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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第5部
74/100

7 武術大会3


キィンと澄んだ音が響き、勝負は一瞬で決した。


「きゃあぁぁぁ、ユハ様ああぁぁ」

「素敵ー!」

「さすが、私のユハ様!」

「なんであんたのなのよ! こっち向いて、ユハ様ー!」


黄色い歓声が響き渡る。

ユハさんはそんな女性たちに、申し訳程度に手を振った。


「きゃああ、こっち見た!」

「ユハ様あああ!」


さらに白熱した声援が送られる。


「え? もう終わり?」


「あぁ。ユハめ、腕をあげたな」


「んなー???」


さっぱりわからない私とエメさんに、王様が解説をしてくれた。


「あいつの普段の得物はフランベルジェと呼ばれる片手剣だ。

 刀身が波打つ形になっていてな、殺傷能力が極めて高い。

 試合は一般的な模擬刀だが、片手剣フランベルジェと同じように切っ先を揺らして相手に太刀筋を読まれないようにしていた。

 ベントがしびれを切らして切り込んできたところを、剣に沿って受け流し、キヨンに引っかけてはじいた」


「あー、そういえば、剣先をゆらゆらしてたわねぇ」


「うむ。片手剣フランベルジェであれをやると、炎が揺らめいているように見えることから、ユハは戦場では炎の使い手と呼ばれている」


へぇ。

ユハさんってすごいんだなぁ。

でも見てそこまでわかる王様も、実は相当強いのかな。


「さて、次はカールとヴァイノか。

 カールは長剣使いだったか。

 手足の長さを生かして、なぎ倒すように敵を蹴散らしていたな。

 ヴァイノは槍が専門で、騎馬戦が得意だったはずだ。

 一対一の試合ではどうなるか・・・」


んん、王様の口ぶりだと、一緒に戦ったことがあるみたい。

この国で戦争って聞いたことないけど、実はあったのかな。

私は辺境でのカールしか知らないから、敵と戦うカールなんて想像もつかない。


「両者向かい合って―」


親衛隊長さんの号令がかかる。


「用意、はじめ!」


「きゃあぁ、カール様、がんばってー!」

「ヴァイノ様ー!」

「カール様ー!」


試合開始と同時に、声援が飛ぶ。

カールへの応援のほうがちょっと多いかな?

モテすぎるのは嫌だけど、こういう応援はうれしい。

私も、しゃべってよければ大声でカールの名前を呼びたい。


「ルゥ、こっちに来ないのか?」


「うにっ」


「んふ、余計ないたずらしたから嫌われたんじゃない?」


「なんだ、つまらんな」


「いいから、見てなさいよ。あ、ほら、動いたわ」


初めの立ち位置から、にらみ合ったままだった二人が、じりっと動いた。

ヴァイノさんが右に動けばカールは左へ。

カールが右へ動けば、ヴァイノさんは左に動く。

一定の距離を保ちながら、二人は円を描くように移動していた。


じり・・・じり・・・・


どれくらいの時間が経っただろう。

いつの間にか声援は止み、観覧席は緊張に包まれていた。

カール、がんばって!

心の中で応援する。


すっと、ヴァイノさんが腰の位置に剣を引いた。


「突きが来るぞ」


「え?」


エメさんにつられて王様の顔を見た瞬間、「わぁ」とも「おぉ」ともつかないどよめきが会場に広がった。

何? どうしたの?


「勝者、カール=ヘルベルト=ヴュスト!」


「わああああ」

「きゃー! カール様ああああ!」


「あああ、あなたのせいで見逃したじゃない!」


エメさんがばしっと王様を叩く。


「人のせいにするなよ」


「うなー!!」


いや、王様のせいだ!

変なタイミングでしゃべるから!


