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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第4部
55/100

11 飲み会

*****


「今日は同僚と飲み会なんだ。遅くなるから先に寝てて」


「わかった。いってらっしゃい」


いつものようにキスをしてカールを見送る・・・んだけど・・・。


「んっ・・・んん・・・」


侵入してきた舌が、尖らせた先で上あごをくすぐり、私を吸う。

長い指がうなじを撫でて、がくっと膝から力が抜けるまで離してもらえなかった。


「あ・・・はぁっ・・・カール・・・」


「しまった・・・。夜遅くまで会えない分、補充しようと思ったら、やりすぎたな。

 出かけたくなくなってしまった」


ぎゅうっと抱きしめられる。

私もカールの背中に手を回して、きゅっとくっついた。


「できるだけ、早く帰ってくる。戸締りはしっかりしておいて」


「うん」


今度こそ軽いキスをして、カールは出かけて行った。


そんなに遅くまでいないんじゃ、今日は何をしようかな。

そうだ、明日のエメさんとの勉強会に、お菓子を持って行こう。

なにができるかと、家にある食材を確かめる。

小麦粉、お砂糖、卵・・・あ、林檎。

林檎のパイがいいかな。シナモンがないか。


「ヴュストさーん、おはようございまーす!」


「はーい」


ちょうどいいところに、行商の人が来てくれた。

ショールを目深に被り、玄関に向かう。

辺境にいたころは、村の人にもらったり兵舎に来た行商の人からカールに買ってきてもらったりしてたけど、王都では戸別にお店の人が来てくれるから便利だ。

一日置きくらいにご用聞きに来てくれて、その場で買うこともできるし、後で配達してもらうこともできる。

うちに来てくれるのは、いつもにこにこして人のよさそうなおじさん。

時々恰幅のいいおばさんが一緒に来ることもある。


「今日のおすすめはこれとこれだよ」


「じゃぁ、こっちをください。あとシナモンはありますか?」


おじさんが勧めてくれた葉物野菜を手に取る。


「あー、今はないけど、午後もう一回このへん回るから、その時届けるよ」


「ありがとうございます」


「こっちこそ毎度どうも。あ、奥さん。この間、城に納品に行ったときにね、旦那さん見かけたよ。いい男だねぇ」


「わわわ。ありがとうございます」


カールがほめられたことも嬉しいけど、“奥さん”っていう呼び方に照れちゃう。

“ヴュストさん”って呼ばれるのにも、まだ慣れない。


「ははっ 赤くなっちゃって、かわいいね。うちのも若いころはかわいかったんだけどなぁ」


「あのふくよかな方が奥さんですか?」


「ふくよかっつーか、太ってんだよ。はははっ 今のは内緒な」


おじさんは人差し指を口元にあてて、ついでに玉ねぎを2こ、袋に入れてくれた。

おまけというより口止め料かな。ちょっと得した気分。


「じゃぁ、また午後来るから」


「はい。よろしくお願いします」


シナモンは午後か。

お菓子作りはあとにして、お洗濯をしてしまおう。




*****




「カールの復帰に」

「我らが親衛隊ガーディアンに」

「ブルクハルト王家に」

「「「「「乾杯!」」」」」


小気味良い音をたてて、麦酒エールがなみなみと注がれたグラスがぶつかりあう。

城下町にある『三匹の子猫亭』には、俺を入れて5人の親衛隊員ガーディアンが集まっていた。


多少お調子者だが、情報収集に長けるマルリ。

騎馬戦と長槍パイクが得意なヴァイノ。

がっしりとした体格の、戦斧ハルバート使いのオロフ。

片手剣フランベルジェを扱わせたら、右に出る者はいないユハ。

ちなみに俺は、両手持ちの長剣が得物である。

皆、年が近く、よくつるんでいる仲間たちだ。


「しっかしなぁ。カールが結婚とは! しなさそうな奴に限って早いんだな!」


一杯目を一気に空けたマルリが、俺の背中をばんっと叩く。


「ごほごほっ ここにいる奴は、誰もしてないのか?」


近衛のときも一緒だったユハとマルリのことはよく知っているが、他は親衛隊に入ってからのつきあいなので、私生活までは知らなかった。


「いんや、オロフんとこは、この間娘が生まれたよな」

「あぁ。リナというんだ。かわいいぞ。目に入れても痛くないとは、こういうことを言うんだな」

「おまえの娘なのにかわいいのか?」


ヴァイノが茶々を入れる。


「悪かったな。うちのに似たんだよ」

