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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第3部
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12 後朝



翌朝。

人型のまま俺の腕の中で眠るルゥ。

あふれる喜びと愛しさで、何度もキスをする。


「んん・・・カール、おはよう」


「おはよう」


照れながらあいさつをする姿がかわいい。

あらためておはようのキスをして、2人でくすくすと笑い合っていると、おもむろにルゥが口を開いた。


「あのね、私、猫が人になれるんじゃないの。元々人で、エメさんに猫になれるようにしてもらったのよ?」


「えっ」


ね、猫が仮の姿だったのか!


「孤児院育ちだから、身よりもないの。私には本当にカールだけ・・・。

 いい奥さんになれるようにがんばるね」


それこそ俺には好都合だった。

猫になった経緯は後で聞くとしても、ルゥに両親がいるとしたら、30男に娘をとられるなんて一発殴られるくらいではすまないかもと思っていた。

“俺だけ”という言葉も嬉しくて仕方ない。


「俺も、いい旦那さんになれるよう努力するよ。これからもよろしくな、ルゥ」


「はい、よろしくお願いします」


はんなりと微笑むルゥは、昨日よりずっときれいになった気がする。

それが、俺のせいだと思うのは自惚れだろうか。


「・・・あの、カール、何か、当たるんだけど・・・」


「ルゥがかわいいから・・・。体、きつくないか? 大丈夫ならもう一回・・・」


「んんっ、だって、カール、お仕事・・・あっ」




兵舎には午後から行った。

休んでしまおうかとも思ったが、王都に戻ることにしたからには仕事は山ほどある。


「またルゥちゃん具合悪いんすか?」


「まぁな。この間ほどじゃないが・・・寝かせてきた」


「はいはい。午前中はいつも通りでしたよ。午後の予定は・・・・」


ギュンターの話を聞きながらも、つい頭は昨夜のルゥを思い浮かべてしまう。


「・・・です。聞いてました?」


「あ? あぁ。2週間後にコル爺さんの結婚式だろ」


「“コメット爺さんの孫娘”の結婚式ですってば。爺さんが結婚するわけないでしょ。

 まったくもう。そんなにルゥが心配なら、今日はもう帰ってもいいっすよ?」


「いや、そうもいかん。ギュンター、おまえには苦労をかけるが、王都に戻ることにした」


「・・・そうですか。いつ?」


「ここから王都までにかかる日数と、向こうでの準備を考えると・・・ちょうどその結婚式の後だな。

 式が終わったら発つよ」


「わかりました。隊員たちには俺から言っておきます。

 今月の報告書、まだ郵便屋が来てないんで出してなかったんすけど、一言添えますか?」


「そうだな。おまえが補佐官でよかった。

 前隊長としての評判と補佐官としての仕事ぶりも追加しておく。俺の後任はおまえだろうから」


「カール隊長に比べたら、俺なんてガキ大将程度(レベル)だったと思い知らされたんすけどね。

 隊長が来てからいままでの流れを大事にしたいんで、後任に推してもらえると助かります。

 あと2週間か・・・忙しくなりますね」


「あぁ、すまんな」


「いえいえ。ただし明るいうちに家に帰れるとは思わないでくださいよ」


「う・・・そうか・・・。今日も?」


愛を交わしたばかりの、愛しい愛しいルゥが待っているんだが。


「今日もだめっす。猫のために休むのも、当分だめです」


「うぅ・・・」


自分で決めたこととはいえ、帰れないのは辛い。

ルゥに会いたい。

早く帰って、やわらかな身体を抱きしめたい。


「とりあえず報告書の追記ですかね。引継ぎ書の作成もあります。

 引継ぎ書は・・・まぁ、家でもできるかもしれませんが。ルゥちゃん、具合悪いんすよね」


「いいよ。兵舎ここでやっていく。書き方教えてくれ」


「はい。さくさく終わらせて、早く帰れるようにがんばってください」


ギュンターが前回俺のために書いた引継ぎ書を参考にしながら、これまでのことをまとめていく。

1年に満たないといっても、それなりに書くことはあるもんだ。

特にこれからの課題については、ギュンターや隊員たちの役に立つよう細かく記していく。


「隊長、今日はそろそろいいんじゃないすか。

 一日で仕上がるもんでもないでしょ」


夕方、ギュンターが明かりを持ってきた。

手元が見づらくなってきたと感じていたところだった。

気が利く男だ。


「隊の奴らには話しましたよ。結婚式の後、壮行会がしたいそうです。

 許可をいただけますか?」


「許可ったって・・・。悪いな。頼む」


「彼らのお礼の気持ちですからね。盛大にやりますよ。覚悟しておいてください」


「ははっ、覚悟ってなんだよ」


「牛とか縄とか聞こえたから、騎牛ロデオとか」


「見るだけか? まさかやらされるんじゃ」


「どうでしょうね」


「お、おいおい」


盛り上げようという気持ちは嬉しいが、出立前にけがさせられたんじゃたまらないぞ。

ギュンターはにやにやと笑っている。

他人事ひとごとだと思って、こいつは・・・。




そんな話をしていたら、帰りがすっかり遅くなってしまった。

家路につくと、カーテンの隙間から温かな光がもれていた。


「ただいま、ルゥ」


「おかえりなさい」


今日も食欲をそそるいい匂いがする。

風呂ももう入れるようだ。

でも俺が欲しいのは・・・。


「んんっ・・・あ、ふ・・・・。

 カール、これただいまのキスじゃないでしょっ」


べりっとはがされた。

下心を読まれたか。


「夕飯の後ならいいか?」


「え・・・」


途端に顔を赤らめるルゥ。


「それとも一緒に風呂に入ってくれるか? もちろんこのままの姿で」


「え、ええっ!?」


身を引こうとしたルゥを離さず、真っ赤になった耳を甘噛みする。


「じゃぁ夕飯のあと、一緒に風呂に入ろう。それまでおあずけな」


耳元でささやいてから、たっぷりと口づけた。

自分で立っていられなくなったルゥを抱えて、食卓についた。






サブタイトル、”きぬぎぬ”です。

ルビがふれませんでした。

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