果実酒がある。

その果実酒を一口飲んだユハは、奴の取り巻き(ファン)が見たら一目で腰が砕けるであろう笑みを浮かべてルゥを見た。


「この果実酒、美味しいですね」


「よかった。私、お酒強くないから、あんまり味見もできなくて、どうかなって思ってたんです」


「そうなんですか。全然飲めないんですか?

 ミルクで割って、氷も入れればかなり薄まりますよね。せっかくだから一緒に少しどうですか」


「うーん。

 ちょっとだけなら、飲んでみてもいい?」


上目づかいに俺を見て、伺いを立ててくるルゥ。


「少しだけな」


「ありがとう、カール!」


これだけ準備をしてくれて、みんな楽しく飲んでいるというのに、ルゥだけ仲間外れはかわいそうだろう。

そう思ったのだが。






「んふふふふふ、マルリさんって面白いですねぇ」


案の定、たった一杯で顔を真っ赤にさせたルゥは、ご機嫌で笑い続けている。


「あはは、ルチノーちゃんもかわいいよぉ。

 んで、何? いつ出発するって?」


「来年の春だ」


「あー、もうそのころには建つのかー」


現在、旧ヴィルヘルミーナ領には、ブルクハルト王国管轄の魔術学院を建設中だ。

ルゥも、魔術学院の生徒としてヴィルヘルミーナに行くことになった。

当然、俺も行く。


「おまえは行って何するわけ?」


「町の警護団の団長だな。

 町と言っても元々は一つの国だったところだ。

 かなりの規模になるだろう」


「団員は?」


「その土地で集める」


「おまえひとりでできるの? 組織作りとか」


「以前辺境で一緒だったギュンターという男がいるんだが、そいつが一緒にやることになった」


「へぇ・・・」


リクハルド様からはすでに任命書が出ている。

好きな者を連れて行けと言われ、真っ先に浮かんだのがギュンターだった。

辺境とは勝手が違うだろうが、彼の柔軟さは俺に足りないものを補って余りある。


「マルリ、寂しいんだろう」


「だな。一緒に行ったらどうだ」


酒片手に、ヴァイノとオロフが言う。


「な、何言ってんだ。

 おい、ユハ、おまえこそ行けよ。

 新しい土地で、あの子と菓子屋ひらけばいいじゃん」


「菓子屋?」


「おうおう、カール、聞いてくれよ!

