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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第1部
3/100

3 名前は?

*****



カリカリカリ


カリカリカリ


頬を小さな爪でひっかかれて目が覚めた。


「・・・おはよう。なんだ、腹減ったのか?」


俺の胸の上に乗って、覗き込む子猫がいた。

目やにだらけの目をうっすら開けている。


「赤いなぁ。充血してるのか。

拭いてやるから、飯はその後だ」


子猫を肩に乗せ、台所にある水瓶に向かう。

子猫は小さな爪を精一杯伸ばして、俺の肩にしがみついている。


・・・一晩でずいぶん懐いたもんだ。


そう思うと口の端が無意識のうちに上がる。

昨日無理矢理寝台に連れ込まなかったのがよかったのか、子猫は自分から近づいてきた。

肩にかかる頼りない重さがくすぐったい。


濡らした手巾で丁寧に目元をぬぐってやると、ようやく子猫は両目をしっかり開けることができた。


「あれ、充血じゃないな。元々赤い目なのか。きれいだなぁ!」


わきの下に手を入れて抱き上げ、紅玉ルビーのような目をじぃっと見る。

白猫といえば青目か黄目。

左右の色彩が異なるオッドアイも飼ったことがあるが、赤目は初めてだ。


「真っ白で赤目か。うさぎみたいだな。名前、うさぎにするか」


「なぁうー」


「ん?嫌なのか。じゃぁスノゥは?」


たしたし!

手の甲を前足で叩かれた。


「それもだめか。ルビーでどうだ」


「なぅ!」


「ル?」


「んなっ!」


「ビー?」


たしたし!


「なんだよ。ビーはいらねぇのか。

 じゃ、ルゥな。おまえの名前は今日からルゥだ」


なぁうー・・・


なんだかもう少し言いたいことがありそうだが、しょせん猫語。

名前はルゥにした。


「さて、俺は仕事だ。昨日の雨で異変がなかったか見回りをしてくる。

 大人しくしてるんだぞ」


本音を言えばルゥと遊び倒したかったが、後ろ髪をひかれる思いで家を後にした。

今日は早く帰ってこよう。

そう心に決めて。




*****




私を拾ってくれた親切な人は、とっても大きかった。

子猫目線だからではないと思う。

室内の家具は一般的なものだと思うけれど、鴨居にいつも頭をぶつけそうになっていて通るたびにかがんでるし、寝台からは足がはみでていた。

体格もがっしりしていて筋肉質。

ごつごつした手は、私を撫でるときはとても優しい。

年はよくわからない。

髪だか髭だか区別がつかない毛が顔を覆っていて、はっきり見えないから。

40代かな、と思ったけれど声は若いような気がする。

かろうじてわかるのは、髪の毛の隙間から覗く瞳が深いみどりであること。

私を見ると途端に細められ、笑顔の形になる・・・はずなのだがこれがとても怖い。

にんまり、というのかな。

ひげもじゃの口の端があがり、目じりが下がる。

本来ならごく一般的な笑みの形のはずだ。

それがこの人の場合、元々の不審者面ふしんしゃづらが奇妙に歪み、“悪鬼が残忍な方法で敵を葬る方法を思いついた”みたいな凶悪な顔になるのだ。

はじめてごはんをもらったとき、私を見つめるその顔があまりに怖くて部屋の隅に逃げてしまった。

本当はあたたかそうな布団で寝たかったのに。


だから今日は勇気をだして起こしてみた。

彼の顔も見慣れれば平気になるかもしれない。

周囲に気味悪がられて生きてきた私が、人様ひとさまの顔に文句をつけるなんておこがましい。

ましてや彼は命の恩人。

怖いなどと言っては失礼だ。


しかも名前もつけてくれた。

「ルチノー」と一生懸命言ったんだけど、さすがにそれは通じなかったみたい。

でも「ルゥ」という本名に近い名前をつけてもらえた。

すごくうれしい。


早く帰ってこないかな。

今度は彼の名前を知りたい。




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