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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第5部
73/100

6 武術大会2


*****




訓練場の観覧席。

その中でも一段高くなった特等席に、王様の席はあった。

左右を近衛騎士が守り、後ろは親衛隊員が守っている。


「なんで私があなたの隣なわけ?」


エメさんが不満そうに王様に言う。


「私の側が最も警戒が厳重だから、安全だろう」


「そうね、最も安全で最も危険な場所だわね」


「ははっ、うまいこと言うな」


「言いたくて言ってるんじゃないわよ!」


がたんとエメさんが立ち上がった拍子に、膝から落ちそうになる。


「んにゃぅっ」


「あっ、ごめん、ルチノーちゃん!」


慌ててエメさんが抱えなおそうとしたら、王様に抱き上げられた。


「カールは準決勝に出るのだろう?

 せっかくだ、こっちで見たらいい」


「なぅ!」


ほんとだ。

席の位置も中央だし、体格のいい王様の膝の上は、とっても見晴らしがいい。


「何言ってるのよ。危ないって言ってるでしょ。

 ルチノーちゃん、こっちにいらっしゃい。

 リックが襲われたら巻き込まれるわ」


あ、そうか。

王様囮作戦だった。


「なぁに、何かあってもそなたは守る」


「それでリックに怪我でもされちゃ、ルチノーちゃんが気にするじゃない」


「私のことはエメが守ってくれるのだろう? 大丈夫さ」


「うなー・・・」


エメさんの膝の上の方が安全だと思う。

王様に抱かれてるとカールの機嫌が悪くなるかもしれないし。

でもなぁ、見晴らしはここが一番いいんだよね。

カールががんばってるところ、一番いいところで応援したいな。


「ではカールの出番だけでどうだ?」


私の心を読んだみたいに、王様が言った。


「うな!」


「ほら、ルゥも喜んでるぞ」


「うーん、まぁ、それなら大した時間じゃないかもしれないけど・・・」


「決まりだな。ではルゥ、今はエメの膝の上にいるがよい。

 試合が始まったらこっちにこい」


「なぅ!」


ありがとう、王様!

嬉しくなった私は、後ろ脚で立ち上がり前脚を王様の胸にかけて、ほっぺたをぺろっと舐めた。


「お、猫っぽいじゃないか。かわいいもんだな」


「ルチノーちゃん、むやみに愛想振りまくのは考えものよ。

 ほら、違う方向に闘志を燃やしちゃった人がいるじゃない」


エメさんが指さした方向を見ると、お昼の休憩を終えたカールが準備運動をしに訓練場に出てきていた。

ばちっと目が合った瞬間に睨まれる。

いや、睨んだのは私のことじゃなくて王様か。


「ははっ、怖い怖い」


「でしょ。さ、試合開始まではまだ時間があるから、ルチノーちゃんを渡して」


「まぁ待て」


そう言って王様は、持ち上げた私のお腹に頬ずりした。


「!!!!!」


剣をざくっと地面に刺したカールは、私たちの方に駆け寄ろうとしてとっさに踏みとどまり、訓練場の壁を殴り始めた。

そ、そんなに叩いたら拳を怪我しちゃうよ?


「あっははは! おもしろいな」


「あなたねぇ、部下をからかうのはやめなさい」


そうだ、そうだ!

まったくもう、王様ったら。

今夜うちに帰ってからのことが怖いよ。


「んなぅ」


「そうね。私のところにいたほうがいいわよね。

 さ、いらっしゃい」


今度は素直にエメさんの膝へ飛び移った。

うん、ここからでも十分見える。

カールに怒られるより、こっちにしようっと。




「只今より、午後の部、準決勝を始める!」


親衛隊長さんが、試合用に四角く描かれた枠の中央で叫ぶ。

わぁっと歓声と拍手が起こった。

いつのまにか、観覧席は城勤めの人々で埋まっていた。

あ、あそこにいるのはいつも見かけるお洗濯のお姉さんだ。

あっちにいるのは料理番のおばさん。

中庭のお手入れをしている庭師おじさんもいる。

えーっと、他には・・・。

ぞわり

観覧席を見渡していると、悪寒が走った。


な・・・に・・・今の。


「ん? どうかした? ルチノーちゃん」


ぴぃんと耳を立てた私を、エメさんが覗き込む。

毛は逆立って、しっぽもばひばひになっている。


「んなぅあぅ」


「寒気? 歓声にびっくりしたの?」


歓声? そうなのかな。

たくさんの人の熱気に当てられたのかな。

もう一度周囲を見渡す。

今度は何もない。

気のせいだったのか。


「カールの出番は次のようだな。

 まずはユハとベントか」


王様の声で我に返る。

そっか、ユハさんも出てたんだ。

応援しなくちゃ。


「両者、向かい合って・・・礼!」


親衛隊長さんが号令をかける。

中央に進み出たユハさんと相手の人が、礼をして剣をかちんと合わせた。


「用意・・・はじめ!」






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