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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第4部
50/100

***閑話 ブルクハルト城(エメ視点) ***




ふんふんふ~ん♪

もうすぐルチノーちゃんが王都に来る。

嬉しいわ! 何をして遊ぼうかしら。


「ご機嫌だな」


城の中庭を自分の部屋へ向かって歩いていると、前方から毛皮で縁取りされた真っ赤なマントを羽織った男が声をかけてきた。

この城の中でそんな派手な格好をしている男は、一人しかいない。


「リック」


リクハルド=ヴィリオ=ブルクハルト。

ブルクハルト国の国王だ。

癖のある栗色の髪に、濃い灰色グレーの瞳。

なかなかの偉丈夫で、38歳にして未だ正妃はもたないが、3人の側室の間に5人の子どもがいる。


「またそんな地味な法衣を着て。私の贈ったドレスはどうしたんだ?」


「だから、私は魔術士だからこれしか着られないっていったじゃない」


「そうだったか? ドレスは好きだろう?」


「集めるのは好きだけど、自分では着ないのよ」


「そうか。残念だ。一度でいいからおまえが着たところを見せてほしいな」


「はいはい。こんなおばあちゃんを口説いてないで、早く正妃を見つけなさい」


「私の正妃はおまえがいいと、幼少のころから言っているはずだが」


そう言いながら、私の結い上げた髪をはらりとほどき、一房とって口づける。

ウーリーの家庭教師をしていた折に、リックにも出会っていた。


「一国の王が何を言ってるんだか。私の本当の姿を見たら、そんなこと言えないわよ」


「本当の姿も何も、おまえは魔術で若返っているんだろう?

 変化しているわけではない。

 この艶やかな黒髪も、つぶらな黒い瞳も、白くふっくらとした頬も私は大好きだ」


「あなた、とことん目が腐ってるのねぇ。普通魔術で何百年も生きてる人間を見たら、気味悪がって近づかないか、その力を利用しようとするもんなのにね」


「こんなかわいらしいおまえを気味悪がるなんて無理だ。

 出会ったころは姉のようだったが、今は私よりずっと年下に見える。

 私の庇護下に置きたいとは思っても、利用しようなんて気はおきないな」


「あー、はいはい。この国の大臣たちもかわいそうに。王様がこんなんじゃ、正妃を迎える日は遠いわね」


「大臣たちは別に反対していないぞ。

 東の国では漆黒の大魔導士、我が国では月光の魔術士と呼ばれる異界渡りのエメラルダを手中に収められるとあっては、かえって応援しているくらいだな」


「……その大仰な二つ名、やめてくれない?」


「おまえが望むならやめよう。エメ、他に望むことはないか?

 おまえの望みなら、なんでも叶えたいんだ」


甘く囁きながら、じっと見つめてくる。

うーん、たいていの女性はこの手で落ちるんだろうな。

私には効かないけど。

そっちは利用する気はなくても、私は最大限に利用させてもらう。


「望みはなんでも?」


「あぁ、なんでも」


これは都合がいい。

ルチノーちゃんのことを話しておかなければと思っていたのだ。

事情をかいつまんで説明する。


「急におかかえ魔術士の話を受けてもいいと言い出して、こそこそ調べていたのはそれか。

 のヴィルヘルミーナの忘れ形見だって?

