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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第3部
34/100

6 春


*****




えーっと。

これはどういうことなんだろう。


「食べられるか?」


カールがミルクで煮たパンをスプーンですくってくれる。

あーんと口を開ければ、一口ずつ入れてくれた。


「うまいか?」


うん。お砂糖が入ってて、甘くておいしい。

それはいいんだけど。


「髪が邪魔そうだな。しばるか?」


ふるふる。

首を振ると、カールは苦笑して、頬にかかった髪を避けてくれた。

そう、私は今、人型ルチノーでいる。

カールのシャツを着て、枕を背もたれに寝台に身を起こしている。


人型の私の手を握ったカール。

あれは夢じゃなかったのか。


「熱は・・・だいぶ下がったな。一応薬湯も飲んでおけ」


カールが私の額に手を当てて熱を診る。

ほどよく冷めた薬湯は、ちょっと苦かったけど蜂蜜の味でなんとか飲めた。

これ、前にもどこかで飲んだことがあるような・・・?


「眠くなくても、横になってろよ。居間にいるから、何かあったら呼べ」


私の背中を支えて横たわらせてから、空になった食器を持ってカールが席を立つ。

こくりとうなずいたけど、カールがいなくなるのは寂しい。病気のときって心細くなる。


「くす、そんな顔するな。すぐ隣の部屋にいるんだから」


そういって、寝台にもぐる私に軽くキスをした。

人の姿でのキス。

かあぁっと頬が熱くなって、思わず上掛けを鼻の頭まで引き上げた。。

カールはそんな私の頭をぽんぽんと撫でて、部屋から出て行った。


私がルゥってわかってるんだよね?

この姿でいいの? 気味悪くないの?


窓からは春の陽が差し込んでくる。

ぽかぽかとした日差しに誘われて、いつのまにかまた眠ってしまった。




*****


「補佐官、今日隊長休みなんすか?」


「あぁ。山羊乳ミルクの配達に行ったノイさんがこと付かってきた。ルゥが熱を出したんだと」


「猫の看病で休みっすか・・・」

「隊長らしいっすね」

「んだ・・・」


「赴任以来、全然有休とってなかったからな。たまにはいいんじゃないか」


「そうっすね」


*****




ふっ。

思わず笑みがこぼれた。

人型でいるのに俺が普通に接するから、ルゥは困っていた。

俺をちらちらと見ては、何か聞きたそうにするが、結局一言もしゃべらない。

あのかわいい声が聞きたいのに。


いや、かわいいのは声だけじゃないな。

スプーンを差し出したときに遠慮がちに口を開ける動作とか、キスをしたときに真っ赤になった顔とか。

むしゃぶりつきたくなる。


「いかん。病気が治ってからだ」


猫でも人でも離さないと決めた。

長く人の姿でいられるなら、王都のほうが暮らしやすいだろう。

あの容姿はこんな辺境では目立つ。

いろいろな人種がいる王都ならば、さほど気にされないのではないか。


食器を洗い、洗濯をする。

今日は休暇をとった。

また隊員たちにからかいのネタを提供してしまったが、先ほどの心細そうなルゥを思うと休んで正解だった。


寝室をのぞくと、ルゥは眠っていた。

昨夜とは違い、規則正しい寝息が聞こえる。

換気のために窓を開け、はみだした手を寝具に入れてやろうとしたら、きゅっと握られた。

それだけで、俺はその場から動けなくなる。


胸の動悸を感じながら、寝台の横に座り込む。

つないだままの手を寝具の中に入れ、もう片方の手でルゥの頭を撫でた。

口元が何か言うように動き、にっこり微笑んだ。

いい夢を見ているようだ。


日の光が温かく、さわやかな風が花の香りを運んでくる。

遠くで鳥の声が聞こえる他は、何の物音もしない。

まるでここだけ時間が止まってしまったかのようだ。

すやすやと眠るルゥ。

俺の、ルゥ。


まばたきをする一瞬すら惜しい気持ちで、俺はいつまでもルゥの寝顔を見ていた。




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