 城の女の子に聞いたんだけど、ユハのやつ、いつの間にか」


「だまれ」


にやにやとからかい口調になったマルリに、ユハが腰にはいていた剣をするりと抜いた。


「あっぶね! 本気マジで抜く奴があるか!」


「うはは、オロフ、ユハを押さえてろ。

 んで、ユハが何だって?」


「・・・ヴァイノ、殺す」


「うるせぇ。そうか! とうとうユハにも春が!」


「そうなんだよ。ユハが休憩時間に抜けて行ってた菓子屋があるだろ、そこの看板娘とな」


「おお、通りで頻繁に行ってると思った」


「あれはルチノーさんへの見舞いを買いに行ってたんだ!」


「見舞いを買ってたのがどうなったんだ? おい」


ルゥとは関係のないところで盛り上がりだした面々に一安心していると、とんっと肩に重みがかかった。

ルゥだ。


「みんな、いい人だね」


「そうだな」


何の話もせず、勝手に親衛隊を飛び出した俺を、こいつらは何もなかったように迎え入れてくれた。

後で事情を話したら、水臭いだの馬鹿野郎だのと言ってどつかれた。

憎まれ口を叩きながらも、その実、ずっと心配してくれていたことを知っている。

今日も、ルゥに会わせろといいながら、今後のことを気遣って訪ねてきてくれたのだろう。


「ルゥはもう上で休め」


「うーん、でもおつまみとか・・・」


俺に寄りかかるルゥは、酒のせいで頬を染め目を潤ませており、その上眠そうで、相手の出方次第でどうにでもなりそうな風情だ。


「大丈夫。あとは俺がやるから」


「でも・・・」


「頼む」


こんな姿、やつらに見せるわけにはいかない。

俺の懇願を受けて、ルゥは渋々と二階に上がって行った。






夜中、ユハたちは帰って行った。

寝室を覗くと、ルゥは寝台の上にうつぶせになって、エプロンをしたまま倒れ込むような形で眠っていた。

服をくつろがせ、掛け布をかけてやる。


「ん・・・」


「起こしてしまったか」


「あ・・・寝てた・・・。みんなは?」


「帰った。たくさん用意してくれてありがとう」


ちゅっとこめかみに口づける。

くすぐったそうにしたルゥは、微笑んで俺を見つめてきた。


「お見送りできなくてごめんなさい」


「いいんだ、あんな奴ら。

 水、飲むか」


「うん、ちょうだい」


用意しておいた水差しから水を汲んで、手渡す。

こくこくと、細い喉が動く。

見るともなしに見ていたその動作に、ずくんと体がうずいた。


「気分はどうだ」


「ん、大丈夫だよ。

 ちょっと寝たからすっきりした」


「そうか。体調は?」


「良いよ。もう、カールは心配しすぎだから」


「まぁな。

 じゃぁ、そろそろいい?」


「? 何が?」


水を置いて横たわったルゥに、覆いかぶさる。


「俺にしては、ずいぶん我慢したと思わないか?」


「あ、えっと、それって」


「そう」


せっかく掛けた布だが、邪魔なので取り払う。

元から寛がせておいた服は、あっさりと脱げた。


「あの、でもカール、今日呑んでるし」


「む。呑んで勃たなくなるほど年じゃないぞ」


「え、そういうことじゃなくて。

 あっ、んっ」


滑り込ませた手に、ルゥが反応する。

滑らかな肌はすぐに上気したけれど、何から動きが固い。


「ルゥ、嫌?」


「嫌、じゃ、ないよ。嫌じゃないけど」


久しぶりだから、恥ずかしい・・・。

そう耳元でささやかれて、理性のたががはずれた。




「あっ、んっ、やっ、カール、待って」


「そこ、だめっ、あああんっ、はぁっ、激し・・・っ」


「え? もう一回・・・・?

 もうだめ、眠らせて・・あっ、はぁっ、あぁぁぁぁぁ!」




気絶するように眠ったのは明け方近く。

目覚めた時には、昼すぎだった。

俺の腕の中には、すやすやと眠るルゥがいる。

その身体には、愛し合った証拠の赤い花が散っている。


ルゥ、ようやく取り戻した。

離れていたのは一週間にも満たないほどだったが、その間生きた心地がしなかった。

王都に帰ってきてからも、ルゥが熱を出すたびにおろおろした。

ヴィルヘルミーナに来てほしいという打診は、ルゥが俺よりも故郷を選ぶのではと思い、気が気じゃなかった。

しかしそんな俺にルゥは、「カールがいるところが私の故郷いるところ」と言って微笑んだ。

だから、かえって俺がついて行こうという決心につながった。

親兄妹も親衛隊員の地位も関係ない。

俺こそ、ルゥがいるところが俺の居場所なのだから。


あの雨の日、偶然耳にした猫の声。

あの出会いが俺を変えた。

もしあそこでルゥに出会わなかったら、俺は辺境で腐って一生を終えていたに違いない。


「ん・・・」


ルゥが寝返りを打つ。

白い肌が、日の光を浴びて輝く。

うっすらと開けられた唇に、吸い寄せられるように口づけた。


「・・・っ・・・あ・・・。

 おはよう、カール」


「おはよう」


挨拶を返すと、ふわっと幸せそうに微笑み、紅玉の瞳が俺だけを映した。

胸の内から愛しさがこみあげる。

何度抱いても、次の瞬間には再びつながりたくなってしまう。

しかし、今日はこれ以上は我慢しなければ。ルゥを壊してしまう。

そのかわりに、と耳元に口を寄せた。


「ルゥ。ルチノー・・・愛してるよ」


「きゃ! なぁに、急に」


「言いたくなっただけ」


なんで驚くんだと顔を起こすと、真っ赤になったルゥがいた。


「もうっ、カールったら」


「カールったら、何?」


「何って・・・。わ、私も愛してるっ」


照れ隠しに抱きついてきたルゥをきつく抱きしめる。

そのまま口づけたら、結局最後までいってしまった。

今日はもうやめておこうと思ったのに。


「あっ、はぁっ、カールっ、カール!」


俺を呼び、伸ばされた手をつかむ。

数えきれないほど重ねた唇を、再び合わせてささやいた。


ルゥ、愛してる。


命ある限り、君をずっと守り抜く――。









月光編あります。

エピローグ、ですが、まだ続きます^^

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