 国が滅亡してからも、女王は側近と共に逃げ延びて、別の地で再興を目指していたという。

 結局叶わなかったらしいが……。その娘が我が国にいるのか?」


「そう。私が知ってる女王はまだ位を継いだばかりで、ちょうど今のルチノーちゃんくらいだったわ。

 父親が誰かはわからないけど、側近の一人か女王を保護した国の偉い人かもね。

 どっちにしろ持ってる力はとんでもないものがあるから、私が導いてあげたいのよ」


「ふぅん。そんなに力があるなら、その娘も城に迎えたいな」


さっきまで私を口説いてたくせに、舌の根も乾かないうちにそれか。

とことん女好きね。


「あー、それはだめ。もう相手がいるのよ」


「相手?」


「カール=ヘルベルト=ヴュスト。あなたの親衛隊員でしょ」


「おお、カール! あいつか。あいつには悪いことをしたなぁ。

 隣国の王女がしつこくてな。

 つい“君好みのいい男がいる”なんて言って、あいつに押し付けてしまった」


「はあ? 呆れた。そうだったの?」


「あぁ。だからな、王女が失脚したときいて、親衛隊員として呼び戻したんだ。

 そうか。カールの相手か。では仕方ないな。でもあれほどの男が惚れ込むんだ。いい女なんだろう」


「守ってあげたくなるタイプね」


「なるほど。エメと一緒だな」


「だから目が腐ってるって……」




私が選んだドレスを着て、カールと連れ立って城を訪れたルチノーちゃんは、文句なくかわいかった。

新品の親衛隊服を着込んだカールも、お姫様を守る騎士ナイト役にぴったりだ。

まったく、顔だけはいいんだから。


「カール。よくぞ戻ってくれた」


「過分なお計らい、感謝の仕様もございません。妻と共に、誠心誠意お仕えする所存です」


「まぁそう固くなるな。私とおまえの仲じゃないか。

 友情の証に、私がかわいがっている白猫を贈ろう。大事にしてくれ」


「はっ」


その仲って同じ王女に振り回された仲じゃないの?という突っ込みは心の中にしまっておく。

リックは打ち合わせ通りに、猫のルチノーちゃんを下賜する台詞を述べた。

側仕えがうやうやしく猫用バスケットを渡す。

実際は、重しが入っているだけの空のバスケットだ。

これで猫のルチノーちゃんは、城内通過自由(フリーパス)だ。


カールとルチノーちゃんの謁見を見届けて、城内の自室に戻る。

来週からルチノーちゃんが来る。

まずは成人の儀をしないと。私だけでは荷が重いかもしれない。

あの2人を呼ぶか……。


コンコン


扉がノックされた。

返事を待たずに開かれる。


「リック。何の用?」


「おまえの話に乗ってやったんだ。褒美くらいよこせ」


濃い灰色グレーの瞳が近付いて来る。


「……んっ……」


顎をとられ、唇を奪われた。

ねじこまれる舌。

歯列を割って、口腔を好き放題(なぶ)られた。


「~~~、長い!!!」


「ちっ、つれないな」


ぐいっと突き放して睨んだが、リックに悪びれるそぶりはない。


「幸せそうな2人だったな。どうだ、おまえもそろそろ伴侶が欲しくなっただろう」


「いまさらよけいな足枷はいらないわ」


「ふん。いつか振り返らせてみせる。エメ、私ほどの男はいないぞ」


「はいはい。さぁ、仕事に戻りなさい」


ひらひらと手を振って、リックに背を向ける。

もう何年も繰り返されたやり取り。

自分になびかない女が面白いんだろう。

いつになったら飽きるんだか。


いつもならそれで去っていくリックだったが、今日はしばらくたっても扉を開閉する音が聞こえない。

どうしたのかと振り向こうとした瞬間、後ろから抱きしめられた。


「私はあきらめない。エメラルダ、きっとおまえを手に入れる」


耳元でささやかれて、不覚にもぞくりと腰が震えた。

キッと睨むと、私の動揺を察してか、にやりと笑うリックがいた。


「じゃぁな。私の白猫によろしく」


「……カールの前で言うんじゃないわよ。切り殺されるわ」


「ははっ、そのときは反逆罪で死刑だ。あぁ、うらやましい。女の為に死ぬのもいいな」


「女好きもそこまでいくと立派だわ。側室どころじゃなくてハーレムでも作ってみなさいよ」


「そのときはおまえも入ってくれるか?」


「入るわけないでしょ! いいから仕事しろッ」


手近な本を投げつける。

ばん!と扉に当たって落ちた。

いつのまに移動したのか、リックはとうに扉の外だった。

廊下から、去っていく笑い声が聞こえた。


「ったく、冗談もいい加減にしてよね」


一時を共にした相手がいなかったわけじゃない。

でも長い長い生は、いつしかそういった感情を私の中から失わせてしまった。


「いけない。ルチノーちゃんの成人の儀の準備をしようとしていたんだっけ。

 まったく、リックのせいで……。まずは手紙を書かなくちゃね」


あの子の力は半端じゃない。

普通の魔術陣では抑えきれないかもしれない。

協力者が必要だ。


ルチノー。

失われた魔術王国の、最後の女王。

彼女はこの先、どんな変貌をとげるのだろう。


「あぁ、おもしろい。これだから長生きはやめられないのよね」


羽ペンにインクをつける。


拝啓、親愛なるレオナルド―


東の国の魔術士に助力を仰ぐべく、私は手紙を書きはじめた。





エメさんの異名の由来とか、ルゥのお母さんの話とか、いつか書けたらいいなぁと思います^^

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