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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第4部
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16 筋トレ




「よぉ、カール。具合はどうだ」


今日もヴァイノが声をかけてきた。


「あぁ、大丈夫だ」


「今日は本当みたいだな。嬉しそうな顔しやがって。何かいいことでもあったか?」


「ははっ、ちょっとな」


昨日学んだことがある。

ルゥを甘やかすばかりでなく、俺が彼女に甘えてもいいのだということだ。

ルゥは俺に嫌われるのが怖いと言っていたが、俺の方がずっとそれを恐れていた。

でもルゥは、俺の情けない部分や弱い部分を見せても、きっと笑って受け止めてくれる。

小さくか弱く思えるルゥだが、芯は彼女のほうがずっと強いのかもしれない。


「カール。奥方はあれ、わかったか?」


ヴァイノが去った後、ユハがこっそり尋ねてきた。


「あぁ。喜んでた。今日何か作ると言っていたから、明日持ってくる」


「持ってこなくていい。食べに行かせてくれ」


「みんなの分を作るとはりきってた。大量に作るみたいだから、家では食いきれん。持ってくるよ」


「そうか・・・。次回はぜひ食べに行くと伝えてくれ」


「わかった」


「他に欲しい材料があったら、菓子職人に伝手があるからいつでも言ってくれよ。すぐに届ける」


「あぁ、まぁ、そうだな。伝えておく」


なんだろう。やけにうちに来たがるな。

硬派なユハに限って、という思いはあるが、もしや国王よりもこいつのほうが要注意か?

まったくもって油断ならない。

俺の心の平穏のために、ルゥにはこれ以上、絶対誰も会わせないようにしよう。




次の日、ルゥが持たせてくれたのは、バニラビーンズをふんだんに使った、カスタードクリームが入った丸パン。

隊長以下30名ほどいる隊員たちにはとても好評で、また会わせろ攻撃にあってしまった。


「このしっとりしたパン生地になめらかなクリーム・・・。すばらしい・・・!」


ユハは、甘味好きどころか甘味(マニア)だった。

パンとクリームを分解して、少しずつ口に運んでは「卵黄が」とか「牛乳か、山羊乳か」とかつぶやいている。

ルゥに横恋慕かと思ったのは、杞憂だったか。


「おまえ、それだけ甘いもの好きなら、女たちといくらでも会話できるじゃないか。

 女性は詳しいぜぇ?」


マルリが呆れたように言う。


「必要な情報を得るまでに時間がかかりすぎる。それなら自分で店に足を運んだほうがいい」


「あっそ。どんだけ女嫌いだよ」


「嫌いなわけではない。面倒なだけだ」


「はいはい。菓子作りのうまい、大人しい嫁さんが見つかるといいな」


「そうだな・・・」


ちらりとユハが俺を見る。

ん? なんだ?


「余ったパン、もらって帰ってもいいか?」


「あぁ。もちろん」


そういうことか。残った数個を、ユハは嬉しそうに鞄に詰めた。

よほど甘いものが好きなんだな、うん。


「今度武術大会やるって?」


茶器を適当に水で洗いながら、マルリが言う。

昨日隊長が言っていたばかりなのに、さすが情報が早い。


「隊内でってやつか。カールの長剣とオロフの戦斧の力比べが楽しみだな」


ヴァイノはまるで他人事のようだ。


「おまえはやらないのか?」


「槍じゃなぁ。接近戦は不利だよな」


「それ言ったら、俺、短剣じゃないの」


身軽さを売りにしているマルリは、短剣の二刀使いだ。


「だからね、全員訓練用の剣でやろうと思っているよ」


「「「副隊長」」」


「カール、差し入れご馳走様。隣の部屋でいただいたよ。

 皆そろっているようだね、ちょうどいい。隊内の武術大会の要項を作ったんだ。目を通しておいてくれ」


「一か月後、模擬刀、時間制限ありですか」


要項を受け取ったヴァイノが読み上げる。


「得物ごとに対戦相手を決めることも考えたんだけどね。一位を決めるのが目的じゃなくて、あくまでも隊内の意識高揚が目的だから。

 期日は式典の後にした。傷だらけで行進はしたくないだろう」


「そうですねぇ」


「賞品は? 何かあるんですか?」


他の隊員から声があがる。


「考え中だ。何か要望があったら言ってくれ」


「金!」

「休暇!」

「女!」


好き勝手な声が飛ぶ。


「金と休暇はわかるが、女ってどうする気だか」


呆れてつぶやくと、


「じゃ、俺が勝ったら奥さん連れてきて見せて」


マルリがにやっと笑って言った。


「では、俺が勝ったらお茶に招待してもらおう」


なんだ、ユハ。おまえまで。


「俺が勝ったら夕飯をご馳走になるか」


「俺は・・・別にいいけど、また差し入れしてほしいな」


「ヴァイノ、オロフ。ったく暇な奴らだな。俺が勝ったらどうする気だ」


「俺ら四人全員に勝つのは無理だと思うぜぇ?

 もし勝ったら旅行でも豪華料亭の食事でもなんでも奢ってやる!」


「トーナメントじゃなくて総当たりする気か? いいだろう。

 一対四の賭けってのもずるい気がするが、負けるつもりはない。覚悟しろよ」


「おう! よぉっし、俄然やる気が出てきたぜ!」


マルリが握り拳を作って叫ぶ。


「いい掛け声だね。ちなみに最下位だけは決まってるよ。コスティ隊長の故郷で一週間の合宿だ。小麦の収穫体験付き」


「ひでぇ!」

「それが目的か!」

「合宿なんていって、ていのいい労働力じゃねぇか」


「ははっ、負けなきゃいいんだよ。負けなきゃね」




*****




カールが鍛錬トレーニングをしている。

家の中でできることなので、筋力作りが中心みたい。

一週間で、二の腕はぐっと太くなって、胸板も厚みを増した。


「すごいね、固い」


仰向けになっておもりを持ち上げている腕をさわると、かちかちに固くなっていた。

人の腕とは思えないくらい。

私なんてぷにぷになのに。


「ぜっ、た、い、に、はぁっ、負けられないからな」


どすっと降ろされたおもりは、動かそうとしてもびくともしなかった。

こんなの持ち上げてたのかぁ。


「負けたら何かあるの?」


「あー・・・最下位は強化合宿だが、実は・・・」


同僚の人たちと賭けをして、私がその対象になっていることを知った。


「勝手に、すまん。でも、絶対に負けないから」


「う、うん。あんまり大勢の人に会うのはちょっと・・・」


「俺も会わせたくないから、こうしてがんばっている」


「そうだよね。奥さんが私みたいなのじゃ、カール、恥ずかしいもんね」


「違う。・・・はあぁ。ルゥは自覚がないからなぁ」


「自覚? 私の髪や目が嫌がられるのは十分わかってるわ」


「そうじゃない。あぁ、ここのところ俺、こんなことばかりだな・・・」


「???」


「とにかく、勝つから。で、うまいもの奢らせよう」


「うん? 応援するね」


よくわからないけど、カールががんばるっていうのなら応援したい。

私にできることってなんだろう。

カールに聞いたら、「いてくれるだけでいい」って言われた。

それじゃ困るんだけど・・・。


「じゃぁ、うまい飯。ルゥの作るものはなんでもうまいが、鶏肉中心にしてくれると嬉しい」


お肉はお肉でも、鶏肉が一番鍛錬にいいんだって。

よぉし! 私も今日から武術大会まで、カールのためにがんばろうっと。




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