「そりゃよかった」

「でも耳の形は俺にそっくりなんだぞ。手なんかこんなにちっちゃくてなぁ」

「こいつ、娘自慢始まると長いんだよ。ヴァイノは婚約者がいるんだよな。俺は何の予定もナシ」

「ユハは?」

「俺もないな。女は面倒でいかん」

「っかー! よく言うよ。城の侍女の間で、カールかユハかで派閥が出来てたんだぜ。

 ここにきて、カールの結婚でおまえの一人勝ちじゃないか。よりどりみどりさ」

「マルリだって、城の女たちとしょっちゅうしゃべってるじゃないか」


ユハがグラスを傾けながら、つまらなそうに言う。

奴のグラスは、いつのまにか麦酒から白い液体に変わっていた。

甘味かんみ好きのユハが好んで飲む、パナマという酒だ。


「あれは情報収集しごと。女の噂話って馬鹿になんないのよ?」

「長いばかりで中身のない話だろ。うんざりする」

「わかってないなぁ。女の噂話はすごいんだぞ。隣の晩飯から、上司の下着の色までわかる」

「それ知ってどうなるんだよ」


オロフの相手をしていたヴァイノが会話に入ってくる。

この手の話には、つっこみたくなる性分らしい。


「ま、どうにもならんわな。例えだよ、例え」

「例えが悪すぎるだろ」

「んなこと言ったってしょうがないだろ。毎日毎日機密事項ばかりしゃべってるわけじゃないんだから」

「やっぱりくだらんな」

「ユハ~」


ばっさり切ったユハの肩に、マルリがすがりつく。

ヴァイノは肩をすくめている。

オロフはといえば、大柄な体相応に、がつがつと食事を口に運んでいた。

口いっぱいに頬張った肉を麦酒エールで流し込んで、ちらっと俺を見る。


「で、おまえの嫁ってどんなんよ」

「あっ、そうそう。俺も聞きたかった」

「カールの噂は、隊が違っても結構聞こえてたぞ。相当遊んでたって」

「それは誤解だ。なぁ、ユハ」

「誤解かどうか・・・。女が切れたことがないのは確かだな」

「おいおい、ちょっと待て」

「そうだよな~。うちの嫁も、一時期騒いでた。だから俺もおまえの浮名はかなり知ってるぞ」

「そのカールが落ちるんだからな。美人か? 美人なのか?」

「美人というか・・・かわいいかな」

「うぉぉ、惚気のろけんじゃねぇよ! まぁ、飲め。で、どうかわいいんだ」

「おまえが聞くから答えたんだろ。どうって・・・顔とか仕草とか」

「普通すぎる。もっと具体的に言え」


ヴァイノ。つっこみ属性な奴め。


「リナはなぁ。笑ってもあくびをしてもかわいいぞ!」


「おまえの娘の話はもういい。んで耳が似てて手が小さいんだろ。足も小さいんだよな」

「そうそう。なのに爪がしっかりあって・・・」

「だからいいって。カールの嫁の話だろ。年は? 背格好は?」

「と、年? 年は・・・」

「なんでユハを見るんだよ。カール、おまえってば昔から困るとユハを頼るよなぁ」

「う。背はな、小さい方だろうな。小柄っていうのか。腰も折れそうに細いし」

「で、胸がでかいのが好みなんだよな」

「案外俗っぽいな」

「リナは絶対嫁にやらん」

「オロフ、話聞けよ。自分でふっといてなんだ」

「話が進まない。カール、で、年はいくつなんだ?」


ユハに冷静に問われる。

これは逃げられないか。


「・・・8」

「28?」

「3つ下か。どこで出会ったんだ? 赴任先の辺境か?」

「いや」

「王都か? 戻ってきてから? 行く前から付き合ってたのか?」

「いや、出会ったのは辺境だが、年が違う。・・・18だ」

「えぇ!?」

「じゅうはち!?」

「18!?」

「おっまえ・・・犯罪だ!」


テーブルの下でどかどかどかっと足を蹴られた。

一発多かったぞ。誰か二回蹴りやがったな。


「そりゃかわいいわな~」

「毎日そそくさと帰るわけだよ」

「意外だったな」

「あ~、もう、飲め飲め!」


麦酒エールは蒸留酒に変わり、どんどんグラスに注がれる。

空の瓶が増え、酔いがまわる。

早く帰るとルゥに言ったが・・・どうも無理そうだ。




ユハに担がれて家に帰ったのは、日付をとうに過ぎてから。

寝てていいと言ったのに、ルゥは起きて待っていた。

どさりと居間のソファに倒れ込む。

ルゥの顔を見て安心したからか、家について気が抜けたのか、急に眠気が襲ってきた。

いけない。このまま寝たら、おやすみのキスができな・・・・い・・・・。




「くすっ おやすみなさい、カール」




翌朝、ちゃんとキスしたよ、とルゥが教えてくれた。

覚えてない。残念だ。




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