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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第3部
37/100

9 新婚さんいらっしゃい?

*****




朝起きたら、ルゥはすっかり元気になっていた。

よかった。

猫のルゥにおはようのキスをして、人型になってくれないかと頼む。

変化してから、もう一度おはようのキスをした。

頬を染める姿が愛おしい・・・が、素肌の感触に悩まされる。

いかん、朝から何を考えているんだ。


「君の服を用意しないとな」


「あー・・・実は、あるの」


ルゥに頼まれて、居間に置いてあったクッションを持ってくる。

ボタンで留められた口を開けると、中から女物の服がでてきた。


「エメさんがくれたの」


袖なしのワンピース。

以前見かけた服は、そんなところに入っていたのか。

あの女魔術士め。

もう一つのクッションも含め、数着あるらしい。

この村で女物の服を求めるのは難しそうだから(今度こそ何を言われるかわからない)、正直、助かった。

毎日俺のシャツを着られたら、貧血になりそうだ。


ルゥが身支度を整えている間に、朝食を作る。

食卓に向かい合って座り、同じものを食べる。

そんなささやかなことが嬉しい。


「あのね、カール。お夕飯、私が作ってもいい?」


それは、人型のルゥが、夕飯を作って俺の帰りを待っていてくれるということか。

嬉しい。嬉し過ぎる・・・!


「あの、あの、もしよければ、なんだけど。そんなにお料理に自信があるわけじゃないんだけど・・・」


喜びのあまり声もでない俺をどう思ったのか、だんだんとうつむいていくルゥ。


「いや、嬉しい。楽しみにしてる」


そういうと、ぱっと顔をあげて花のように微笑んだ。

“花のように”・・・。

くっ・・・・俺にそんな表現ができるようになるとは・・・!


家の片づけもしてくれるというルゥに、家からは出ないこと、カーテンは閉め切っておくことを約束させる。


「あ・・・。こんな私、他の人に見られたら恥ずかしいもんね」


「そうじゃない。なんと言えばいいんだ? 見られたくないのはそうなんだが、理由が違う」


「髪や目の色が気持ち悪いからでしょう? 不吉な色だから・・・」


「君の髪も瞳もきれいだよ。そうじゃない。俺以外の、誰にも君を見せたくないんだ」


わかったのかどうか、ルゥはとりあえずこくんと頷いた。

彼女は人型の自分の容姿に、かなり劣等感があるらしい。

俺は、人目について余計な虫がつくほうを心配しているのだが。


いってらっしゃいのキスは、彼女は背伸びをしながらで、俺は身をかがめて。

どこからどうみても新婚の風景に、気恥ずかしくも嬉しくて仕方ない。

ルゥは俺とのキスをあいさつだと思っているようなので、そこは存分に利用させてもらう。

しかし、ということは俺が「好きだ」と言ったのは、どう思っているのだろう。

まさか猫が好きとか肉が好きとかと同じように考えているのではないだろうな・・・。




「隊長、ルゥちゃん元気になったんすね」


「あぁ。昨日は急に休んで迷惑をかけたな」


「いえいえ、大丈夫っすよ。柵の補強と井戸蓋の点検・補修の報告がこれです。

 コメット爺さんの孫娘が結婚するんで、広場を使うって連絡がきてます。

 会場の設営は有志でやるようですけど、できれば手伝ってほしいって」


「わかった。人選はまかせる。あとは?」


「そんなところっすかね。あ、ここに署名サインください」


ギュンターが差し出した書類にサインをする。

元々こいつが隊長だったのだから、俺などいなくても大丈夫だ。

やはりルゥを連れて王都に帰るか。

窓の外を見ると、隊員たちが行進の訓練をしていた。


「あれは?」


「やつらが自主的に始めたんすよ。基本教練の写本作りをしたでしょ?

