***閑話 協力者 ***
エメさんとの勉強会初日。
私はお城の中で迷子になっていた。
それを助けてくれたのが、この王様だった。
あの日、私は本当に困っていた。
猫と人とじゃ視界が違うのはわかっていたはずなのに、一度案内してもらったくらいで大丈夫だと思うなんて、甘かった。
廊下ですれ違うお城の人たちは、「ほら、あれが王様の猫よ」「まぁ、きれいね」なんて言うばかりで、エメさんの部屋は教えてくれない。
ぐるぐると歩き回った末にたどり着いた中庭で、私は途方に暮れていた。
ちょうどいい大きさの石を見つけ、一休みすることにする。
それにしてもこの中庭、いい日当たりだなぁ。
もう寝ちゃおっかな。
猫になると、どうしても猫の習性につられちゃうのよね。
眠ーい。
ぽかぽかと温かい日差しに眠気を誘われて、石の上で丸くなろうとしたそのとき―
「おや、そなたは」
声をかけてきた人がいた。
「ほぉ、これが猫の姿か。本物そっくりだな。どれ、鳴いてみろ」
抱き上げて、顔を近づけてくる。
きゃあぁ、王様だ。
「ん? 鳴かんのか?」
「ん、んなーぅ」
「おお、かわいい声だな。もっと鳴け」
「なーぅ」
「おもしろいな。しゃべれはしないのか?」
「しゃべれます」
「わぁ!」
しゃべれといわれたからしゃべってみれば、びっくりした拍子に投げ出された。
くるりと一回転して着地する。
「驚かすなよ」
「す、すみません」
なんだかこの王様、くるくると表情が変わっておもしろい。
この間カールと一緒にお会いしたときは、初めて入ったお城の雰囲気に圧倒されてたせいか、怖いって印象しかなかった。
でも今、一対一で話してみると、とっても気さくでいい人に思える。
「きれいなだけの人形みたいな姫君かと思ったら、存外おもしろいな」
王様も、似たような印象を持ったようだ。
人形っていうのはどうかと思うけど。
「これからエメのところへ行くのか?」
「はい」
「一緒に勉強か。羨ましいな」
そうなの?
王様も魔術を習いたいのかしら。
「エメには以前から求愛しているのだが、謙遜したり照れたりして、さっぱり受け入れてくれんのだ。
最近ようやく城に住んでくれるようにはなったが、共に過ごす時間がなかなかなくてな」
私の不思議そうな顔を察して、王様はそう言った。
「えーと、それはつまり・・・?」
「私はエメが好きなんだ。正妃にしたいとずっと言っている。この頃じゃ言いすぎてあいさつのようになっている」
えええ、そうだったんだ!
エメさんたら、何も言わないから知らなかった。
「エメのところに行くなら、私が連れて行ってやろう。彼女に会う口実になる」
「あ、ありがとうございます。実は道に迷っているところでした」
「ははっ、そうだったのか。呑気そうに見えたが、声をかけてよかった」
「あれは・・・このお庭があまりに気持ちよくて、つい眠気が・・・」
「そうか。庭師をほめておこう。
で、エメの部屋まで私がエスコートしてもよろしいかな、姫君?」
「私の方からお願いします。でもその“姫君”っていうのは・・・」
私なんかにはふさわしくない呼び名だ。
ものすごく抵抗がある。
「姫君であろう? 滅亡したとはいえ一国の姫だ。礼節は守る」
「えっと、あの、慣れてないので・・・。私、猫ですし、誰かに聞かれたら変です。
こうしてしゃべってるのも、本当はよくないと思います」
「ふむ、そうか。では姫でよかろう。
飼い猫を可愛がって“姫”と呼ぶ輩はいるからな」
「それもあんまり・・・」
「ぬぅ。贅沢なやつよ。何と呼んでほしいのだ?」
「ルゥでいいです。私はただのルゥですから」
「ふぅ。エメの話だと“ただの”ルゥではなさそうだがな。
まぁ、いい。ではルゥと呼ぶが、代わりに一つ頼まれてくれ」
「はい?」
私が王様の頼みなんて聞けるかしら。
「これから勉強会の日には、先に私の執務室に寄ってほしい。
そして一緒にエメの部屋へ行こう。」
「それくらいなら」
私にもできる。
「そうか! うむ、これは心強い味方を手に入れた。私とエメの恋路のため、協力を頼むな」
ええ! そういうことになっちゃうの?
あああ、まぁいいか。
相手は王様だもんね。エメさんだってきっとまんざらでもないんだろう。
エメさんが私とカールのことを応援してくれたみたいに、私もエメさんのためにがんばろう!
にこにこ顔の王様に抱かれ、まずは執務室の場所を教わった。
そしてエメさんの部屋へ。
コンコン
王様が扉をノックする。
「はーい、ルチノーちゃん? 遅かったわね・・・ってなんでリックと一緒なのよ」
「迷子になっちゃったの」
「私が助けたんだ。そこで意気投合してな。これからは毎回私が連れてきてやろう」
「はぁ? あなた仕事しなさいってば。さぁ、ルチノーちゃん、いらっしゃい。待ってたわ」
あれれ。
エメさんのためにがんばろうって思ったのは間違いだったのかな。
王様を好きなようには見えないけど。
王様は私を床に降ろすとき、耳元でささやいた。
「照れてるんだ。本当は私に会えてうれしいのさ」
「う、あ、はい」
そうかなぁ。
王様が言うんだからそうなのかな。
「では、またな」
「はい、ありがとうございました」
「ルチノーちゃん、気を付けてね。リックはほんと女好きだから。安易に近付いちゃだめよ」
うーん、これはやきもち??
よくわかんないな。
王様を振り返ると、バチンとウィンクされた。
私、安易な約束をしてしまったかも。
ちょっと後悔した、お勉強会初日だった。
どうも、うまくエピソードが入らず、閑話で挿入・・・。
あとで編集し直すかもしれません。