7 ご両親に、ご挨拶 1
ルゥ視点が続きます。
王都に着いた翌日。
初出勤は明日だというので、今日のうちにカールの実家にあいさつに行くことになった。
城下町の一画に、わりと大きなお店を営んでいるらしい。
一緒にあいさつってことは、あれだよね、お嫁さんとしてってことだよね?
カールが用意してくれた服を着て、馬車に乗りこむ。
おうちにはお父さんとお母さん、お店を継いでる一番上のお兄さんとその奥さんがいるんだって。
二番目のお兄さんは町から町へ行商をしてて、妹のミレイユさんは城下町の別の地区で旦那さんとお店をやっているらしい。
「商人一家なんだが、俺だけ毛色が違ってな。両親には散々心配をかけてるのさ」
口の端を自嘲気味にあげて笑うカール。
そんなことを言いながらも、久しぶりに実家に帰るから嬉しそう。
きっと愛されて育ったんだろうな。
馬車の中で、そんなご家族の話を聞いていたら、急にカールが神妙な顔をした。
「いまさらだが・・・俺でいいか?」
「え?」
「話した通り、多少大店とはいえ俺は所詮商家の三男坊だ。
騎士だ親衛隊だといっても、一代かぎりだしな。一国の姫君をもらうような身分じゃない」
カールが言っているのは、私が今は失きヴィルヘルミーナのお姫様じゃないかって話。
そんな、本当かどうかわからない話なんて、関係ないのに。
「私は私。カールに拾われた、ただのルゥだよ。
カールこそ、こんな面倒ばかり抱えた、気味の悪い不吉な私でいいの?
ご両親だって、なんて思うか・・・」
自分で言って、急に不安になった。
そうだ、このごろカールやエメさんとばかり会っていたから忘れていたけれど、私の見た目は人々に気味悪がられる。
白い髪と赤い瞳のせいで、いままで何度忌避され差別されてきたか。
カールのご家族は、私を受け入れてくれるだろうか?
「君のことを面倒だなんて思ったことはない。髪の色も瞳の色もきれいだ。
うちの親は、商人としていろいろな人と会っているだけあって、人を見た目で判断するようなことはしないさ。
もししたら、絶縁してでもルゥを守る」
「カール・・・。ありがとう。
でもね、気持ちは嬉しいけど、ご両親は大切にして。
私はお母さんの顔もおぼろげにしか思い出せないから・・・」
「あ、すまない。そんなつもりで言ったのではないんだが」
「うん、わかってる。先に弱音を吐いたのは私だもんね。
もしカールのご両親が私を受け入れてくれなくても、気持ちが伝わるまでがんばるわ」
「無理はするなよ。俺も一緒だから」
「うん。頼りにしてる」
そうこうしているうちに、馬車は町の中心部にほど近い、一軒の大きな商店の前に着いた。
「いらっしゃいませぇ!・・・ってカール!?」
店先で出迎えてくれたのは、カールによく似た男の人。
この人がお兄さんかな。
「おっまえ、いつ帰ってきたんだ!? おぉい、お袋! カールだ! カールが帰ってきたぞ!」
「カレヴィ、そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるわよ。あら・・・」
店の奥から、小柄な女性が現れた。
カールの後ろから顔を出した私を見て、カールと同じ碧の瞳が真ん丸に見開く。
「カール、こんな若いお嬢さんを一体どうやって騙したの?」