「そなたまで・・・。うぅ、痛い」


エメさんに叩かれ、私の猫(パンチ)を受けた王様は、わざとらしくおなかを押さえた。


「演技はいいから解説しなさい」


「おまえ、私を誰だと思ってるんだ」


「ブルクハルト国王リクハルド陛下、わたくしどもに只今の試合についてご教授願えませんこと?」


「・・・いい性格をしているな」


「お褒め頂き光栄ですわ」


「気持ちが悪いからその話し方はやめろ」


「じゃ解説してくれる?」


「わかった、わかった」


降参、と両手をあげた王様は、なんだかとっても楽しそう。

そして私たちが目を離した一瞬の間に、カールがどうやって勝ったのか教えてくれた。


「まったく、偉そうにねぇ。はじめから素直にしゃべればいいのよ。

 何が“私を誰だと思ってる”よ。リックはリックでしょ」


「うむ」


ますますご機嫌になった王様は、私に手を伸ばし喉元を撫でた。

ごろごろ

つい喉が鳴ってしまう。


「陛下!」


がつん!

至近距離で激しい音がして、からからと地面に剣の鞘らしきものが落ちた。


「お怪我はありませんか」


「うむ、大丈夫だ」


「カール! 気を付けろ!」


「すみません、手が滑りました」


カールが投げたらしい鞘をはじき返したのは、丸眼鏡をかけたちょっと神経質そうな人。

いつもカールとお昼を食べている、副隊長さんだ。


「陛下、申し訳ありませんでした」


「かまわん。

 そうだ、ヘルマン。優勝者への賞品はどうなっているんだ?」


「金一封の予定です。隊の予算ではなく、みんなから集めた金です」


「ふむ。わかった」


へぇ、賞金なんて出るんだ。

そういえば、カールが負けたら私がみんなに会うとかなんとか言われたなぁ。

王様との会話が終わると、副隊長さんは持ち場に戻った。


「いよいよ決勝戦ね。今度こそ見逃さないようにしないと」


「なぅ!」


「あいたた、ルチノーちゃん、爪立てないで」


あ、ごめんなさい。

つい、力が入っちゃった。


「ふふ、愛するご主人様だものね、勝つといいわね」


「ふに・・・」


愛するって、愛するって・・・。

そ、そうだけど改めて言われるとくすぐったい。


「いやん、耳垂れちゃって! 照れるルチノーちゃんもかわいいわぁ」


「エメ、ほどほどにしないとまた鞘が飛んでくるぞ」


「私は大丈夫よ。

 よし、じゃぁ仕方ないからカールを応援してあげましょう」


「お、そうか。では私はユハにしよう。何を賭ける?」


「賭けぇ? うーん、そうね。

 私が勝ったら国王専用書庫の秘蔵本見せてくれるかしら」


「いいだろう。では私が勝ったら正妃に・・・」


「やめた。割に合わない」


「ではなくおまえからキスしてくれるか?」


「はぁ?」


「いつも私からだからな。どうだ」


うーん、と悩むエメさん。

本とキスって・・・賭けとしてつりあうの??


「いいわ」


「よし」


「そうと決まれば・・・カール! 負けたら承知しないわよ!!」


「ユハ! 手加減はいらんぞ! 勝利の暁には望みの褒美を与えよう!」


「あ、なによ、それ、ずるい! 私は、えーっと・・・」


王様が応援に加わったことで、観覧席の声援は、試合開始前だというのに地響きがするほど大きなものになった。

みんな口々にカールとユハさんの名を叫ぶ。


訓練場の中央に、親衛隊長さんが出てきた。


「では、これから決勝戦を行う。

 あらためて、選手の紹介をしよう。

 東側、ユハ=アウノ=テラスト!」


「きゃあああ」

「ユハ様ー!」


「西、カール=ヘルベルト=ヴュスト!」


「カール様ー!」

「がんばってー!」


「決勝戦のみ、時間無制限。

 降参するか、戦闘不能と俺が判断するまで続けてもらう。

 試合だからといって気を抜くんじゃねぇぞ、本気でやれ!」


「「はい!」」


「よぉし。両者向かい合って、礼!」


ぞわり


え?

ひげが震える。

背中の毛が、ぴりぴりと逆立つ。

何? この感じ。


「用意、はじめ!」






カールが身動きとれないからって、王様、やりたい放題ですw

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