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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第1部
8/100

8 夢



*****




不思議な夢を見た。

純白の少女が隣で眠っていた。

つややかな白い髪の端には赤いリボン。

なぜか驚くこともなく、彼女はルゥだと思った。

目を開けることがあれば、その瞳はきっと紅玉のように美しく輝いているに違いない。

だから、いつもルゥの背を撫でるように髪を一撫でして、そっと抱き寄せた。






「測量隊?」


「えぇ、この村にも回ってくるみたいっすよ。今日通知がきてました」


ギュンターに渡された書類には、目的やメンバーなどが書かれていた。


「地図作りか。何百年も前のあいまいなものしかないからな。

 滞在期間は一週間・・・兵舎に空きはあるのか?」


「5人すよね。家の近い奴は一時的に通ってもらいましょう」


「そうだな」


滞在中の身の回りの世話も頼む、とある。

食事の用意や洗濯など普段は自分たちでしていたが、村の女手を頼ることにする。

明後日には着くというので、早速午後から準備にとりかかった。

そして夕方。


「俺、隊長の人気を舐めてました。

 ちょいと村の女に声かけたら、ほとんど立候補しましたよ。どうしましょう」


「・・・色恋沙汰にならない女性ひとにしてくれ」


「了解。明日面接しますから、立ち会ってくださいね」


「おまえだけじゃだめか」


すごく、すごく面倒そうだ。

俺の好みで選んだなどといわれたら困る。


「隊長見て赤面するようなのは失格っす。

 座ってるだけでいいからいてください」


「・・・・わかった」




面接の結果、2人の女性に手伝いを頼むことにした。

調理担当は、警備隊に孫がいるというヨシばあさん。

若い頃、街で料理屋をしていたらしい。

掃除・洗濯をしてくれるのは、スヴァルという背の高い、針金みたいに痩せた女性。

40近いようだが独身とのこと。

子どもを産めない体質だが世話は好き、ということで村の子どもたちを日中預かって乳母のようなことをしている。

今はちょうど誰も預かっていないそうで、測量隊の手伝いを希望した。


早速、食材の調達や部屋の掃除をしてもらう。

手が足りないところは隊員も手伝う。

ヨシばあさんは恰幅の良いばあさんで、孫(ヨゼフJr.だった。死んだと言う散髪屋の孫でもある。ということはヨシばあさんはその伴侶か)を中心にすぐに打ち解けた。

調理場に早く慣れるため、と作ってくれた夕飯もとてもおいしかった。

スヴァルは穏やかで控えめな女性だった。

控えめ・・・というか存在感そのものが薄く、気付くと背後に立っていたりする。

軍人にあるまじき醜態だが、気配を全く感じさせないので驚きだ。

仕事はゆっくりだが丁寧で、いつのまにか兵舎の中がきれいになっていた。


「女性がいると、隊が華やぐっすねぇ」


「そうだな。あわただしかったが、こういうのも悪くない」


「あれ・・・・隊長・・・」


「ん?」


「いえ、なんでもないっす」


にやっと笑うギュンター。

言いかけて途中でやめるなんて、気になる。

しかしどうせろくでもないことなんだろうと、忘れることにした。


「測量隊の到着は明日の午後の予定だったな。

 俺はもう帰るが、後を頼んでいいか」


夕飯を兵舎で食べてしまったので、いつもより遅くなっている。

ルゥは腹を減らして待っているだろう。


「えぇ。お疲れ様でした」


見送るギュンターに片手をあげて挨拶をして、家路を急いだ。



*****


夢を見た。

私は孤児院の前の道で、小石を拾って絵を描いていた。


「これがまぁま、これがぱぁぱ」


実の両親の面影を覚えていたころだから、4、5歳かな。

丸を組み合わせただけの絵だけど、本人は大好きな両親のつもりだ。

そのころはまだ、いつか迎えに来てくれると信じていた。

母親はドレスを着て、父親はマントをつけている。

前日にでも読んでもらった絵本の影響か。


「あ、おひめさまにはティアラがなくちゃね」


仕上げに頭飾ティアラりと王冠を描こうとしたところに、


「ルチノーじゃんか!なぁにしてんだよッ」


ザッと足が割り込んできた。

土埃が舞い、絵がかき消される。


「あ、ごめんなぁ。わざとじゃねぇんだ。あははははは!」


「アヒム・・・・」


同じ孤児院の、私の後からやってきた3つ年長になる男の子だった。

院長先生の前ではいい子だけど、陰で私をいじめていた。


「うっわ、気持ちわりぃ。

 赤目でにらむんじゃねぇよ。呪われるだろ」


「にらんでない。見てるだけ」


「同じことだよ!真っ白な髪といい、不吉な見た目のせいで捨てられたんだろ!」


ぐいっと髪をひっぱられた。


「やめて!捨てられたのはアヒムだって一緒でしょ!」


「うるせぇな!俺は預けられただけだよ!てめぇと一緒にすんじゃねぇ!!」


言い返したら酷くなるのはわかってたけど、生来おとなしいほうではない。

特に小さいころは何でもはっきり言っていた気がする。

向かっていっても、子どもの3歳差はとてつもなく大きくて、いつも傷だらけになるのは私だった。


「ふん!いちいち逆らうんじゃねぇよ。

 おまえは俺におとなしく殴られてりゃいいんだよ。

 おまえを殴るとなぁ、なんでかすっきりするんだ!

 親に捨てられたおまえが俺の役に立ってるんだぜ!喜べ!」


アヒムは、おなかや背中、お尻など、服で隠れるところばかり狙って殴ったり蹴ったりした。

院長先生に心配をかけたくない私は、傷やあざを誰にも言わず、アヒムが孤児院を去るまでの2年間、ただ耐え続けた。

彼の親が迎えに来たのか、他の人に引き取られたのかは知らない。


あの頃はつらかったなぁ。




カールの家の窓辺で、まどろみから目覚めた。

あれ、今日はちょっと遅いんだな。

いつも夕暮れ時には帰ってくるのに、もう日は沈みきって暗くなっていた。

寝すぎたから、嫌な夢をみたのかな。

夢の残滓が体にまとわりついているような気がして、ぷるぷると身を振った。


あれは過去。

どんなにつらいことがあっても、私の親は迎えになんて来てくれないと思い知った日々だ。


歩く拍子に尻尾がゆれ、赤いリボンが目に入る。

大丈夫。今の私は幸せ。

カールがいるから。

赤目をこのリボンのようにきれいだと言ってくれて、白い毛並みを優しく撫でてくれる。

私の居場所はここなんだ。




「ただいま」


「んなー」


ようやく帰ってきた彼と、いつものやりとり。

カール、大好き。




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