*** 記念小話 チョコレート ***
お話の途中ですが、「白猫の恋わずらい」お気に入り登録2500件、「同月光編」1000件突破、さらに逆お気に入りユーザー100名様を記念いたしましての小話です。
皆さま、本当にありがとうございます!! 今後とも精進いたしますので、何卒よろしくお願いします^^
休日の午後、ルゥとお茶を飲んでくつろいでいると、玄関を叩く音がした。
「はい?」
扉を開けると、菓子屋の箱を持ったユハがいた。
「よお、カール。アドルフ菓子店の新作が・・・」
バタン! 鼻先で締め出す。
「なんだよ、せっかく休憩時間に抜け出して買ってきたんだぞ。今日からの販売なんだ」
「いいから仕事に戻れ。明日受け取る」
「今日食った方がうまいに決まっているだろう。ルチノーさんは? いるのか?」
「いない。出かけている」
「・・・嘘をつくな。開けろ」
「うるさい。帰れ」
扉越しにしばらく言い合っていたが、急に静かになった。あきらめたか。
「すまない、ルゥ、お茶の続きを・・・ルゥ?」
「わぁ、チョコレート? ありがとうございます」
「いえ、中に何か入っているらしいんです。食べる時は一口でどうぞと言われました。気を付けてくださいね」
「はい。何が入っているのかしら、楽しみ!」
出窓から、菓子の受け渡しをするルゥとユハがいた。
「ルゥ・・・・・」
俺の苦労をなんだと思っているんだ。
脱力して、がっくりとうなだれる。
ユハはそんな俺を見て、にやりと笑う。
「では、これで失礼します。午後の勤務があるので」
「はい、ありがとうございました」
あっ、こら、なぜ手をとる。
あああ、手の甲にキスだと!? ふざけるな!
「ユハを家にあげるなと言ったろう」
「窓越しでも?」
「だめだ」
「んもうっ」
菓子を置いてルゥの手をとり、石鹸を使って気のすむまで洗う。
赤くなってしまった甲に口づけ、指の一本一本まで何度もキスをした。ついでに両手で頬を包んでたっぷり口腔を味わい、くだけた腰を支える。
「ん・・・ふぅ・・・・っ、カール、何なの・・・」
「消毒」
「・・・馬鹿」
うるんだ瞳で睨まれても、余計そそるだけだ。
いけない、まだ昼間だぞと自分に言い聞かせ、ルゥを抱き上げて、ソファに戻る。
「お菓子、食べていい?」
「あいつがもってきた菓子なんぞ食うな」
「お菓子に罪はないじゃない。いいよ、私一人で食べるから」
ルゥは俺の膝の上にちょこんと座ったまま、ユハが持ってきた箱を開ける。
一粒とって、口に運んだ。
「んっ、んんん!」
きゅっと目をつぶって、口元を押さえる。
「どうした?」
「おいしーい! 中に何か液体が入ってる」
ぱっと顔を上げての極上の笑顔。
これが、ユハが持ってきた菓子のおかげだと思うと悔しい。
「やっぱり食べたくなった?」
俺のしかめっ面をどうとったのか、あーん、とルゥが差し出したので、一つ食べてみた。
これ、口辺りはずいぶんいいが、中身は純度の高い蒸留酒じゃないか?
