5 熱
*****
風邪をひいた。
昨夜からちょっとおかしい感じはしてたんだ。
くしゃみが出るし、体がだるい。
朝カールを見送ってから、ぶるりと寒気が来て、夕方には熱が出ていた。
帰ってきたカールを出迎えたまでは覚えているけど、その後の記憶がない。
頭がガンガンと痛む。
息が熱い。
苦しい。
助けを求めるように手を伸ばすと、大きな手がそっと握ってくれた。
カールだ。
乾いた布で、額の汗をぬぐってくれる。
あぁ、これはきっと夢だ。
熱のせいで、夢を見てるんだ。
だって私の手は人間の手なのに、カールが平然と側にいる。
髪を撫でて、人ならば気味悪がるはずの目を、心配そうにじっと見つめてくる。
たぶん実際には猫の私を看病してくれてるんだな。
これは、本来の私を受け入れてほしいっていう、私の願望が見せた夢。
*****
ルゥが熱を出した。
出がけにだるそうにしているとは思ったが、兵舎から帰ってきてみればふらふらで、出迎えと同時にぱったりと倒れた。
「ルゥ? おい、ルゥ!」
抱き上げて見れば、体が熱い。
昨日のくしゃみは風邪の前兆だったか。
寝台に運び、寝かせてやる。
猫ならば寝かせておけばそのうち治ると思うが、ルゥの場合はどうなんだろう。
夕食と風呂を済ませてルゥの様子を見に行くと、熱のせいなのか、人型になっていた。
はぁはぁと荒い息をしている。
上気した頬。額に浮かぶ玉の汗。
かなり苦しそうだ。
「うぅ・・・」
上掛けの下から白い手が伸ばされる。
そっと握ると、うっすら目を開けた。
赤い瞳が熱でうるんでいる。
額の汗を拭いて、頬にかかる髪を梳く。
ルゥは一瞬不思議そうな顔をしたが、にこっと微笑むとまた目を閉じて荒い息を繰り返した。
人型でいるならば、人間用の薬湯を飲ませてもいいだろうか。
握った腕を寝具の中に入れ、薬湯の用意をする。
少し苦味があるため、蜂蜜をまぜてやった。
吸いのみなどないから、普通の汁椀に入れてきたが、どうやって飲ませたものか。
苦しそうに眉根を寄せるルゥを抱き起こす。
上掛けがずれて肩があらわになるが、できるだけ見ないようにする。
「ルゥ、熱さましだ。飲めるか?」
口元で椀を傾ける。
「・・・んっ、ごほっ、ごほごほっ」
いくらも飲まないうちに吐き出してしまった。
「ルゥ。ちゃんと飲まないと治らない」
仕方なく。そう、仕方なくだ。
俺は薬湯を口に含んだ。
ルゥの顎をとり、上向かせる。
開いた唇に、己のそれを重ねた。
こくり。
細い喉が動く。
ちゃんと飲んだのを確認して、二口目。
「んっ・・・はぁ・・・・っ」
嚥下の合間に吐息が漏れる。
熱のせいで体が熱いのはわかっていても、口移しを繰り返すうち、頭の芯がしびれてくる。
肩を抱き、最後の一口を飲ませる。
量が多かったのか、口の端からこぽりとこぼれた。
あふれた薬湯を舌で舐めとる。
甘いのは蜂蜜か、ルゥか。
確かめるように下唇をなぞった。
「ん・・・・」
「ルゥ・・・」
薄く開けられた口からのぞく小さな舌に誘われ、必要もないのに再度唇を重ねた。
いつまでも触れていたい、やわらかな感触。
「カール・・・・?」
真紅の瞳が俺をとらえ、戸惑いに揺れる。
限界か。
「おやすみ、ルゥ。早く治せ」
「うん・・・」
寝台に横たえ、肩まで上掛けを掛けた。
髪を撫でて、こめかみにキスをする。
ルゥは安心したように目を閉じた。
寝室の扉を閉め、居間の椅子に腰かける。
「はぁ・・・・」
机に肘をつき、顔を両手で覆う。
脳裏に浮かぶのは、先ほどのルゥ。
汗ばんだ肌。
熱い吐息。
うるんだ瞳に赤く染まった頬。
唇はどこまでもやわらかく、舌を吸えば小さな声が漏れた。
彼女が猫でも人でもいい。
もう、離せない。
お約束ですが、入れたかったんです~。
カール兄さん、開き直ってロックオンです(笑)