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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第4部
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8 ご両親に、ご挨拶 2



「で、式はいつなんだ」


「いや、彼女は身寄りがないし俺も辺境から戻ったばかりだから、式はしないつもりなんだ」


お店はお兄さん夫婦にまかせて、店と続きになっている自宅の応接室に通された。

カールと並んでソファに座り、向かい側にカールのお父さんとお母さんが座る。

カールが言うとおり、ご両親は私を特別視することなく、温かく接してくれた。


「ねぇ、ルチノーさん。本当にいいの?

 一回りも年が離れてて、親の私が言うのもなんだけど我が儘だし自分勝手だし、結婚相手としてはどうかと思うわよ」


「お袋、それはないんじゃないか」


「あら、本当のことじゃない」


カールのお母さんは、ふんわりとした雰囲気だけれど、わりとはっきり物を言う女性ひとみたい。

お父さんはと言えば、背が高くって、微笑んだ顔がカールとそっくり。

白髪交じりの錆色の髪が、カールもこうなるのかなって思わせる。


「そうだなぁ。こいつにはいつも苦労というか驚かされたよ。

 せっかく商人の学校に行かせたのに、突然騎士になるなんていって家を出るわ、気付いたらある日いきなり近衛として王様の行列に混ざってるわ、あげくどっかの国の王女に手をだしたとかで左遷だろ?」


「ちょっと、あなた。ルチノーさんの前で言っちゃだめでしょ!」


「おぉっと、すまんな。まぁ誤解だったってことで戻ってこられたんだからいいよな」


「は、はい。大丈夫です」


全然大丈夫じゃない。

あとでカールに聞かなくちゃ。

隣に座るカールをちらっと見ると、ばつが悪そうに目をそらした。


「で、極めつけはこんなにかわいいお嬢さんを連れてくるんだもんな!」


「そうよねぇ。でも結婚式は本当にいいの? 女の子なら一度は憧れるものじゃない。

 親代わりなら孤児院の先生とかいらっしゃるでしょう?」


「院長先生はこの間亡くなられて・・・」


「あら! もしかして聖アドリアナ孤児院!?」


「え? あ、はい、そうです。ご存じなんですか?」


「ほら、カール、あなたが寄付をした・・・。

 確か家一軒くらい軽く建つ金額をぽんとあげちゃったのよね。あのときも驚かされたわぁ。

 あそこの院長先生、亡くなったのよね。近所の奥さんが治療院のお手伝いに行っててねぇ。

 カールにも知らせようかと思ったんだけど、急だったから。

 そう、あなたあの孤児院の娘さんなの。それが出会いってわけね。それなら納得だわ。こんな息子だけどよろしくね」


そう言ってカールのお母さんは、私の手を強く握った。

初めて聞いた話に驚いたけど、とりあえず認めてくれたようなので握手を返す。

カールも片眉をあげてお母さんの話を聞いていた。

たぶん知らなかったんだ。


その後、今王都で流行っているというお菓子をご馳走になった。

夕飯も食べて行ってというお誘いは丁重にお断りして(私の変化が限界だった)、家に帰った。






「あの!」「あのな!」


家に着いた途端、2人同時に口を開いた。

カールに先を譲る。


「親父が言ってた王女の件は完全に誤解なんだ。

 向こうが勝手に熱を上げてただけだ。ウーリーに聞けば分かる」


あっそう。

ずいぶんモテてたんだね。

あーあ、これからカールの女性関係では苦労しそうだなぁ。

昔の女性ひととかに会ったら、どうしたらいいんだろう。


「ルゥが聞きたかったのはこのことじゃないのか?」


私の反応がいまいちだったのを感じたようで、カールが不安げに聞いてきた。


「それもあるけど・・・お礼がいいたかったの」


「礼?」


「寄付のこと。院長先生は、すごく資金繰りで苦労してたから・・・。

 時期的にも一番大変だったときだわ。それがなかったらみんな路頭に迷ってたかも」


「あ、いや・・・。

 その、王女の件でな。左遷されて辺境に行くことになったから、自棄やけになって有り金全部寄付したんだ。

 ・・・そうか、ルゥのところだったのか」


それから私は、孤児院でのこと、エメさんとの出会い、カールに会うまでのことを話した。

前に聞かれたときは院長先生のことを話すのがまだ辛くて、うまく話せなかったことも謝った。


「アドリアナ院長はいい方だったんだな」


「うん。最後まで私のことを心配してた。カールにも会ってほしかったな」


カールを院長先生に会わせてあげたなら、きっともっと安心してくれただろう。

いまはただ、安らかに眠っていることを祈る。


「俺は・・・すまんが適当に選んだ寄付先だった。たまたま知り合いに紹介されて。

 こんな偶然もあるんだな」


「そうだね。偶然でも・・・すごく感謝してる。ありがとう、カール」


広い胸に、そっと身を寄せた。

カールも私の背中に腕をまわし、髪を優しく撫でてくれる。


「墓はどこにあるんだ?」


「院長先生の親戚が管理する墓地にあるわ。王都の西のはずれだったと思う」


「そうか。今度あいさつに行かなきゃな」


「うん・・・」


カールのご両親も素敵な方たちだった。

式はしないけど、身内だけで食事会をしようということになった。

私に家族ができる。

カールが、家族をくれた。


碧の瞳が私を見つめる。

どちらともなく唇を寄せ、深く、口づけた。




院長先生、私、幸せです―








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