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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第4部
41/100

1 まどろみ


*****


それから一週間。

穏やかな日々が続いている。


「いってらっしゃい」


「あぁ。今日も遅くなる」


「はい」


引継ぎや訓練の仕上げをしているカールは、とっても忙しそう。

私はと言えば、家事と荷造りを頼まれた。

荷物と言ってもそんなにないんだけど、カールの役に立ちたいからがんばる。


一通り今日の分の用事をすませ、夕飯の下ごしらえをしてから、猫になった。

窓辺で丸まって、お昼寝の態勢だ。

春の日だまりはぽかぽかと温かく、すぐに眠りに誘われた。




『おいしかった! これはあなたが作ったの? 上手ね!』


あ、これはエメさんに初めて会ったときの夢だ。

あの日エメさんに会わなかったら、今の私はなかったなぁ。


『あとはおまえだけだね・・・』


孤児院の閉鎖で、売れ残ってしまった私をずっと心配していた院長先生。

最期に安心させてあげられてよかった。


『うっわ、気持ち悪ぃ。赤目で睨むんじゃねぇよ。呪われるだろ』


アヒム・・・。

そういえば院長先生の葬儀で見かけた気がする。

会わなくてよかった。


夢はどんどん過去にさかのぼる。


『ルチノー』


『ルチノー。私の愛しい子』


思い起そうとしても、声も顔もすでに思い出すことはできない。

夢の中でだけ、おぼろげな影を結ぶ。


まぁま・・・ぱぁぱ・・・・。




*****




「隊長さん、王都に戻られるんだそうですね」


「スヴァル」


「これ、もしよかったら使ってください」


兵舎を訪れたスヴァルが持ってきたのは、猫用のバスケット。

中にやわらかそうなクッションが敷かれている。移動時にルゥが休めるようにと考えてくれたのだろう。


彼女が向けてくれる好意が、そういう種類のものかもしれないと、思わなかったわけではない。

もしルゥが普通の猫で、辺境ここでずっと暮らしていくことになったら、彼女との未来もあったかもしれない。


「私からのものをルゥちゃんが使ってくれるかはわかりませんけど」


「いえいえ、前いただいたチーズも、喜んで食べてましたよ。いつも本当にありがとうございました」


そういえばルゥはスヴァルを嫌っていた。

あれは焼きもちだったのか?

だとしたら嬉しいじゃないか。今度聞いてみよう。


その後も、ヨシばあさんや村の女性陣がいろいろなものを持ってきてくれた。

どうやら結婚式の会場設営の打ち合わせにいった隊員の誰かが、俺のことを話したらしい。

嬉しいような申し訳ないような気分になる。

こんな風にしてもらうほどのことを、俺はこの村のためにしただろうか。

それをギュンターに言ったら、


「まったく隊長は真面目っすね。もらえるもんはもらっとけばいいじゃないすか」


と言われた。

それはそうなのだが・・・・。


赴任当初、このギュンターの軽さに救われたのも確かなので、ひとまずその言に従うことにした。


「隊長が気持ちよく受け取ってくれることが、一番相手も喜びますよ。

 あ、明日は休んでいいっすよ。もうだいたい目処がつきましたから」


「そうか。ありがとう」


明日は非番だったが、来る気でいた。

家のこともあるので助かる。


気持ちよく受け取ることが、相手を喜ばせる、か。

そういう考え方もあるのか。

都会の、見返りを期待した人間関係とは根本から違うのだ。

改めて村人や隊員、ギュンターの懐の深さを感じる。

以前の自分も含め、王都の者は田舎を馬鹿にする向きがあるが、大事なのは利便性や物資の豊かさではない。

心の豊かさのほうが何倍も大切だと知った。


何年後か・・・いつかまた戻って来られたらいいと思う。





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