4 エメ
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「エメさん、すごい。なんで・・・」
「一週間前くらいから、妙な気配を感じてたの。
気になって気配を追ってきたら、あなたに贈った護り石が反応してるのがわかったわ。
自分でかけた術だからね、異変があればわかるのよ」
それで飛んで来てくれたのか。
「ルゥちゃん・・・いえ、ルチノーちゃんと呼んでもよさそうね?
あなた今何歳だっけ?」
カールに触っていれば変化を自分で調整できるので、一度寝室で人に戻ってからエメさんと話すことにした。
机をはさんで、向かい合って座るエメさんと私たち。
私たちっていうのはカールと私で・・・私はカールの膝の上にいる。
だって、触ってないと猫になったり人になったりしちゃうし、椅子は2つしかないし、だから仕方なくなんだけどものすごく恥ずかしい。
エメさんったら、にやにやしないでっ。
カール、足撫でちゃだめ!
「17・・・だと思う」
「根拠は?」
「根拠? 拾われた時に年をきかれて、こうやったって言うから・・・たぶん2歳だろうって」
人差し指と中指で「2」を作る。
「なるほどね。小さいころなら薬指がうまく立てられなかったってこともあるか」
「エメさん?」
「あなた、たぶん18歳だわ。
18といえば一般的にも成人の儀をするけど、ルチノーちゃんの場合もっと特殊な事情があるの。
魔術にとって18は特別な数字。眠っていた力が目覚めるのよ」
「眠っていた力・・・。前、私に魔術の才能があるって言ってたけど、それに関係があるの?」
「才能どころの話じゃないわ。
ルチノーちゃん、あなたはね、今は失き湖上の魔術王国、ヴィルヘルミーナのお姫様なのよ」
「ヴィルヘルミーナ?」
「30年前、城ごと湖に沈んだというあのヴィルヘルミーナか?」
私は全然知らなかったけど、カールは知ってるみたい。
そんな国があったの? で、私がそこのお姫様??
「そう。前ルチノーちゃんが描いた絵を見せてもらったでしょう。
あの衣装や冠の石に見覚えがあったの。
ヴィルヘルミーナは多くの魔術士を輩出し、かの国にしかない秘術もたくさんあったから、魔術士なら一度は勉強に訪れてたのよ。
私も昔行ったことがあるわ。たぶんあなたのお母さんにも会ってる」
「お母さんに・・・。あれ? でもカールが30年前に沈んだって。エメさん、いつお母さんに会ったの?」
「あら、うふふ」
「見た目通りの歳じゃないとは思っていたが、その口ぶりじゃ100やそこらは越えてそうだな」
「失礼ね。女性の歳を勘ぐるもんじゃないわよ」
100? 100って100歳?
私が目をぱちくりさせていると、カールが頭を撫でて説明してくれた。
「ウーリーの家庭教師をしていたと言っていただろう?
あいつのうちは魔術の名門だから、並みの魔術士には頼まない。
それに同じくらいの歳で家庭教師をするわけはないよな。あいつが幼いころすでにそれなりの歳で、かなりの力があったってわけだ。
魔術の中には、身体を若く見せたり実際に若返らせたりするものがあると聞く。
こいつは若返ってるほうだな、きっと」
「何よ、なんだか言葉にトゲがあるんじゃない?」
「胡散臭い術は嫌いでね。魔術は便利だが、人を惑わすことも多い。
年をごまかせるほどの魔術士を、おいそれと信用はできないな」
「ふん。そこそこ評価されてるととろうじゃないの。
でもあんまり私の機嫌を損ねないほうがいいわよ。ルチノーちゃんの状態を把握してるのは私だけなんだからね」
「・・・くっ・・・それは・・・」
「本当なら18になったときに、解放された力に喰われていてもおかしくなかったわ。
私のかけた猫化の術が、魔術の暴走を止めてたのね。結果としてはよかったわ」
「ルゥ、いつ誕生日だったんだ?」
「え・・・。わからない。覚えてないの。冬に捨てられてたから、冬生まれってことにしてたけど」
「そうね。正確な日にちはわからないけど、最近だとは思うわ。
ただ・・・一週間くらい前って何かあった? 力を解放する何か。
猫化の術とその護り石のおかげで、18になったからってそんなに急激に力があふれるはずはないの」
私を解放する何か。
一週間くらい前って・・・あの、その、もしかして?
カールと2人、顔を見合わせる。
お互い思い浮かべたことは同じだったみたいで、赤くなって目をそらしてしまった。
「あー・・・・そういうこと?