 あれがよかったみたいで、一から順番にやってみようって。

 隊長に教わったこともたくさんあるから、結構できるのがうれしいみたいで、昨日からやってます」


「そうか」


てんでバラバラだった彼らだが、ずいぶん警備隊らしくなってきた。


「入隊希望もちらほらありますよ。この間までは義務で仕方なく入ってた感じですが。

 かっこいいって言われるようになったからでしょうね。夏の募集が楽しみです」


辺境の警備隊のほとんどは現地の徴兵だ。

ここでは、18歳から40歳までに3~5年間入隊する義務を課している。


「これもカール隊長のおかげっす」


「何を急におだててるんだ」


「ははっ、心はもう王都にあるような気がしたんで。最後に決めるのは隊長っすけど、俺らはずっと居てほしいんですからね」


「・・・ありがとう」


うっかり涙腺がゆるみそうになって、再び窓の外に視線を移した。


「足の上げ方が甘いな。顎が出てるから姿勢が悪いんだ」


「直接指導してやってください。喜びますよ」




その日一日訓練に費やし、くたびれて帰ったらルゥが出迎えてくれた。

家中いえじゅうにいい匂いが立ち込めている。


「おかえりなさい」


「ただいま」


キスをしてからぎゅっと抱きしめた。

腕の中にすっぽりとおさまってしまう、かわいいルゥ。


「お風呂も用意したの。先に入る?」


こ、これは、以前結婚した同僚が言っていた、「お風呂にする? ごはんにする? それとも・・・」のことか!?


「カ、カール? 大丈夫!?」


しゃがみこんで急に鼻と口元を押さえた俺を心配するルゥ。

だだだ、大丈夫だ。ただの鼻血だから・・・。


「お風呂はあとのほうがいいねっ。ごはんの用意するから、座ってて」


焼きたての丸いパンと、細かく刻んだ野菜のスープ。

カリカリに焼いた燻製肉ベーコンに、ゆでたじゃがいもが添えてある。


「材料、適当に使っちゃったけど平気?」


「あぁ。足りないものがあったら言ってくれ。兵舎に行商人が来るんだ」


「乾燥させた香草ハーブが何種類かあるといいな。今日はお庭にあったの使っちゃった。

 あ、ちゃんと猫の姿でとりにいったよ!」


庭にそんなものが生えていたのか。前の住人が植えていたのだろうか。

どおりで香りが違う。

料理に自信はないと言っていたルゥの言葉は謙遜で、どこで覚えたのかヨシばあさんよりずっとうまかった。

食材は同じなのに、味付けが上品で、王都の料理屋で食べるようだ。


「わかった。このパンもうまいな。何か入ってる?」


「えっとね、刻んだバジルを練り込んでみたの。バターも多め。・・・贅沢だった?」


「いや、本当にうまいと思って。ルゥは料理が上手だな。これから毎日楽しみだよ」


「よかったぁ。ちょっとどきどきしてたの。カールの口に合わなかったらどうしようって」


俺がいない間に、俺の事を考えて料理をしてくれていた。

そのことがより一層、おいしく感じさせる。


「風呂、どうする? 一緒に入る?」


「え・・・・っ も、もちろん猫の姿でだよね?」


「俺はどっちでもいいぞ」


さっき寝室で鼻血を止めるついでにヌいておいたから、たぶん大丈夫。


「ね、猫でお願いします。カールに洗ってもらうのは好きなの。いい?」


上目使いで様子を伺ってこられて、今すぐにでも押し倒したくなる。

いかん。全然大丈夫じゃない。


「あぁ。じゃぁ食休みしたら一緒に入ろう」


「うん」




猫のルゥを、いままでよりさらに丁寧に洗ってやった。


「あぁん、カール、そこ気持ちいい」


「ここか? こっちは?」


「そこも、もっと・・・」


猫でもしゃべれるとは驚きだ。

膝の上で洗ってやるのはいいのだが、足にはさんで隠した箇所が辛い。

よくすすいで、一緒に湯船につかる。

俺の肩につかまったルゥは、とろんとした目をして気持ちよさそうに尻尾を泳がせていた。


「眠そうだな。先にあがるか?」


「んなー・・・」


うーむ、鳴くのと話すのとはどう使い分けているのだろう。

どちらもかわいいからいいか。

ずるりと落ちそうになったルゥを、拭きあげて浴室の外に出してやる。

よろよろと暖炉の前まで行くと、ぽてっと横になったのが見えた。

春とはいえ朝晩は冷えるので、火を残しておいてよかった。

今日一日人の姿でがんばって、疲れたのかもしれない。

猫から人になるのは、体に負担がかかるのだろうか。


風呂から上がり、ルゥを寝室に運ぶ。

早く帰ってくるために持ち帰ることになった仕事を片づけていたら、結構遅い時間になってしまった。

ルゥとの時間を大切にしようと思うと、仕事との兼ね合いが難しいな。

こんな悩み、遊びで女と付き合っていた頃は思いもつかなかった。

他のやつらはどうしているんだろう。


明かりを消し、丸くなって眠るルゥの隣に滑り込む。


「おやすみ、ルゥ」


人型でキスができなかったのが残念だった。







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