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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第4部
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***閑話 成人の儀 ***




その日、王様に連れられてやってきたエメさんの部屋には、先客があった。


「東の国の魔導士、レオナルドとリントレットよ。むこうでは魔術士のことを魔導士っていうの」


月光を集めたかのような銀色の髪に、理知的な紫の瞳の男性。

傍らには黒髪黒目の女の人。

銀と黒の2人の魔術士は、冴え冴えとした月夜を思い起させた。


衝立ついたての後ろで、人に戻ってエメさんが用意してくれた服に着替えてからあいさつをする。


「はじめまして、ルチノーです」


「はじめまして。君がのヴィルヘルミーナの姫君ですか。確かに女王の面影がある」


「ご存じなんですか!?」


「肖像画だけですけどね。魔導士なら誰でも一度は行ってみたいと思う国でした。

 私もあと10年早く生まれていれば、訪れることができたのに・・・」


10年?

レオナルドさんはどうみても20代半ばにしか見えない。

この人も魔術で若返っている人なのか。

ということは、こちらの10代後半に見えるリントレットさんも、見た目通りの年じゃないのかもしれない。


「今日はまず初めに、ルチノーちゃんの成人の儀をしちゃおうと思うの」


「成人の儀って、あの、神殿でお祈りするやつ?」


「えぇ。あれは別に神殿じゃなくてもいいのよ。

 要は力ある存在に、“大人になりました、これからもよろしくお願いします”って報告すればいいんだから。

 魔術は契約だから、そういうのを怠ると運が落ちたり健康を害したりするのよね」


「へぇ」


「ルチノーちゃんの場合、18を過ぎても何の報告もしなかったから、内なる力が暴走しかけてる。

 誕生日を知らないから仕方なかったんだけどね。

 これを済ませないと、魔術の勉強どころじゃないわ」


「そうなんだ。ここでできるの?」


「えぇ。床にあるのは儀式用の魔術陣よ。神殿の床にも同じものが刻んであるわ。

 さらに外側に、ルチノーちゃんの力が解放されたとき用の魔術陣が描いてあるわ。

 あなたの力は大きすぎるから、普通の魔術陣で抑えきれるかわからないの。

 リントレットは魔術を中和する能力があるから、もしあなたが暴走したときには止めてもらえると思って呼んだの」


「ああああの、リントレットです。私なんかがお役に立てるかわかりませんが、精一杯がんばります!」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


リントレットさんは、とても腰の低い人だった。

てっきりレオナルドさんの方が力が上で、リントレットさんはお付きの人か見習いかと思ったんだけど、違ったみたい。


「レオナルドは私の補佐ね。ルチノーちゃん、陣の真ん中に立って」


言われた通りに、部屋の中央に描かれた不思議な文様の中央に立つ。


「あ、その首輪チョーカーははずしてちょうだい。陣の中にいれば大丈夫だから」


エメさんに言われて、自分ではずそうともたもたしていると、リントレットさんがぱちんと取ってくれた。


「そうだ、エメさん。今度この留め金の鍵を作ってくれる?」


「いいけど、何? 普通に生活しててはずれちゃった?」


「普通に、は、大丈夫なんだけど・・・」


「ふうん? いいわよ。今度来る時までに用意しておくわ」


「ありがとう」


首輪チョーカーをそのままリントレットさんに預けて、文様の中央に戻る。

エメさんとレオナルドさんが私の前後に立ち、両手を広げて口の中で何かを唱え始めた。


「あ・・・・あぁ・・・っ」


胃の中を何かが駆け巡るような感覚。

身体が熱くなって、でも冷や汗が出てくる。

足元から風が噴き出てきて、私の髪をあおる。

いや、足元じゃない。

私の内側なかからだ。


「くっ・・・エメ師、これはキツイですね」


「えぇ。あなたに匹敵する力でしょう。いままで何の訓練もしてこなかったから、余計だわ」


身の内を荒れ狂う嵐に耐える。

ピシッと床に亀裂が入った。

陣の文様が途切れる。


「まずい、リントレット!」


「はい、ご主人様!」


駆け寄ったリントレットさんが、私の体を支えた。

リントレットさんが私に触った瞬間、すっと力が抜けるような感覚があって、楽になった。

これが中和の能力・・・?


エメさんの詠唱が終わる。

いつのまにか嵐はおさまり、わずかに手の震えが残っているだけだった。


「これで終わりよ。あとは力の制御を覚えて行けばいいわ」


「はい・・・。ありがとう、エメさん、リントレットさん、レオナルドさん」


「ふふ、いいのよ」


「大丈夫ですか? すごい力でしたね。お役に立ててよかったです」


「・・・」


リントレットさんに手を借りて立ち上がる。

あれ? レオナルドさん、何か怒ってない? 私、何かしたかしら。


「君、さっき私のことを何と呼びました?」


ひゅっと冷たい風が吹いた気がした。

風は、私ではなくリントレットさんに向いていた。


「え。レ、レオナルド様?」


「違いますね」


じりっとレオナルドさんがリントレットさんににじり寄る。

どどど、どうしたんだろう。


「あの二人のことは気にしないでいいわ。いつものことなの。

 身体のことだけどね、今夜あたり熱が出るかもしれないから、カールに言っておいてね」


「あ、わかった。本当にありがとう、エメさん」




エメさんが言った通り、家に着いた途端に高熱が出て、寝台から起き上がれなくなった。

仕事から帰ったカールが、心配そうに覗き込んでくる。


「何か食べられるものはあるか? 冷たいものならいいかな」


「大丈夫・・・。魔力酔い?とか言ってた。レオナルドさんもよくなるんだって」


「へぇ。力があるのも、大変なものなんだな」


額の汗をカールが拭いてくれる。

なんだか懐かしい感じ。

そういえば、前も熱を出して看病してもらったことがあったな。


少し眠って目が覚めたら、カールがアイスクリームを作ってくれてた。

私と同じことを思い出してたみたい。


「おいしい・・・!」


「よかった」


「お仕事で疲れてるのに、ごめんね」


「ルゥが喜んでくれるのなら、俺は何でもするよ」


極上の笑顔で頬を撫でられて、熱のせいじゃなくて顔が熱くなった。

そういうこと、平気で言うんだから、もうっ


あぁ、でもこうやって甘やかされるのって気持ちいいな。

カールには悪いけど、ちょっと得した気分。

熱が下がるまで、もう少し甘えさせて、ね。





レオナルドとリントレットについての詳細は活動報告にてw

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