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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第5部
88/100

15 湖にて

*****



てってってっ。

月夜をしばらく歩くと、大きな湖に出た。

湖面に月が映り、美しい。


「ルチノーちゃん!?」


突然、声をかけられた。


「エメさん!!!!!」


振り返ると、空を飛ぶエメさんがいた。

我を忘れて飛びつく。


「あぁ、よく無事で・・・!」


私を抱きしめるエメさんは、涙声になっていた。


「遅くなってごめんなさいね。

 カールも近くまできているわ。

 方角的にもうヴィルヘルミーナしかないと思って、飛んできたの」


そっか! やっぱり探してくれてたんだ!

さらにエメさんから、王子様が無事であることを聞いた。


「とにかく一度ブルクハルトに戻りましょう。

 ヴィルヘルミーナの人たちには、あとできちんと説明するから。

 あっと、カールにもルチノーちゃんに会えたことを伝えないとね」


エメさんが懐から手の平大の水晶球を取り出す。


「ちょっとまってね。代用で持ってきたから調整が必要なのよね。

 えーっと、ここがこうなって、あれがこうで・・・。

 えぇい、面倒くさい! とりあえず水鏡でいいわ」


エメさんが湖を覗き込む。


「カール、カールっと・・・・あらぁ?」


「エメさん?」


「うーん、これはちょっと・・・まずいことになってるみたい」


まずいこと?


「ルチノーちゃんがさっきまでいたところのこと、詳しく教えてくれる?」


エメさんにうながされ、知っていることをすべて話した。

アヒムに首輪チョーカーをはずされ、力が暴走したこと。

気を失っている間に旧ヴィルヘルミーナ領(ここ)に連れてこられたこと。

ヴィルヘルミーナの再興を願う人々の集落にいたこと。

アヒムは・・・私を女王にして自分は王様になる気でいること。


「あと私の髪の色、昔は違ったみたいなんだけど・・・」


生まれつきだと思っていた白い髪は、本当は金色だったのかもしれない。


「そうね。ちょっと人の姿に戻ってくれる?」


「え」


ここで?

きょろきょろと辺りを見回す。

湖のほとりは夜露に濡れる柔らかな草が生い茂り、ところどころに小さな紫の花が咲いている。

湖面はぎ、しんと静まり返って他人の気配はない。


「でも、裸になっちゃう」


猫のまま、何も持たずに出てきてしまったから。


「大丈夫。ほら」


エメさんが懐から服を取り出した。

するりと出てきた服は、平服ではなく上等なドレス。

エメさんの紫の法衣の下って、どうなってるの?


「こんなこともあろうかと思ってね。

 え? どこに入ってたかって? 細かいことは気にしないの!」


エメさんに手伝ってもらって、ドレスを身に付ける。

青みがかった白い布地は光沢があって、たくさんの襞が手足を動かすたびに揺れる。

胸元は逆三角形に大きく開いていて、金縁の刺繍が襟と袖口にされている。


「これ、胸見えちゃう」


上から覗き込むと、谷間がくっきりと見える。

こんな服、恥ずかしいんだけど。


「このレースをつけるの」


エメさんが手に持っていた生地をボタンでとめると、谷間は見えなくなって鎖骨だけ強調された。


「あとベルトね」


取り出された太いベルトを腰に巻く。

外付けのコルセットのような意匠デザインで、胸の下から腰骨までを覆って、おなかの前で交差させた紐で結んだ。


「うふん、いい出来」


一歩引いて全身をながめたエメさんはとっても満足そう。

あの、私の髪の色の話だよね?

カールも、大変なんじゃなかったっけ?


「あと靴とー、ブレスレットとー」


「エメさん」


「髪型はどうしようかしら。こっちの飾り紐が」


「エメさん」


「あ、この留め具忘れてた」


ごそごそごそ。

たもとを探る。


「エメさん! カールは!」


「あ、そうだった」


ぽとっと靴を落としたエメさんは、本当に忘れてたみたい。


「ごめんなさい、ルチノーちゃんに会えたのが嬉しくて、つい、ね?」


「ね? じゃありません」


かわいく片目をつぶってみせるエメさんをじとっと睨む。


「はいはい。じゃぁ靴だけね。裸足じゃ歩けないでしょ。

 首輪チョーカーは・・・。あぁ、これはもう役に立ってないわ」


腰を下ろして編み上げ靴を履く私の後ろで、エメさんが首輪チョーカーの留め金をはずした。


「あっ」


力が暴走しちゃう!


「大丈夫」


ぎゅっと目をつぶって身構えたけど、何も起こらなかった。

変化のない自分に驚き、エメさんの手に乗せられた首輪チョーカーを見つめる。


「なんで・・・はずしたのに」


「力が暴走してそのあと気を失ったって言ってたわよね。

 不幸中の幸いっていうのかな。

 その時に、ルチノーちゃんはもう自分の力を制御コントロールできるようになってたのよ。

 首輪これがなくちゃだめって思い込んでただけで。

 その姿も、自分の姿はこれって思い込んでるだけだわ」


「思い込んで・・・?」


「そう。本当は何色なの?」


「ええと」


おぼろげな記憶にあるのは、金。

以前カールが一房だけ金の髪があると言っていた。

多分その色。

そして、瞳の色はお父さんと同じ薄い青。


「あら、いいわね。似合うわ」


「え?」


エメさんに手招きされて湖を覗き込めば、月光の元、見知らぬ女性が映っていた。


「これ、私・・・?」


「うん。色が違うし、魔力が解放されているから、ちょっと印象が違うけれど、それがルチノーちゃんの本来の姿だわ。

 いままでは自分の思いこみで色や姿を形作っていたのね」


風に揺れる、腰まで届く金の髪。

頬は興奮のせいか紅潮し、産毛の先まで力がみなぎって、全身から淡い光を放っている。

こころなしか、顔立ちも大人びた気がする。

唯一の名残は、瞳の色。

ブルーの虹彩は記憶にあるよりも赤みを帯びていて、薄青というより青紫ヴァイオレットになっていた。


「成人の儀のとき、ろくな魔術の訓練もなしによくいままで無事だったって思ってたけど、違うのね。

 孤児院に預けられる前に、力を封じられたんだわ。

 あんまりその力が大きかったから、衝撃で色素が抜け落ちたんでしょう。

 それが、今戻ったのよ」


「そうなんだ・・・」


自分の手の平をじっと見つめる。

指の一本一本が光ってる。

目を凝らすと、不思議な文様が体に刻まれているのが浮かんだ。

これは何?


「さらわれたとき、もしかして力を使おうとした?

 そこから解放がはじまってたのね。

 あふれだそうとする力と封じようとする力が相まって、双子石は割れて水鏡でもところどころしか見られなかったんだわ」


「割れちゃったの?」


カールとおそろいの石。

絆が断たれてしまっていたような気がして、手の平の文様のことはすっかり抜けた。

あとでエメさんに聞けばいい。


「えぇ。ほら」


首輪チョーカーからころりとはずされた石は、裏側にひびが入っていた。


「水鏡もねぇ、今のルチノーちゃんを見ようとしたら、太陽を直視するようなもんだわ。

 これじゃ映らないわね」


そうなんだ。

私を探そうと、きっといろいろしてくれてたんだな。

カールも、たぶん必死になって・・・。


「あの、で、カールは」


「うん。この先に広場があるみたい。

 そこではりつけにされてるわ」


「!!!???」





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