カール、あなたねぇ、少しは自制しなさいよ。何歳離れてると思ってるの?」
「年の話はしないんじゃなかったか」
「それとこれとは別でしょ。ルチノーちゃんに無理させてないでしょうね」
「させてない。大事にしてる」
「本当~? 年だけじゃなくて体格だってずいぶん違うんだからね」
「体位は配慮してる」
「当たり前でしょ。何やろうとしてんのよ、この変態」
「好きな相手と愛し合って何が悪い」
「うっわ、開き直らないで! あああ、私のルチノーちゃんがあぁぁ」
「おまえのじゃない。俺のだ」
「出会ったのは私の方が先よ! まさかこんなに早いとは! 応援なんてしないで唾つけとくんだった!!」
「ちょっ、あの、2人とも、やめて・・・」
エメさんに、その、“初めて”を告白した恥ずかしさから立ち直る途中に、カールに「好きな相手」云々と言われてまた動揺していたけど、このままじゃいつまでも言い合いが続きそうで口をはさむ。
ただの喧嘩ならまだしも、私のことを言われていて居心地が悪い。
「ルチノーちゃん、この男が嫌になったらいつでも私のところにいらっしゃい」
「そんなことにはならないから安心しろ。な、ルゥ」
「う、うん」
「あぁら、女同士にしかわからないことだってあるじゃないの。またうちに来たいわよね? ルチノーちゃん」
「うん。エメさんのおうちは楽しかった」
「そうでしょー? ほらみなさい」
「ルゥ、俺よりこの女の方がいいのか?」
「え、そういうわけじゃないけど」
着せ替えとか一緒にお料理とかは楽しかった。
エメさんって優しいし、お姉さんみたいで頼りになる。
「遠慮しないで。いつでも遊びにきてね」
「はい」
「ルゥ・・・」
あれ、カールががっくりとうなだれてしまった。
「あの、遊びには行くけど、帰るのはカールのところだよ? 私の居場所はカールのいるところだから」
「ん・・・。そうか。そうだな」
「うん」
「こらこら。そこ、見つめ合わない。あぁ、もう何の話をしにきたんだっけ?
あなたたちねぇ、もうちょっと緊張感ってものを・・・」
「おまえが話を逸らしたんだろ」
「そうだったかしら。んじゃ戻そうじゃないの。
だからね、ルチノーちゃんは魔術王国のお姫様なの。
ちょっと! 私の目の前でおさわりは禁止ね。その手はなんでずっと太もも撫でてんのよ」
「いいから続けろ」
「はぁ、ほんとムカつく。ルチノーちゃん、なんでこんな顔はいいけど性格悪そうなのがいいわけぇ?
んで、ヴィルヘルミーナは女王制だったんだけど、ルチノーちゃんは最後の女王の娘である可能性が高いわ。
詳しいことはまだ調べ中だけど・・・。
何にせよ、眠る力はとんでもないものがあるわ。
できれば側について使い方を教えてあげたいんだけど、私もいろいろ忙しい身だしね。どうしようかしら」
「エメさんは今も王都にいるの?
私もカールの仕事の都合で、一週間後には王都に引っ越す予定だったんだけど」
「え! 本当? それは好都合。リックにも話を通しておくわ」
「リック?」
「リクハルド=ヴィリオ=ブルクハルト。あなたのとこの王様でしょ?」
「おま・・・国王をリック呼ばわりするな。何者だよ」
「そうあからさまに不審がるもんじゃないわよ。人よりちょっと長生きしてるだけ」
やっぱり長生きしてるんだ。
本当は何歳なんだろう。
一通り話を終え、エメさんは私に猫化の術を掛け直してくれた。
「とりあえず王都に着くまでは猫でいて頂戴。
よほどのことがないと人には戻れなくしておいたから」
私の本来の姿をとると、力があふれやすくなるらしい。
エメさんの魔術の影響下にいることで、力を安定させるんだって。
カールに触れていると落ち着いたのは、エメさんの術がかかったおそろいの護り石のおかげだったみたい。
「この姿じゃお手伝いできないね。ごめんね」
「いいさ。スヴァルがくれたバスケットもあるし、かえって移動は楽かもしれん」
エメさんが帰った後、カールは片づけを続けていた。
見ていることしかできないのが心苦しい。
あぁ、ごはんも作れないんだ。
私が作ったものをおいしそうに食べるカールを見るのが、すごく楽しみだったのに。
「手伝いよりもな」
カールが喉を撫でてくれる。
大きな手が心地よくて、喉がゴロゴロと鳴る。
「一週間、人の姿のルゥに会えないほうが辛いな」
そう言って口づけてくれた。
私も、カール。
あなたを抱きしめられないのが寂しい。