表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第5部
90/100

17 再会と発動

大分重複します。すみません。




*****




「カール!」


ルゥの呼び声で気が付いた。

続いてばさっと何かが落ちた。


「・・・ルゥ!?」


藁の中から顔を出したのは、金髪に青紫の瞳を持った可憐な少女。

ほっそりとした体のラインを強調するドレスが、よく似合っている。

色味は違うが、まぎれもなく俺の愛するルゥだ。


「カール、怪我したの?」


ルゥが俺の頭を気にしている。

気を失うとき、何か固いものがあたったから多少切れたか。

言われてみればずきずきと痛むが、命にかかわるほどではない。


「こんなの怪我のうちに入らないさ」


「怪我したのね」


「大丈夫だよ」


ルゥを安心させようとするが、怒気を孕んだ彼女の声はますます鋭さを増していく。

朝日のせいだけではなく、ルゥは光を集めたように輝き出していた。

その迫力に、人々はたじろぎ跪いていく。


「誰がやったの」


早くルゥの元へ降りようと、俺は縄をほどくのを急ぐ。

店主も一緒に縛られていたようで、二人分ほどかないと降りられそうになかった。

その間に、ルゥはアヒムと対峙している。


「俺のほうがいいぜ。俺は昔からおまえのこと」


なんだと?

ちょっと待て。聞き捨てならない会話が聞こえてきた。

もしかしてこいつ(アヒム)はルゥの昔の男なのか?


「おい、ル・・・」


なんとか丸太から降りてルゥの元へ行こうとした瞬間。


「見えた!

 いけない、ルチノーちゃん!」


空中から声がとんだ。エメも来ていたのか。


「・・・あなた、許さない!!!!」


「ルゥ?」


ルゥの髪が、風を受けたように浮き上がった。

襞の多いドレスも、風にはためいている。

この風は、どこからきている?


「ルチノー!」


アヒムが叫ぶ。


「姫様?」


店主も、丸太から降りルゥを見つめた。


広場そこで力を使っちゃだめよ!!」


カッ――

ルゥから生まれた風が、広場にあるすべてのものを、はじきとばした。


「うわっ」


腕で目を覆って風に耐える。

ふわっと体が浮き、次に猛烈な勢いで飛ばされた。

広場の周りにあった家の壁に、背中を強く打ちつけて落ちる。


「う・・・っ、くっ・・・ルゥ・・・!」


「大丈夫!? カール!」


とん、と俺の前に降り立ったのはエメだ。


「あぁ、なんとか。

 ルゥは、どうしたんだ」


「魔術陣よ。

 この広場のタイルの模様は、ヴィルヘルミーナの城の地下にあった魔術陣とそっくり同じ模様をしている。

 それがルチノーちゃんの力を増幅してるんだわ」


「城の魔術陣?」


「なんと・・・では継承の儀の・・・」


つぶやいたのは、同じく飛ばされて隣に落ちたらしい店主。


「あなた誰? 何を知ってるの?」


店主の存在に気付いたエメは、すぐさま詰め寄って、専門的な質問を始めた。

俺にはわからない内容ばかりなので、とにかくルゥをと風が吹き荒れる広場の中心に目を凝らす。

ルゥは、魔術陣の上で手の平一つ分宙に浮いていた。

ドレスの袂から見える肌には、文字のようなものが浮かんでいる。

ルゥの視線の先には、アヒムという男。

ぎりぎりと見えない何かに体を締め付けられているようで、体を奇妙な形にそらせている。

あのまま力が加われば、あいつ、死ぬんじゃないか?

それをしているのはルゥ?

ルゥが、人を殺す?