ルゥは酒を飲めただろうか。一緒に飲んだことはなかったような・・・。
箱を見ると、いつのまにか数がかなり減っている。
「おい、ルゥ、それくらいにしておいたほうが・・・」
「ん? なぁに? くすくす・・これ、おいしぃねぇ」
やっぱり。
気付けば、耳まで真っ赤に染めて、すっかりできあがったルゥがいた。
以前またたびの実に触れたときのようだ。
「ねぇ、カール、もういっこ、あーん」
「いや、もういい」
「なぁにぃ? せっかく私があげるって言ってるのに、いらないのぉ?」
じとっと睨んでくる。
ぐ。からみ酒か。
「わかった。食うよ」
「いいもん。嫌々食べる人なんかにあげないんだから」
ぷいっと前を向いて、一口齧る。
割れた箇所から琥珀色の液体がこぼれ出た。
白い顎を伝って、胸元に入り込む。
「いやぁん、こぼれちゃった。どうしよう」
「拭いてやる。こっちを向け」
「そんなこといって、カールはすぐえっちなことするからだめー」
「だめって、おい」
べたついて気持ちが悪いのは自分だろう。
「くすくす。拭かせてなんか、あげなーい」
そういって、ぴょんと俺の膝の上から降りて駆けだす。
「待てって、ルゥ!」
酔って走ったりなんかしたら、さらに酔いがまわる。案の定、ぐらりと小さな体が傾ぐ。
「ルゥ!」
「だめー」
支えようと伸ばした手を避けられる。
さらにソファの周りをぐるりと一周して、捕まえようとしたところをするりと逃げられた。
「くすくす・・・カール、こっちだよ」
台所を抜け、玄関ホールを二周したところで追いかけるのをやめた。
ルゥは笑いながら二階に駆け上がって行く。
どうなっても知らないぞ、俺は。
溜息を一つついて、追いかけっこで散らかった家の中を片づけることにした。
俺だって、いつもいつもルゥに振り回されているばかりじゃないんだ。
呼べばすぐ来ると思うなよ。
あぁ、掛けておいた上着が落ちてるじゃないか。
菓子の包みも散らかしっぱなしだ。
・・・声が聞こえなくなったな。
足音もしない。
いや、我慢だ。ユハの寄越した菓子なんか食うから悪い。
ルゥは酒を飲んだのは初めてだろうか。
あの中身、結構度数の高い酒だったな。
いやいやいや、俺は途中で止めたんだ。
服だって、拭いてやろうとしたのに、「えっちなことするからだめ」ってなんだよ。
そんないつでも手を出しているわけでは・・・ないとはいえないが。
「・・・ルゥ?」
少し心配になって、階段下から呼びかけてみる。
返事はない。
まさか急性飲酒中毒で倒れたとか!?
焦って二階に上がると、踊り場にぺたんと座り、真っ赤な顔をして服を脱ごうとしているルゥがいた。
「あ、カール」
どうも、服を脱ぐのに一生懸命になっていて、返事をしなかったらしい。
「だ、大丈夫か?」
「んんん、暑いぃ。暑いの・・・」
袖は脱げたが、襟から腕を出そうとして頭がつっかえて出せなくなっている。
ボタンをはずそうにも、酔っているせいでうまくできない。
「カールぅ、助けて・・・」
「君ね・・・、ははっ」
自分の服に絡まって助けを乞う姿に頬が緩む。
まったく、ルゥにはかなわない。
万歳をさせるように裾から持ち上げて脱がせた。
「ありがと。カール、好き」
下着一枚で抱きついてくる。
これは・・・困ったな。押し倒してもいいものか?
「ね、キスして?」
頬を染めてねだられれば、断れるわけもない。
酔っ払ったルゥ、いいかもしれない。
ユハ、よくやった!
ルゥの望み通り、濃厚なキスをしながら、抱き上げて寝室に運んだ。
寝台にそっと降ろし、髪を撫で・・・・ん?
「ルゥ? おい、ルゥ!」
「ん・・・もう食べられない・・・」
むにゃむにゃと罪のない寝言を言う彼女は、すでに夢の中。
ゆすっても少々いたずらしても起きない。
「・・・それはないだろ・・・」
くそ、ユハめ、覚えてろよ。
楽しいはずの休日の午後を、一人悶々と過ごすハメになった俺だった。
次の日の隊舎。
「カール、すまん! 昨日の菓子の中身、酒だったろう。ルチノーさんは大丈夫だったか?」
「・・・ふっ・・・・。ユハ、ありがとうな」
「? なんだ?」
「酔った彼女はすごかったぞ。ちょっと耳を貸せ」
「なんだ」
「あのあとな、彼女の方から、×××で×××で×××だったんだ」
「!!!!????? ×××で×××で×××!? そんな・・・!」
「しかもな、×××で×××で×××だ」
「~~~~~!!!!」
その日一日、ユハさんで憂さ晴らしをしたカールなのでした~。