2 デザート?
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こつん、と窓に何かが当たる音で目覚めた。
庭を見ると、スヴァルさん家の黒猫がいた。
「どうしたの、あんた」
窓を開けてひらりと外に出る。
『おまえ、引っ越すんだって?』
「まぁね。自称スヴァルの恋人のあんたとしては、恋敵がいなくなってうれしいんじゃない?」
『・・・・・これやる』
ぽとりと水色の小袋が置かれた。
口を青いリボンで結んである。
『俺の宝物。元気でな』
「え・・・・」
引き留める間もなく、黒猫は身をひるがえして藪の中に消えていった。
残されたのは水色の小袋。
匂いを嗅いでみると、あの猫の匂いにまざってなんだかとってもいい匂いがした。
*****
「ただいま・・・・っと、ルゥ、どうした?」
明かりはついている。
しかし、いつも出迎えてくれるルゥがいない。
「ルゥ?」
「・・・-ル・・・」
家の奥から弱々しい声がした。
「ルゥ!?」
何事かと、慌てて声がした方へ向かう。
真っ暗な寝室に、ルゥはいた。
「カール・・・身体、熱い・・・なんか変・・・」
頬が紅潮し、寝台に寄りかかってぐったりとしている。
「どうした、具合が悪いのか!?」
「具合・・・? 悪くないよ・・・くすくすっ・・・」
「ル、ルゥ?」
よく見れば、ワンピースの肩がずりおち、白い肌が見えている。
髪は乱れ、目がとろんとしていた。
「おかえりぃ。カールが帰ってきて嬉しいな・・・くす・・カール、好き」
抱きついて、口づけてくる。
嬉しい・・・が、いくらなんでもおかしいだろう。
「ルゥ、本当にどうしたんだ。俺がいない間に何があった?」
「スヴァルさん家の黒猫がぁ、ふふっ、宝物くれたのよ」
「スヴァルの? なんでスヴァルの猫が出てくるんだ?」
「これぇ、いい匂いなのぉ」
ルゥが手にした水色の袋から、つりがね型の実が転がり出た。
またたびの実だ。なるほど。
「人の姿でも影響があるのか?」
「えぇ? なぁに? あのね、猫になって寝てたらね、くれたの。
匂いを嗅いだらすごぉくいい気分になって・・・くす・・・・くすくす・・・。
カール、これおもしろぉい。ふふ・・・」
隊服についている紐が揺れるのすら、可笑しいらしい。
どうやら昼間は猫でいたが、またたびに酔って人に戻ったようだ。
以前この状態になったときは、極力姿を見ないようにして耐えるしかなかった。
しかし今は違う。
頬を染めてしなだれかかってくるルゥは、まさに据え膳。
「ルゥ、夕飯は?」
「あ・・・作りかけぇ。下ごしらえはしてあるんだけど・・・くすくす・・・。
お肉、焼くの・・・うふ・・」
よし、腹ごしらえをしたらデザートにルゥをいただこう。
そう思って身を起こそうとすると、ルゥに引き留められた。
「カール・・行っちゃいや・・・」
ぽろぽろぽろ。
今度は急に泣き出した。
笑い上戸かと思ったら、泣き上戸か!?
すすり泣くルゥの髪を撫でる。
「わかった。行かないから、泣くな」
「ん・・・カール、キスして?」
お望みのままに。
軽いキスは、次第に深くなり俺の中に火をともす。
「ルゥ・・・・。ルゥ?」
腕にかかる重さが増した。
たいして重いわけではないが、これは・・・ね、寝てる!?
俺の腕の中で満足そうに微笑むルゥは、すやすやと寝息をたてていた。
「それはないだろう・・・」
火照ったこの身をどうしてくれる。
がっくりとうなだれて、しばらく動けなかった。
ルゥに起きる気配はない。
仕方なく寝台に寝かせ、ルゥが途中まで作っておいてくれた夕飯を仕上げて食べる。
うまい・・・が一人で食べるのはつまらないな。