9 お散歩
現在のルゥ視点です。
時系列がわかりにくくてすみません^^;
*****
とっとっと
草をかきわけ、お城の裏口へ向かう。
「あ! ルゥだ!」
「にー」
下働きのおばさんの子どもに見つかってしまった。
乱暴に頭を撫でられる。
うぅ、子どもは嫌ぁ。
昔、猫になったばかりの頃、さんざん追いかけまわされた忌まわしい記憶がある。
「これ、チャム! 王様の猫にけがでもさせたらどうするんだい!
遊んでないで、この芋を厨房に運んでおくれ」
「はーい」
ようやく離れてくれた。
あぁ、よかった。
とっとっと
だんだん道が整ってくる。
きゃいきゃいと明るい話し声が聞こえてきた。
「あ! ルゥちゃん」
私に気付いたのは、お洗濯を担当する女の人たち。
濡れた手をエプロンの裾で拭いて、優しく喉を撫でてくれた。
「ふふ、かわいい」
「今はカール様の猫なのよね。あの方が猫を抱いている姿なんて、想像できないわ」
「そうよね。近衛の頃も、いつも厳しいお顔をなさって職務に励んでらしたわ」
「隣国の王女と噂になったときも、まさかって思ったもの」
「あ、でも結構女性関係はいろいろ噂があったのよ」
「ええ? そうなの?」
「ほら、町で有名な高級娼館があるでしょ。あそこのブランディーヌっていう看板娘がご贔屓だったとか」
「貴族の若いご令嬢たちが熱をあげて、贈り物合戦してたとか」
「あら、ご令嬢の侍女たちじゃなかった? カール様をめぐって取っ組み合いの喧嘩をしたんでしょ?」
「あはは、本当? 見てみたかったわ。いつも取り澄ましたあの侍女たちが?」
「そうそう。でもわかるわぁ。カール様、格好いいもの」
「うーん、私は断然ユハ様派だなぁ」
「親衛隊の? じゃぁ私はマルリ様」
「ヴァイノ様のほうが素敵よ」
「えぇ? 私は……」
女の子たちのおしゃべりは尽きることがない。
けど、カール……。
モテるだろうとは思ってたけど、ひどくない?
会話に出てきたいくつかの名前を頭に叩き込んで、私はぷんぷんしながら裏口をくぐった。
「お、来たな」
ずいぶん通い慣れてきた道を通って着いたのは、エメさんの部屋じゃなくて執務室。
木目が美しい大きな机の向こうに、この国の王様が座ってる。
「んなーぅ」
王様の足元にすり寄る。
剣だこのあるごつごつした手が、私を抱き上げた。
「愛い奴よ。いまからでもカールはやめて、私の元へ来ないか?」
「うにっ」
たしたし!
厚い胸板を叩く。
「ははっ、わかった、わかった。そなたは貴重な協力者だ。
嫌われたくはないからな。さぁ、エメの部屋へ行こう」
王様に抱かれて、私はエメさんの部屋へ向かった。