そんなことはいけない、と思う。

若い頃、戦地に出ていた俺が言うのは何だが、戦で人を殺すのと私怨で人を殺すのとでは、後の後悔が全く違う。

しかも今ルゥは俺の為に力を振るっている。

どんなに許せない輩でも、我に返って落ち込むのはルゥだ。


「ルゥ、やめろ」


彼女を止めようと、手を伸ばす。

ばちんと何かにはじかれたように、広場の中には入れなかった。

うっ、なんだこれは。


「ルゥ、やめろ! 俺は大丈夫だから!」


ならばと叫ぶが、暴風に遮られて声が届く気配はない。

どうしたらいいのかと奥歯を噛む。

すると、


「これを使ってください」


と店主が一振りの剣を差し出してきた。

エメとの話は終わったのか。

店主の手にあるのは、俺が使うには頼りない細身の優美な剣。

それを見たエメが息を飲む。


「ヴィルヘルミーナの宝剣! そんなものまで持っていたの」


「えぇ。私、本名フルネームはマクリミリアン=アドルフ=バルデスと申します。

 遠い昔、この国で宮廷騎士などをやらせていただいておりました」


通りで菓子屋の店主にしては、鍛えられた体をしていたわけだ。

ここにいた人々が一目置いていたのにも得心がいく。


「継承の儀がなされているなら他の者は入れませんが、エメさんの話によると、姫様の術が陣の力を借りて行使されているだけのようです。

 ならばこの術風は、この剣で切り裂けます」


「俺が行っていいのか」


エメを伺う。

自慢じゃないが、魔術はさっぱりわからない。


「私は無理よ。術の性質が違うから、跳ね飛ばされちゃう。

 それにああなった原因がカールなら、ルチノーちゃんを止められるのは・・・あなたしかいなそうだわ」


ならば、と剣を抜く。

刀身が淡い光を放った。

すっと剣を降ろすと、その場所だけ風が凪ぎ、またすぐに風が戻った。

どうやら一瞬だけ入口を開けるようだ。

深く息を吸って、吐く。

呼吸を整えて、いざ、店主から受けとった剣を振り下ろした。






中に入ってみると、外よりも強い風が吹き荒れ、すぐ後ろにいるはずのエメたちの姿すら見えなくなった。

退路を確保できないまま進むのは正直言って不安だが、この先にルゥがいる。

そう思って歩を進めた。


「ルゥ! どこだ!」


風はルゥから噴き出していた。

ということは、風の強い方へ向かえばいい。


「ルゥ!」


剣を振るい、腕で目を守りながら進む。

先に、光るものが見えた。ルゥだ。

そこではたと気が付いた。

エメは俺にしか止められないと言ったが、ルゥのところまでたどり着いたとして、どうすればいいんだ?

ルゥに会って、俺にできることといえば・・・。


光に近付く。

波打つ髪は風に乱れ、見慣れぬ青紫ヴァイオレットの瞳には、何をも映していなかった。


「ルゥ、もう大丈夫だ」


剣を地面に突き刺す。

両手を広げ、光を抱きしめた。


「・・・・カール?」


「あぁ」


「カール、大丈夫?」


焦点が合い、俺を見止める。


「あぁ。これくらいの怪我、平気だって言ったろ」


「カール・・・!」


ぎゅうっとしがみついてくる。

髪を撫で、額に、頬に口づけていくと、次第に嵐がおさまっていった。

宙に浮いてぎりぎりと締め付けられていたアヒムが、どさりと落ちる。


「ルゥ、ようやく会えた」


「ん・・・カール・・・。

 ごめんなさい、私のせいで」


「ルゥのせいじゃない。悪いのはあのアヒムとかいう男だろう」


「アヒム・・・そう・・・。

 カールに怪我をさせて。しかもカールを殺すって・・・。

 アヒム、嫌い。あんな人、いらない」


ルゥが地面に倒れるアヒムを睨みつける。

再びルゥの周りに風が巻き起こる。


「だめだ、ルゥ」


頬を両手で包み、乾いた唇に口づけた。


「ん、何、カール。めないで」


「だめだ。君の手を汚す必要なんてないんだ」


アヒムはすでに虫の息で、びくびくと痙攣していた。

これ以上やったら本当に死んでしまう。

アヒムの方へ向かおうとするルゥを、抱きしめ口づけた。

無理矢理俺の方を向かせて下唇を舐め、また角度を変えて口づける。


「んっ、カール、行かせて」


「だめだ。他の男のところなんて行くな。

 俺だけ見てろ」


「そ、そういうことじゃないんだけど・・・。

 あっ・・・ふ・・・」


口づけの合間に、歯列を割って舌を差し込む。

髪を撫で、舌をからめれば、だんだんとルゥが蕩けてくるのがわかった。


「あとは、俺にまかせて。エメもいるから、ルゥが無理することない」


「そう、なの? もういいの?」


風が、おさまる。

ルゥが体の力を抜いて、俺に寄りかかってくる。


「あぁ」


そっと離して瞳を見つめれば、かすかに微笑んでがくっと膝が折れた。


「ルゥ!?」


慌てて揺する。

呼吸に乱れはない。気を失っただけのようだった。


「よかった、ルゥ・・・」


細い腰を支えてほっと息をつくと、急に辺りの音が聞こえてきた。

これは、戦いの音!?


「カール! のんびりしてないで、こっちを手伝ってちょうだい!」


手で印を結び、正面の黒ずくめの男をエメがはじきとばす。

店主も手に剣をもち、応戦していた。


「これは一体!?」


暗殺者集団フィダーイーよ! 様子を伺ってたのね!

 日の出と同時に攻めてきたわ。

 くっ・・・朝日を背にしていたから、気付くのが遅れて・・・」


エメの足元には、刺されたらしい民衆が倒れていた。

ルゥを抱え上げ、宝剣をとって駆ける。


その背後で、一人の男がアヒムに近付いていた。

倒れたアヒムの髪をつかみ、強引に起き上がらせて喉仏に短剣を押し当てた。


「裏切り者には死を。

 たとえ尊師の息子であっても例外はない」


「ひっ・・・」


何気ない動作で引かれた短剣が、どす黒い血をその首から吹き上がらせた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