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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第5部
67/100

1 王城の子ども

*****



とてとてとて。


高く上げた尻尾を揺らしながら、お城の中庭を歩く。

あ、エメさんに王様は連れて来るなって言われたんだ。どうしよう。

執務室に向かいかけた足が止まる。

庭の真ん中で悩んでいると、押し殺したようなかすかな泣き声が聞こえた。

声をたよりに歩いていくと、白い花を咲かせる林檎の木の下で、小さな子どもが泣いていた。

う、猫の姿で子どもは鬼門。

以前、猫になりたてのころ、追いかけまわされた忌まわしい記憶が蘇る。

でも小さい子が一人で泣いているのはかわいそうだし・・・。


「んなーぅ」


そっと近づいて、様子を伺ってみた。

私の鳴き声に気付いた子どもは、顔を上げてじっとこちらを見ている。

涙に濡れた真っ黒な瞳が印象的な、きれいな顔をした子どもだった。


「んな」


「ねこたん」


立ち上がった子どもは、よたよたと私のところまで歩いてきて、小さな手を伸ばしてきた。


「ねこたん、いいこ、いいこ」


「うに」


手の平をつっぱって頭を撫でる。

決して気持ちがいいわけではないけれど、泣き止んでくれたからいいか。

大人しく撫でられていると、ばたばたと走ってくる女性がいた。


「ジェラール様! ジェラール様!?」


「あ・・・タマラ・・・」


「まぁ、こんなところにいらしたのですね! お勉強の時間です。お部屋にお戻りください。

 なんです、その猫は! 野良猫なんかに触ってはいけませんよ」


タマラと呼ばれた女性は、金切声をあげて私を睨みつけた。

なんだか、感じの悪い人だなぁ。

私を知らないってことは、新しい人なのかな。


「ねこたん、のらじゃないよ。ちゃんとくびわしてる」


「首輪? あら、ほんと。猫にはずいぶん分不相応な代物ですこと。どれ・・・」


タマラの手が私の首輪チョーカーに伸びる。

あっ、ちょっと、何するの!

これ、はずれたらとってもまずいんだって!

毛を逆立てて威嚇するけれど、タマラはそんなことはおかまいなしに、ぐいぐいと首輪を引っ張る。


「あら、はずれないわ。鍵なんてかかってる」


こうなったらひっかいてやる! そう思って爪を立てかけたとき、ようやくタマラは諦めてくれた。

カールのいたずら対策が、思わぬところで役に立ったみたい。


「ねこたん、だいじょぶ?」


「んなーぅ」


私を心配してくれる子どもの手を、ざりっと舐めた。


「んふふ、ねこたんのべろ、おもしろい」


そう? 気持ちいいでしょ?


「ああ、おやめください。汚いわ。さっ、家庭教師の先生がお待ちです」


「ねこたん、またね」


気に入らない女に手を引かれた子どもは、名残惜しそうに何度も振り向きながら去って行った。




*****




「それはたぶん、シャンタル様の御子だな」


「シャンタル様?」


夜、風呂からあがって、ルゥの髪を梳く。

銀の糸をつむいだような髪はさらさらと手触りよく、至福の一時だ。

タオル一枚を体に巻いただけで椅子に腰かけるルゥは、胸の谷間が覗き見えてなんともいい眺めだ。


「あぁ、第三妾妃で今年23歳になられるのかな。大層控えめな方だそうだ」


「王様って三人も奥さんがいるんだ」


「普通じゃないか」


王ならば珍しくない。俺はそう思ったが、ルゥは違ったようだ。


「それなのに、エメさんに言い寄ってるの?」


「あー・・・。ま、気の多い方だから」


「そう。協力するなんていって、馬鹿みたい。

 私、もしカールが他の女の人も奥さんにしたいっていったら、嫌だな・・・」


ん、言いたかったのはそっちか?

両手を膝の上で握りしめて、うつむく姿が愛らしい。


「くす・・・絶対そんなことはないから安心しろ」


そう言って、華奢な肩を撫でて、小さな耳朶を甘噛みした。


「んっ・・・・あん、カール、せっかくお風呂に入ったのに、また汚れちゃう」


「そうしたらもう一度入ればいいさ」


「でも・・・あぁっ」




その後二回風呂に入り直して、ようやく寝台に落ち着いた。

すでに半分眠りに落ちているルゥを胸に抱き、髪を根元から毛先まで手で梳いて撫でる。


「そういえば、さっき髪を梳いていて気付いたんだが・・・」


「ん・・・なぁに?」


「ほら、ここ。内側の一房が、金色になってる」


寝ぼけ眼のルゥの前に、色が変わった髪をとって見せる。

その一房は、月明りに映えてきらきらと光っていた。


「あ・・・・、ほんとだ」


髪の色に劣等感をもつルゥは、驚いて目を見開く。


「ルゥ、もしかして元は金髪だったのか?」


「え、わかんない。あ、でもお母さんは金髪だったって、前エメさんが言ってた」


「そうか。大人になると色が変わるのかもしれないな。ここははじめから金色だし」


すっと下の茂みに触れれば、びくんとルゥが反応した。


「えっ、あっ、ちょっと、もう寝なくちゃ」


「うん、寝よう。おやすみ、ルゥ」


「そんなところいじられてたら、眠れないよぅ」


「そうか? 俺は眠れる。温かくて気持ちがいい」


「あぁん、もぅっ、カールの馬鹿っ」


紅玉の瞳を潤ませて、ぽかぽかと俺の胸を叩く。

あぁ、またそんな可愛らしい顔をして。眠らせたくなくなるじゃないか。


「わかった、わかった。ほら、これでいいだろう。おやすみ、ルゥ」


「ん・・・おやすみ」


髪をなで、腕枕をしてやる。

触れるだけの軽いキスに安心したルゥは、すぐに寝息を立て始めた。


俺の、愛しいルゥ。

こんな日々がずっと続くといい―









月光編あります^^

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