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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第5部
75/100

8 襲撃



*****




胸がむかむかする。

リクハルド様が、これ見よがしにルゥに触りまくっている。

ルゥもルゥで、なぜ触らせておくんだ。


「カール! 負けたら承知しないわよ!!」


エメの声が聞こえる。

なんだ、女魔術師のやつ、いつもは憎まれ口ばかりなのに、俺を応援してくれるのか。


「ユハ! 手加減はいらんぞ! 勝利の暁には望みの褒美を与えよう!」


「望みの?」


国王の声に、正面に立つユハがぴくりと反応した。

俺を見てにやりと笑う。


「では、勝たせてもらうとしよう」


「ふざけるな。勝つのは俺だ」


向けられた切っ先を剣先で払う。


「こら、おまえら、まだ試合前だ。合図を待て」


にらみ合う俺たちを、隊長がいさめる。

距離をとって、号令に合わせて礼をした。


「用意、はじめ!」


ガツ!


ヴァイノとの試合とは違い、はじめから打ち合いになった。

お互い一歩も譲らず、激しく剣を交わす。

刃先を潰してあるとはいえ、攻撃がもろに当たったら、良くて打撲、悪ければ骨折する。

キィン!

胴を狙ってきた一撃を、剣を立てて防ぎ、一歩下がる。

踏み込んで開いたユハの足元を、身を低くして一閃すれば、返した右足で蹴りを繰り出してきた。

顎をそらして避け、逆袈裟(けさ)に切り上げる。

それを体をひねって避けたユハは、飛び退すさって間合いをとり、態勢を整えた。


ユハの剣先がゆらりと揺れる。

技量は五分五分。力は俺が、速さはユハが上だ。

奴の軌道を読み間違えば、一瞬で負ける。


右か。

左か。

上か、下か。


見えるものに頼っては、惑わされるだけだ。

剣を正面にかまえ、目を半眼はんがんにして気配を探る。


「!」


来る・・・!


ユハの狙いは右側面。

避けては間に合わない。

模擬刀の柄を返し、ひねりを加え、体重をかけて打ち下ろした。

ガツッ

鈍い音と共に、両者の剣が折れた。

ユハの剣先は地面に突き刺さったが、俺の方は前方にはね跳んだ。


しまった!




「陛下!」


何人かの近衛や親衛隊員がリクハルド様を取り囲み、他の者は周囲を警戒している。

折れた模擬刀の先は、リクハルド様のいる方向へ跳んだ。

もしや、お怪我でもさせてしまっただろうか。

両方の剣が折れてしまったので、試合は一時中断だ。

様子を伺いに、リクハルド様の元へ向かう。


エメを胸に抱き、しゃがみこむ国王の足元には、何本もの矢が落ちていた。

何が起こったのか。


「大事ない。私のことはいいから、賊を追え」


「「「はっ」」」


リクハルド様の無事な様子にほっとしつつ、どうしたものかと遠巻きにしていた俺たちに、副隊長が声をかけてくれた。


「カール、ユハ。

 飛んできた剣先に一瞬気を取られた隙に、矢が射かけられた。

 また、直後に襲撃を受けた。賊は逃走中。

 試合は中止だ。指示を待つように」


「はっ」


なんと、本当に賊が現れたのか。

装備を整えるためだろう、ユハは身をひるがえし、控室へと足早に歩き出す。

俺は、ユハの後に続きながらも、目の端で白い影を探した。

そんな俺に、エメが気付く。


「カール、探し物はここよ」


リクハルド様の腕の中から抜け出したエメの手に、白猫が抱かれていた。

猫は俺に目を留め、ひと声鳴く。


「にゃ~ん」


「・・・違う」


「え?」


「ルゥじゃない。ルゥ? ルゥはどうした!?」


白い毛並み。赤い瞳。

金の首輪にはまった双子石の色合いも同じ。

しかし、何かが決定的に違う。

眉をひそめたエメは、ついっと猫に手をかざした。


「なんてこと」


猫の輪郭がぼやけ、くすんだ茶トラの猫に変わる。

首輪はしていなかった。


「幻惑の術だわ。いつの間に!」






親衛隊なかまにより発見された賊は三名。

いずれも、訓練場の裏で、舌を噛み切って自害していた。

エメの術により、この場から出られなかったためと思われる。

作戦成功と喜ぶ隊員たちを横目に、俺は必死でルゥを探した。

事後処理を終えたエメも手伝う。


「カール・・・。私がついていながら、ごめんなさい。

 実は、もう一つ知らせたいことがあるの」


「・・・なんだ」


「これはまだ極秘なんだけど、ジェラール様もいないのよ」


「何?」


エメの話によれば、一人で訓練場に向かうのを目撃されたのを最後に、行方不明だという。

ルゥと違い、王子ジェラールのことは近衛中心に八方手を尽くして探された。

しかし、夕闇が迫った今もまだ見つかっていないそうだ。


「ルゥと王子? 関連があるのか?」


「わからないわ。でも、時を同じくして消えたとなると、無関係とは言い切れないかもしれない」


「・・・くそ・・・っ」


そういえば、ルゥは王子ジェラールと何度か会ったことがあるような話をしていた。

もしや、他の猫とすりかえられ、王子ジェラールをおびき寄せる道具にされたのか?

だとすれば、彼女は今どこに・・・。



王子ジェラールなんぞ、俺はどうでもいい。

ルゥ。

無事でいてくれ!




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