10 告白
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私ったら、いつのまに寝てしまったんだろう。
気付けば朝で、カールの腕の中にいた。
今日は朝ごはんを作ろうと思っていたから、カールを起こさないようにそっと寝台から出る。
人に戻って着替えて、朝食の準備にとりかかった。
昨日作っておいたパン生地に、刻んだ燻製肉を混ぜて焼く。
卵は、カールは半熟、私は固焼き。
昨夜のスープを温めて、お茶用のお湯を火にかけてカールを起こしにいった。
「おはよう、カール」
上掛けを頭までかぶって、丸くなっている。
膝を曲げないと寝台からはみだしてしまうので、いつもこの姿勢だ。
「カール、朝だよ」
比較的寝起きのいいカールが、今日は肩をゆすっても起きない。
昨夜遅かったのかな。
「カール?」
上掛けを、顔のところだけめくってみた。
やっぱりぐっすり眠っている。
「カール」
つんつん。頬をつついてみる。ちょっと髭が伸びている。
「カール、起きて」
つんつんつん。まだ起きない。
猫ならば前脚でたしたし!っと叩くところなんだけど、人の姿だから、指で鼻をつまんでみた。
「ん、んん・・」
あ、苦しそう。
孤児院で、小さい子がなかなか起きないときにやったんだよねぇ。
これでも起きないときは・・・あ、忘れてた。お湯! 火にかけてたんだ!
慌てて台所に戻ろうとしたとき、ぐいっと腕をひっぱられた。
「きゃぁ!」
そのまま寝具の中に引きずり込まれる。
「カール、だめっ、お湯が・・・んんっ」
唇をふさがれた。
さらに足や背中を撫でられる。
「ちょっ、カール・・・んっ・・・今、私、猫じゃな・・・」
腕をつっぱろうとするけど、カールの力にかなうはずもない。
息継ぎをするのが精一杯で、またキスをされる。
「あっ・・・ふぅっ・・・。え!?」
カール、やっ、そこ、胸・・・・!
「カール!! 起きて!!!!!」
耳元で叫び、腕が緩んだ隙に台所に逃げた。
沸騰したお湯はもうなくなりかけていて、危うくお鍋をだめにするところだった。
水を足して沸かし直す。
お茶を淹れていると、寝室でごそごそと音がした。
ようやく起きたみたい。
びっくりした。あんなところまで触るなんて。
カール、寝ぼけすぎだよ、もうっ
猫ならば体中撫でられても平気なんだけど、人の姿では恥ずかしい。
思い出すだけで胸がどきどきして、カールに触れられたところがじんじんと熱い。
毎朝これじゃ、心臓が持たない。カールを起こすときは、気をつけなくちゃ。
「おはよう、ルゥ」
「お、おはよう」
起きてきたカールは、ビシっと隊服に着替えていて、先ほどまでの寝ぼけぶりは微塵も感じられない。
食卓に片手をかけて、かがみこんで私におはようのキスをする。
「うまそうだな。朝食、作ってくれたんだ」
「うん・・・・」
どうしよう。カールの顔がまともに見られない。
かあぁっと熱くなった頬を、両手で隠す。
「ルゥ? どうした?」
「な、なんでもない。スープ、冷めちゃったかな。温める?」
「いや、もう行かないとならないから、冷めてるくらいでちょうどいい。
昨日遅かったから、寝すぎたな」
やっぱり昨夜遅かったんだ。仕事、あったのかな。
いってらっしゃいのキスをして、カールを見送る。
お夕飯はどうしようかな。
カールってお給料どれくらいもらってるんだろう。
猫と人の食費じゃ違うだろうから、ごはんのときは私は猫のほうがいいかな。
あんまりお金かけさせちゃ悪いし・・・。
夕食のとき、勇気を出して聞いてみたら、苦笑いされた。
「そんなに頼りないか? 左遷されたとはいえ、隊長職だぞ。
たぶん同世代の倍はもらっている。ルゥがどれだけ食べたとしても、ありあまるさ」
そ、そうだったんだ。
孤児院育ちでいつも節約していた私には、倍といわれてもわからないけど、お金の心配はいらなかったみたい。
「貯金は、こっちに来てからの分しかないな。やけを起こして遣ってきてしまったから・・・。
それでも1年は遊んで暮らせるくらいはある。何か欲しいものはあるか?」
「ううん。今日香草は買ってきてくれたし、何もかも、私には十分すぎるくらい。
カールの側に置いてくれれば、他には何もいらないの」
「ルゥ・・・」
カールが手を伸ばして頭を撫でてくれる。
猫のように頬をすり寄せれば、顎をとられて口づけられた。
カールは何かというとキスをしてくるから、だんだん何のキスか考えるのをやめてしまった。
ただ、自然に、そうしたいときにすればいいのかなと思う。
お風呂からあがり、ちろちろと弱く焚かれた暖炉の前で、お茶を飲む。
カールは先ほどから、じっと何かを考え込んでいる。
どうしたんだろう。
空になったカップを片づけて暖炉の前に戻ると、カールの膝の上に横抱きに乗せられた。
「お、重くない?」
「ははっ、ルゥなんて鳥の羽根くらいの重さしか感じないさ」
「そうかな」
いくらなんでもそんなことないと思うんだけど。
でも、眉間にしわをよせていたカールが笑ってくれたことでほっとする。
「ルゥ、あのな・・・」
「うん?」
「俺と一緒に王都に行かないか」
「王都?」
「あぁ。ミレイユが指示書を持ってきただろう。ブルクハルト国王の親衛隊員として声が掛かった。
近衛騎士が、目立つ対外的な護衛を司るのに対して、親衛隊は普段は普通の騎士団として王城の警護や訓練をしているんだが、有事には国王の勅命を受けて独立した動きをするんだ。
よほど信頼のおける者でないと就けない仕事だから、とても名誉なんだ。
一度左遷された俺なんかがなれるもんじゃないんだけどな」
「なんだかすごいね。私なんかが一緒に行ってもいいの?」
「ルゥに、一緒にいてほしい。親衛隊員は王城の周りに家を一軒もらえる。
そこに一緒に住んでくれないか。俺の・・・妻として」
「えっ・・・・」
つ、妻!?
妻って、妻って、あの妻!?
えええええ!!!???