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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第3部
29/100

2 ミレイユ


*****




シャー!

ルゥが足元で毛を逆立てて威嚇している。


「大丈夫だ、妹だよ」


「ふに?」


俺にぶら下がるように抱きついてきたミレイユを、べりっとはがす。


「あら、かわいい猫。おいで~」


猫好き一家の一員であるミレイユは、しゃがみ込むとルゥに手を差し出して招こうとする。


「気をつけろよ。結構気が強いんだ」


「大丈夫、大丈夫。チッチッチッ、ほーら、お姉ちゃんだよ~」


鼻先で、人差し指と中指をちらちらっと動かす。

ルゥは興味を引かれたようで、徐々に近づいてふんふんと鼻を鳴らした。


「きれいな猫ねぇ。瞳が赤いのね」


「そうなんだ。ちょっと前に拾ってな」


ミレイユがちょいと顎をつつくと、びくっとしたルゥが反射的に爪を繰り出した。

おいおい、ひっかかれるぞ、と思ったが、ミレイユのほうが一枚上手だったようで、ルゥの爪をひらりとよけると脇に手を入れて抱き上げてしまった。


「きゃぁん、ふっかふか!」


「ふぎーーー!」


暴れるルゥにおかまいなく抱きしめる。

しばらくじたばたしていたルゥだったが、あきらめたのかぐったりと身を任せた。

椅子を勧め、お茶を淹れて戻るころには、ミレイユの膝の上で丸くなって大人しく撫でられていた。


「さすがだな」


「だてに何十匹もお世話してないわ。早くに家を出た兄さんとは年季が違うのよ」


「そういうもんか?」


「そうそう。あら! このお茶、いい香り!」


「だろう。ここの特産だそうだ」


「へぇ。うちの店でも置いてみようかしら」


ミレイユは幼馴染と結婚し、王都で小さな店を開いていた。

自慢の赤毛を上半分だけ結い上げて、残りは肩に垂らしている。

着ている服もなかなかに上等で、商売は順調のようだ。


「で、今日はどうした」


「あら、久しぶりに会った妹にずいぶんなご挨拶じゃない?

 兄さんこそ、さっきの女の人はなぁに? 田舎に来て趣味が変わったの?」


ぴくぴくとルゥの耳が動いている。

ミレイユの撫で方が気に入らないのか。

抱き上げて俺の肩に乗せると、頬をすり寄せてきた。


「こいつに差し入れを持ってきてくれただけだ。世話好きなんだよ」


「ふぅん」


「なんだよ。おまえ、いつからいたんだ?」


「出てきたスヴァルさんに庭先で会ったのよ。立ち話をして別れたわ。あっちはまんざらでもないみたいだけど?」


「ははっ、馬鹿言うなよ。俺もここに来た頃はちょっとすさんでたからなぁ。心配してくれてるんだ」


「うん、まぁね。どんな暮らしをしてるのかと思ったけど、案外楽しそうじゃない」


「ルゥのおかげだな」


肩におすわりをするルゥを撫でてやると、目を細めてゴロゴロと喉を鳴らした。


「ルゥちゃんっていうの?」


「あぁ。自分で名乗ったんだぜ?」


「あはは、まさかぁ!」


本当ほんとだよなー?」


同意を求めるようにルゥを見つめると、「なーぅ!」と返事をした。

あまりのかわいさにキスをする。

最近、意識しすぎてついスキンシップを避けていたが、猫のときは猫だと思えばいいんだ!と開き直る。


「・・・らぶらぶね」


「いいだろう」


「はいはい。んん!? おそろいのペンダントまでしてるの?」


おっと、しまった。

ミレイユの目ざとさを忘れていた。

今日は休みだから、開襟のシャツを着ている。


「知り合いがくれたんだ」


「えええ、ちょっと見せてよ! はずさなくていいから」


引きちぎらんばかりの勢いに押され、首を差し出す。

多少引っ張られても苦しくないのは、魔術のおかげか。


「透明度の高い石ねぇ。相当高価よ? 貴族の指輪に収まっててもおかしくないくらい」


「そうなのか?」


「うん。知り合いって誰? まさか女の人じゃないでしょうね」


「女は女だが・・・」


ウーリーが連れてきた女魔術士を思い出す。

初めは若いのかと思ったが、時折見せる老成した表情といい、ウーリーの家庭教師をしていたという話といい、見た目通りの年ではないと思う。


「あああ、また! また女性! 兄さん、なんで辺境にとばされたか忘れたの!?」


顔を両手ではさまれて、がくがくと揺さぶられる。


「おまっ、や、やめろ、わかってるって。そんなんじゃないから!」


「来た途端、家から女が出てくるし! 貢ぎ物のペンダントしてるし!

 さぁ、あとは何!? 一緒に暮らしてる女でもいるの? 洗いざらい話しなさい!」


がくがくがく。

頭にしがみついたルゥも一緒に揺れている。

一緒に暮らしてる女って、ルゥか!?

人型になれます、なんて口が裂けても言えない。


「う、うるさい、話なんてないぞ。おまえこそ何しに来たんだ!」


「私のことはいいのよ! ほら! 早く話しなさい、この馬鹿兄貴!」


「兄にむかって馬鹿とはなんだーっ」




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