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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第5部
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11 追跡


袋で身体の中心をかろうじて隠した私は、王子様を背にしてアヒムと対峙する。


「ほらよ」


すると、アヒムが粗末な服を投げてよこした。

このまま何かされるのではと思っていた私は、意外に思いつつも素早く服を身に付ける。


「俺は出かけてくる。

 明け方には戻るから、そのガキ、適当に寝せとけ。

 水だの食いもんだのはその辺にある。

くれぐれも外には出るな。脅しじゃぁなく、危険だからな」


言いたいことだけ言って、本当にアヒムは出て行ってしまった。

後には私と王子様だけ残される。


「・・・ねこたん?」


つん、と裾を引かれた。

不思議そうな顔をする王子様の前で、もう一度猫になり、また人になって見せた。


「ねこたん! しゅごい!!」


「ルチノー、と言います。ジェラール王子」


「わあぁぁぁ、しゃべれるぅ。

 ねこたん! ううん、ルチノー! しゅごいねー!」


黒い瞳をきらきらと輝かせて、私に抱きついてくる王子様。


「痛いところはありませんか?

 さっき蹴られたところ、だいじょうぶ?」


「んん、くち、いたい。せなかもいたい」


王子様が言うところを一つ一つ確認していく。

口の端は切れていて、背中にはあざができていた。

しかしどれも命にかかわるようなけがではない。

おなか側ではなかったのは幸いだ。


「ルチノー、のどかわいたよ。おなかもすいた」


そういえば、攫われたのは午後早い時間。

今はもう外の様子から深夜だろう。

アヒムが言い置いて言った場所を探し、水甕と固いパンを見つけた。

ミルクがあれば、パンを煮てあげられるんだけど、せめてと、お湯を沸かしてちぎったパンを浸す。

王子様は文句ひとつ言わずそれを食べ、板の間に体を横たえて、私の膝を枕に眠った。


粗末な小屋の中は、ジジ・・・っと蝋燭の芯が燃える音だけがする。


遠くで、獣の鳴き声のようなものが聞こえた。


これから私はどうなるんだろう。


アヒムの目的はなんなんだろう。


カール、心配しているだろうな。


カール、会いたいよ・・・。




*****




馬を潰さない限界ぎりぎりまで飛ばし、夕方には王都から遠く離れた森の入口にいた。

森に入ってしまうと獣に襲われる危険があるし、月明りが届かなくても困る。

今日はここで野宿にしよう。


水場を見つけ、馬を休ませる。

携帯食料で簡単な夕食をとるころには、白い月が昇り始めていた。

エメから預かった指輪型の魔術具を、月の光に当てる。

しばらくすると、球体がぼぉっと白く輝いて、淡い光を放った。


『カール? 聞こえる?』


指輪をぼんやり見つめて、ルゥは今頃どうしているだろうかと考えていると、突然すぐ近くでエメの声がした。

驚いて辺りを見回すが、こんなところにいるはずもない。


『もしもし、カール?』


見れば、球体の光がちかちかと点滅し、そこからエメの声がしていた。

そうだ、通信用の魔術具だと言っていたではないか。


「聞こえている」


『あ、そう。よかった。どう? そっちは』


「とりあえず、森の入口にいる。

 木の特徴から、方向は合っていると思う」


『そうね。

 こっちは、聞き込みの結果、一昨日幌付きの荷馬車が街道を抜けて行ったって話がでてる。

 やけに荷物が軽そうで、御者も不似合な感じだったから通り沿いの店主が覚えてたって』


「そうか」


『あと、あなたは休暇扱いになってるみたいよ。

 親衛隊長さんが何やら細工してくれてたから、もし会ったらうまく話を合わせることね』


「・・・」


『ねぇ、あなた酷い顔してるわよ。

 そんなんじゃルチノーちゃんに会えてもかえって心配かけちゃうわ。

 無理するなってのも無理な話だけど、できるだけ体を休めながら行ってね』


「この魔術具が伝えるのは、声だけじゃないのか」


『そっちはね。私は水鏡も併用してるから、あなたの姿も周りの景色も見えてるわ。

 指輪それ、明日からは指にはめてて。

 夜だけ月の光に当ててね』


エメの言葉に、一人うなずく。

見えているというなら、これで問題ないだろう。


『・・・あなた、そんなに無口だったっけ?

 いつもなら勝手に見るなとか、こんなのはめられるかとか言いそうなんだけど。

 あー、なんか調子狂うわぁ。しっかりしてよね。

 じゃ、また明日の朝連絡するからね』


球体の点滅が止まる。

月の光を集め終わったのか、白い光もおさまり、辺りは夜の闇に包まれた。

空には無数の星がまたたいている。


「しっかりしてよね、か」


言われなくてもわかっている。

ルゥが攫われたとわかって、自分でもどうにもできないほど動揺した。

何も手につかず、かといって何からしたらいいかもわからず、闇雲に探し回った。

昼間は捜索部隊の一員として隊長の指示に従って動きつつ、夜は城下町をさまよった。

家に帰ってからも、もしかしたら、今この瞬間帰ってくるかもと思い、一睡もできなかった。

このままではいけないと、三日目にして隊長室を訪れた。


胸元から、双子石のペンダントを取り出して手の平に乗せる。

ルゥは今どこにいるのか。

エメの話によれば、攫われた当日、すでに城下町を出ていたというではないか。

もっと早く動くのだった。

賊は城を出られないと言う思い込みが、部隊の動きを鈍らせた。

自分は親衛隊員であるという自負が、決断を遅らせた。


手の上で、ペンダントを撫でる。

ルゥの瞳と同じ色の貴石は、月明りに鈍くきらめいていた。

彼女ルゥが隣にいない今、エメにもらったペンダント(これ)だけが、俺とルゥをつなぐ唯一のものとなっている。

他人エメにもらったものなどではなく、ちゃんと自分たちで選んで、形あるものをそろえておけばよかった。

そう思いながらも、双子石に口づける。

指先に、ざらりとした感触がある。

あの日以来髭を剃っていなかったか。

通りで酷い顔だと言われるわけだ。


「まるでルゥに出会ったころのようだな。

 明日は髭を剃ってから出かけるか」


独りごちて、ルゥを思いながら無理矢理眠りについた。





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