8 幸せの涙
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いい匂い。
くぅとお腹が鳴って目が覚めた。
枕元には湯気をたてるチーズリゾット。
「起きたか」
水差しを片手に、カールが扉を開ける。
その姿を見ただけで、じんわりと涙が浮かんだ。
「ルゥ!? どこか痛むのか?」
水差しを置いて、慌てて近付いて来るカール。
「ううん、大丈夫。うれしくて・・・幸せで、涙がでちゃうの」
おでこに手を当てていたカールは、ほっと胸をなでおろした。
「驚かすなよ。
腹具合が悪いわけじゃなさそうだから、好きなもののほうがいいかと思ったが、食べられそうか?」
カールがリゾットのお皿とスプーンを手にする。
長細いお米が、チーズとからんでとってもおいしそう。
「うん、ありがとう」
体を起こしてお皿を受け取ろうとしたけど、持たせてくれなかった。
「口開けて」
「えっ、もう自分で食べられるよ」
「だめだ。ほら」
スプーンをぐいぐい押し当てられて、口を開けた。
朝ごはんのときは、なんで人の姿でいいんだろうって方に気がいってたから平気だったんだけど、なんだかすごく恥ずかしい。
「うまいか?」
「うん、すごくおいしい」
ゆっくり噛んで飲み込む。
やさしい塩加減とお米の甘みが、体に染みわたる。
カールは私の返事を聞くと、嬉しくて仕方ないという風に微笑んで、二口目を口元に運んできた。
どうしても、私に「あーん」とさせたいらしい。
まったくもう、甘いんだから。
人の姿になっても変わらない、ううん、それ以上の愛情を示してくれるカールに、感謝の気持ちでいっぱいになる。
気味悪がられて捨てられると思ったのに、こんな私をまるごと受け入れてくれた。
「また泣いてる」
「だって・・・」
まだ半分以上残っているお皿を置いて、カールが目元に滲んだ涙を舐めた。
「やっ、何・・・」
「悲しいわけじゃないとわかっていても、君の涙を見るとせつなくなる」
深い碧の瞳が細められる。
カールに辛い思いをさせるのは嫌だったから、ぐっと力を入れて涙を我慢した。
「ふっ、そんなに無理しなくてもいい。泣くなとは言わないさ。
そのかわり、泣くときは俺のところで泣いてくれ。他のやつの前とか一人で泣くとかはするなよ」
んん?
私が泣いているのを見るのは嫌だけど、他の人の前や一人で泣くのはもっと嫌なの?
変なの。
両の目の涙を舐めとったカールは、そのままキスをしてきた。
朝からもう何回しただろう。
あいさつには十分だと思うんだけど。
そう言ったら、
「あー・・・あいさつ。あいさつね」
カールの目が泳いだ。
「違うの?」
「違わない。あいさつって何回してもいいだろう? 俺はルゥが好きだから、何回だってしたいんだ」
「えっ、そ、そう・・・」
好きと言われて胸が高鳴る。
勘違いしちゃだめ。
カールの好きは、猫が好きとかチーズが好きとかの好きなんだから。
この姿でもいいって言ってくれただけで、満足しなきゃ。
でもあいさつってわかってても、口にキスされると変な気分になる。
「残り、自分で食べるか?」
「うん」
ようやく渡されたお皿にほっとする。
カールの側にいたいけど、カールが側にいるとどきどきするの。
「顔が赤いな。また熱が出てきたか?」
大きな手が額に当てられる。
カールに触れられてると思うだけで、さらに頬が熱くなる。
私、どうしちゃったの?
「ちょっと待ってろ。薬湯を作ってくるからな」
真っ赤になった私を見て、カールは台所に行ってしまった。
ごめんね、具合が悪いわけじゃないんだけど・・・。
蜂蜜入りの薬湯を飲んで、午後もたっぷり寝たら元気になった。
今日ってもしかして、カールにお仕事休ませちゃった?
うわぁ、どうしよう。
「たまにはいいさ。1日や2日俺がいなくても、たいして困るわけじゃない。
いや、ずっといなくたって・・・」
そういえば、カールの妹さんが王都から手紙をもってきたんだった。
ミレイユさん。
元気な女の人だったなぁ。
カールの妹だけあって、すごく美人だった。
カールが辺境に異動してきたのってなんでなんだろう。
ミレイユさんは女性関係がなんとかって言ってた。
カール、モテそうだもんね・・・。
「一日よく寝たからな。ごほうびだぞ」
夕食のあと、カールが出してくれたのは”アイスクリーム”。
初めて食べた! 甘くて、冷たくて、なんておいしいの!
喜んで食べてたら、「味見してなかった」と言って唇を舐められた。
言えば一口くらいあげたのに。
「カールも食べる?」
「俺はルゥが食べ・・・いや、なんでもない」
おやすみのキスは、やけに長かった。
2人で寝ると狭いかなと思ったので、私は猫になって丸まった。
カールは人型で大丈夫と言ったけど、猫になった私を見て全身を撫でまわした。
やっぱり猫の方が好きなのかな。
猫の方が顔が赤くなってもわからないから、もうしばらく猫の姿でいようかな。
お月様の「白猫の恋わずらい~月光編~」に”アイスクリーム”投稿しました。