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焼きたての林檎のパイをほおばる。
うん、おいしい!
生地はさくさく、中の煮込んだ林檎はじゅわっと甘くて、我ながらよくできた。
でもね、気付いちゃったの。
これ、猫じゃ持っていけないじゃない・・・。
カールは、あんまり甘いもの食べないし、どうしよう。
どん! と玄関の扉に何かがぶつかる音がして、目が覚めた。
いけない。ソファで転寝してた。
がちゃがちゃと鍵を開ける音。
カールが帰ってきたんだ。
「おかえりなさい、カー・・・・あ、こ、こんばんは」
「どうも、夜分遅くにすみません。少し飲ませすぎてしまったようで・・・」
帰ってきたカールは、同僚らしい男性に支えられてぐったりしていた。
さきほどまで私が横になっていたソファに運んでもらう。
「ん・・・ルゥ・・・ただいま」
「おかえりなさい。こんなに飲んで・・・大丈夫?」
「だ・・・か、ら・・・キ・・・」
赤い顔をしたカールは、何か口の中で言っていたけれど、聞き取れないままに寝息を立て始めた。
決してお酒が弱い方ではないはずだ。こんなになるまで飲むのは珍しい。よほど楽しかったのだろう。
お礼を言うために、送ってきてくれた男性に向き直る。
短めの黒髪。切れ長のこげ茶の瞳は、ちょっと冷たい印象を与える。
引き締まった体は、さすが親衛隊の人で、カールより少し低いけどかなり背が高かった。
男性は、ユハ=アウノ=テラストと名乗った。