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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第1部
9/100

9 舐めてみました


*****



家に帰ると、出迎えたルゥが俺の手を経て肩によじのぼってきた。


「すごいなぁ、自分で一気に登れるようになったのか。

 少し大きくなったのか?」


ゴロゴロと喉を鳴らしながら、耳元に頭をすりつけてくる。

髭が頬にあたってくすぐったい。


「ははっ、どうしたんだ。今日はやけに甘えてくるじゃないか。

 帰りが遅かったからかな。ごめんな」


ひとしきりルゥを撫でまわしてから、ヨシばあさんにもらった夕飯の残りを食卓テーブルに並べた。

鶏胸肉の香草焼きは、皮をとって細かく裂いてやる。

野菜の煮込み・・・は玉ねぎが入っているな。

豆だけ取り出して、指先でつぶしてルゥの口元に持って行った。

はぐっと豆を食べ、「んなー」と鳴いた。


おお、俺の手から食べている。


感激して次の豆を差し出した。

これも食べる。うれしい。


「うまいか。まだあるぞ」


次々と豆を与えるうち、俺の手は汁だらけになってしまった。

ルゥが、小さな舌で指の間や手の平の汁を丁寧に舐めとっていく。


そういえば、昨日は妙な夢を見たな。

隣に眠るルゥが少女になっていた。

よくは覚えていないが、16・7歳といったところか。

子猫だと思っていたけれど、人間の年にすればそれくらいなのか。

あまり大きくならない種類なのかもしれない。


指を舐めるルゥの姿が、昨夜ゆうべの少女と重なる。

人型でこんな風に舐められたら・・・?


「うわ!」


立ち上がった拍子に、椅子がガタンと大きな音を立て、倒れそうになった。

驚いたルゥが飛びのいて、テーブルの端から不思議そうに俺を見る。


「あ、いや、すまん。ちょっと・・・」


口元を押さえ、しどろもどろになる。

頬が熱い。


「俺・・・何考えてるんだ・・・。欲求不満か?」


それとも最近秋波を送ってくる村の女性陣に影響されたか。

立ったついでに台所で手を洗う。

深呼吸をして戻ると、ルゥは鶏肉をほおばっていた。

気を取り直して話しかける。


「ヨシばあさんの料理はうまいだろう。俺のよりいいか?」


ルゥが喜ぶなら、毎日わけてくれるように頼んでみるか。

ルゥはちらりと俺を見たが、返事はせず残りの鶏肉にとりかかった。

なぜルゥが人型になるなんて夢を見たのかはわからないが、なれるものならなってみてほしい。

いや、不埒なことを考えてるわけではなくて、ルゥが何を考えているのか、話してみたいから、だ、ぞ。


自分で自分の考えに言い訳をしながら、豆のなくなった野菜煮込みを口に運んだ。



*****



昨日のカールは、ちょっと様子がおかしかった。

お夕飯のときは急に立ち上がって真っ赤になってたし、お風呂のときも私を洗っていたかと思うとぴたっと手が止まってしまった。

カールがいつまでも固まっているから、たしたし!と叩いてみたら、慌ててお湯をかけられて耳に入った。

仕返しにぷるぷると体を振って、しぶきを飛ばしてやった。


「わ!やめろ、ルゥ」


「んなーッ」


「俺が悪かった。そう怒るなよ」


苦笑しながらあやまって、ふかふかのタオルで拭いてくれた。

しょうがない、許してあげよう。

寝台では、カールの胸の上で丸くなった。


「俺も意識しすぎだよな。明日から客が来るんだから、しゃんとしないと・・・」


「んな?」


お客さん?


「兵舎に測量隊が滞在することになったんだ。

 手伝いで女性も2人来るんだ。

 今日の夕飯は調理担当のヨシばあさんが作ってくれたやつなんだ。うまかっただろ?」


ちょいちょいっと指で鼻先をくすぐられたので、あぐっと噛んでみる。

どおりでいつもと味付けが違ったわけだ。

香草が効いていて、おいしかった。

その味を思い出し、甘噛みしていたカールの指をぺろっと舐めた。


「俺の指の話じゃないぞ?そうだ、おまえが舐めるから変なことを考えたんだ。ったく・・・」


ぶつぶつと文句を言いながらも、少し満ちてきた月に照らされるカールの瞳は甘い。

私を見て細められる深い碧の瞳がきれいで、身を起こしてじぃっと覗き込んだ。


「どうした?」


彼の両目に私が映りこむ。

あらためて猫の自分を見て不思議な気分になり、小首をかしげた。

彼の瞳の中の白猫も、首をかしげている。

ひげをふるわせ、鼻をぴすぴすと鳴らしてみた。


「くくっ・・・何してるんだよ」


カールが笑うと体が揺れて、私はずり落ちそうになった。


「おっと」


大きな手に支えられ、そのまま抱きすくめられた。


「かわいいなぁ、ルゥは。あったかいし、いい匂いだ」


「んなー?」


カールも同じ匂いだよ??

上を向こうとしたら、顎で頭をぐりぐりされた。

痛いっ痛いよっ

「ふぎっ」っと変な声が出て、カールをひっかいてしまった。


ってぇ・・・」


鼻先に血がたらりとたれる。

ありゃ、ごめん。

耳もひげも垂らして、カールの血を舐めとった。


「ぅなー・・・」


「ははっ、猫にひっかかれるなんて久しぶりだな」


痛かったはずなのに、それすらうれしそうに笑うカールに、胸がきゅんと締め付けられた。


私、こんなに甘やかされちゃっていいのかな。








幸せなのが不安だなんて、知らなかったよ・・・。






閑話でカールの妄想ルートがあるんですけど、R15でいけるんでしょうかね(笑)。

ためておいて、お月様のほうに投稿しようかなぁ・・・。

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